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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第零幕 神世、そして前世
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始まりは理不尽に (上)

「はぁ、やっと終わった」


 先日付けで倒産を迎えてしまった社内の薄暗い一室にて、作業服を着た、まだ若い男は手に持った書類をトントンと叩き整え、引き出しの中の封筒の中に収めていた。外はすっかり日が暮れ、夜の帳が下りている。建物の周りは田園地帯になっており、今の季節は、例年と同じように蛙が盛大に合唱していた。

 会社が倒産を迎えた前日の社内で行われた送別会(もっとも身内企業なので外部の社員は彼だけだったのだが)その席にて、社長、いや元社長から倒産後の残務処理の手伝いを依頼されたのだ。臨時手当が入るという言葉に釣られ、退社をもう一日伸ばすことにした彼は、そのまま会社のソファーで泊まり、翌日も会社で事務の手伝いをしていたのだった。


「社長、処理全部終わりました」

「■■君、すまないね。では締めて帰っちまおうか」 

「わかりました」


(さて、明日からどうするかな)


 元々、不景気の為に就職先が決まらなかった際に、卒業ぎりぎりで滑り込んだ会社だった。孤児であった彼は、在学中は、バイトしながら奨学金を貰うぎりぎりの成績をキープし続け大学に通うという暮らしをしてきた彼には、就職活動でも、豊富に使う時間もなく、金もなかった。


 当然彼には就職浪人などという贅沢な選択肢はなく、卒業までに内定が取れるならと今の会社で働くことを決めたのだった。


(高校時代、世話になった爺さん達に生前、大学に行くように強く勧められたけど、まさか卒業時にあんな就職難になるとはな。選択した業種が拙かった事もあるが、何より時代がかわったのかね。これなら高卒で就職活動してもよかったな) 


 おかげで、場末の会社に勤めてしばらくして、倒産の憂き目にあっている。

 出口のドアを開けながら、彼は、また、あんな就職活動を再開しなければならないのかと、内心で頭を抱えた。そしてドアの鍵をかけようと鍵穴に鍵を差し込もうとした。



 その時何かが振り下ろされた風切り音が聞こえた。


 次に聞こえたのは「ガッン」という衝撃音。いや、耳で聞いただけではない頭部から頭の芯へ伝わる衝撃がそのまま彼に音として認識された。


 ヒザがカクンと落ち、体が地面に横たわる。意識が朦朧とし何も考えられなくなる。


「……すまない」


 自分に向けられた謝罪の言葉。それが彼が生前に聞いた最後の言葉だった。 



 ◆◆◆



 ここは何処だ?


 さっきまで意識が朦朧としていたのだが、羽の生えた何者かに、ここまで連れてかれてから意識がはっきりしだした。周りに見えるのは石造りの白亜の神殿。ローマとかギリシャとかそんなファンタジー的イメージを物質化したようなそんな建物だ。

 エジプトのピラミッドとかそういう古代ロマン的な物が好きな俺はつい興味を引いてしまう。考えなしに、つい、柱を撫でてしまったが大理石とかそういうのとは違う不思議な感覚だった。


 とりあえず、少し落ち着こう、落ち着け。

 ……うん、とりあえずは、まずは状況確認から始めようか。


 たしか、事務所のドアを閉めようとしていた際に、後ろから殴られたんだ。その後、何故か俺は、俺の体を頭上から見下ろしていた。おぼろげな記憶の中の社長とヤクザらしい何人かの会話によると、まだその時は俺はまだ死んでいなかったらしいが、その後、俺は何処かに連れて行かれた後、コンクリート詰めにされて海に落とされたはずだ。コンクリート詰めされる前に何か注射されたようだが恐らく安楽剤だろな。


 以上から推測すると、


 ① 社長にはめられ、後ろから襲われた。

 ② その後、コンクリート詰めで東京湾にドボン

 ③ 幼い時に両親は死亡しており、天涯孤独な為、失踪しても事件になりにくい。

 ④ たぶん保険金目当ての犯行。恐らく各種保険とかの時に騙された。

 ⑤ 気づいたら羽を生やしたなぞの生物に連行された      ←いまここ!



 ……思い返すに碌な死に方じゃなかったね。

 もうゴールしてもよくね? いや、本当にゴールしてしまったのかもしれんが……。

 つうか、目の前を見てみれば、同じような奴らがたくさんいるじゃないか! 十代後半から50代前後くらいまで、まさに老若男女問わずである。 

 なんか、カイジの世界の「エスポワール」に集まった債務者みたいな印象をもったんだが、いったここはなんなんだろうか?


 後ろから、俺とおなじく呆然とした様子で男があるいてきた。うん、前の連中と同じく俺のお仲間らしい感じだ。突っ立っていてもしかたない、ここは情報交換と……。、 



 ――あれ~~?



 な、何かこの人、透けていませんか!? 気づけばあちらさんも同じく驚いた感じで俺を見てるし! ってよく見れば俺もか! わかった、うん、俺、死亡確定! でなければいつの間にか人間を辞めてしまっていたかだ。


 っていうか……、あの羽の生えた生物ってどう考えても”アレ”だよなぁ……。


 ははは、おかしいねぇ、つまり死後の世界ってわけだ。これは傑作だ。顔見知りにはめられて殺されたと思ったら、こんなところに行き着くとは。

 死後の世界があるってことは神様もいるのかね。あんな死に方をした後では神も仏もないって心境だがな。


 まあもっとも、神様を恨むのは筋違いだろうがな。

 何せ、俺はこれまで心から神様何かに祈ったことなどありゃしない。神に感謝したことも、恨んだことも……ないっちゃ嘘になるが、ある程度歳を重ねた後にはしなくなった。

 何故ならこの世界が尊いものではないことに気づいたから。正しいことが肯定されるとは限らないことを知ったから。社長も、俺を殺したヤクザも間違っちゃいない、ああ、許せないが間違っちゃいない。

 足を怪我した小鹿を狼が喰って非難されるべきなのか? 悪が断罪されない世界は間違っているのか? おいおい、夢見がちな嬢ちゃんみたいな事を言って自分を哀れむのも大概にしろよ。お前はただ負け犬の自分を慰めたいだけだろ。


 ああ、残念だ。生きてさえいれば、あいつらに落とし前をつけに行けるというのに。  


「これが死ぬって事か」


 やってられないね。来世など無ければいいのに。



 ◆◆◆



 なんだかんだで、俺がいる場所は、だんだんと俺みたいな死人が増えてきているようだ。なんか、気づいたら新しい人が増えてんだよね。目の前には溢れかえった人の形をした透き通った影絵、黒い黒い、のっぺらぼう。それらが歩き、頭を抱え、おのおの別個の行動をしている。恐らく、あれは俺と同じ死者だ。鏡がないので確認できないが、俺もあんな顔の無い”もの”になってしまっているのだろうか……。

 そう思うと思わず大声で笑いだしてしまいそうだ。別に楽しいわけではない、ただ無性に声を出して笑いたくなる。先ほど抑えきれず声をあげて笑った。もちろん周りはドン引きである。いやー、生前は色んな家庭にたらい回しにされて鍛えられたせいで、面の皮が厚いだの、鉄の心臓だの言われた俺だが流石に殺されては平静でいられぬらしい。

 まあ、それはそれとして、いい加減に何か状況に変化を求めたいところである。これから起こるのはDB的な閻魔さまとのご対面か、それとも最後の審判の日まで待ちぼうけか。何はともあれ、流石にここは神さんに物申す!!



 俺はっ!



 今すぐにっ!



 説明を要求するぅぅぅ!!



 ちっくしょう、消費者相談センターに電話すっぞ!!



 そう雄たけびを挙げているのは俺だけじゃないようで、この会場(?)は喧々囂々としているのである。 

 まあ、思い返せば、そんなに時間は経過していなかったような気もするが、俺自身の体感的にはそうとうな時間がたってから責任者らしく奴らがあらわれた。



「よお、俺はお前らが世界の神だ。とりあえず、お前らを歓迎する」


  

 ――何これ?




2011/02/09 加筆修正しました。以前のバージョンを読んでいただいた方にはもうしわけございません。


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