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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
19/38

明日への下準備

 胸の高さほどの位置には、周りを埋め尽くす黄金色の穂。咲きほこる穂は、たわわと首を垂れんばかりに実をつけ、風になびく。西の空から日の光が差し込み、村々が黄金色に染まっている。周りを見渡せば、辺りは西日に照らされ金色に染まった麦で出来た黄金色に輝く海が一面に広がっている。


 夕焼けの中、日陰が存在しない麦畑の中心で、俺と俺の家族は汗をかきながら農作業をしていた。このライ麦も、あと十日ほどで収穫できそうだった。


「今年は豊作になりそうだな」

「そうなのですよ」


 麦畑の周りを弟妹が駆け回る。何があったのやらユーグが何やら必死に、猫が笑う様な笑みを浮かべたセシルを追い回している。やれやれ、この前お説教したばかりだというのに仲の良いことだ。二人が走りまわる事で草花が踏み潰され、ここまで草花の匂いが漂ってきている。


 ――あぁ、平和だ。


 辺りに強い風が吹く。周囲に溢れる黄金色が一斉になみき、草々が舞い上がり、その光景の美しさに思わず心が奪われる。一瞬、辺りの喧騒が収まり、沈黙がそれに取って代わった。しかしそれも一瞬の事であり、すぐにまた元の喧騒が戻ってきた。


 そんな穏やかな時間が流れていたところ、それを打ち破るかのように、一人の異物が紛れ込んできたようだ。畑の奥より、アシルが手を振りながらこちらに向かってきている。


「どうした、アシル」

「どうしたも、こうしたもない。村長の家の方に一緒に行こうぜ。

 今年も行商人が村にやって来たんだ」

 

◆◆◆


 行商人。

 それは中世が終わりに近づき地方や農村部にも余裕ができたころに活発となった業種だ。


 この世界では、アニスの話では、もう既にノーフォーク農法は普及している。

 その為、前世と同じ道を歩んでいるらしい、すなわち経済の拡大だ。


 収穫量が増え、農民にも余裕がでてくるようになると麦などの主要作物以外に商用作物を栽培する余裕が発生する。そこから、村々にて香味野菜、ハーブ、ドライフルーツや蜂蜜、さらには、各種様々な染料作物や、麻などの繊維作物が販売用に栽培されるようになる。


 また、収穫量の増加は他にも多量の余剰人口を発生させ都市部へ労働力を供給させ、第二次産業を拡大させる。結果、経済活動が活発となり交通網が発達することとなった。


 そうなると、それ等の農村や大消費地である都市部で買付けを行い、商品を輸送する商人や行商人の社会での地位や役割も当然上がる。


 判りやすくまとめると


 ① 飯を腹一杯食えるようになったよ!

 ② 子供も増えたし、他の作物も作れるぞ。

 ③ 都市には働き手と大量の作物がどっさり。

 ④ 特産品や工芸品を大量に作れるぞ。

 ⑤ 此処に無い物を、作った品物を売って買いたい。   

 ⑥ 商人;仕事が一杯で我が世の春がキタ~~!!   ←いまここ!



 うん、素晴らしいね、商人。やっぱり平和に成り上がるなら今の時代、商人だろう。今はまだ半人前以下だが、いずれ俺も商人に仲間入りしたいものだ。

 経済の拡大はそのまま下層民の成り上がりのし易さに繋がるからね。豊臣秀吉は中世後期、ナポレオンは近代初期の人物な事がそれを表しているといえましょう。


 というか、今より経済規模が小さい時期だったら、こんな辺境にそもそも商人なんて来なかったろうから助かったな。日本で言う”三日市”だか”十日市”みたいな定期市に自分から穀物とかを持って行って塩とかと交換するのがせいぜいである。ありがたいことだ、うん。


 さて、話題の行商人様はどちらにいるのかな。今までせっせと作り貯めた竹炭を売り捌くために、こっそり接触して買い取ってもらわないと。


「行商人は村に泊まって行くのか?」

「さあ、どうだろな。

 泊まっていく時もあれば、直ぐ出て行くときもあるが」  

 

 村長の家に向かいながらアシルに聞いてみたが行商人が今日どうするのか知らないらしくはっきりとしない。ち、役に立たないやつだ(理不尽)


 なんだかんだと言いながら村長の家に行ってみると、村長の家の周りを子供と、野次馬にやってきた村人がたむろっていた。アシルによると行商人は村長の家の納屋に乗ってきた荷馬車を収めた後、村長の歓待を受け、村長の家へ入ったらしい。俺達二人がやってくると、彼らは一瞬何ともいえない表情を浮かべたが特に何も言うこともせず、わざとらしく少し俺達と距離をとった。


 俺達はそんな奴等を無視し村長の家の窓を覗き込んだ。村長と行商人が何やら話し込んでいるようだ。さらに、ちょっと鼻を利かせると何やら料理をしていることに気づいた。どうやら村長は行商人を夕食に招待したらしい。夕食を食っていくということは、やはり泊まりか。例年のように村長の家の納屋で夜を明かすのだろう。


「しかし、麦の収穫にはもう少しかかるのに何しに来たんだ?」

「さあな、ただこの村の奥にも幾らか村があるから、

 本当の目的地はそこなのかもしれんな」


 なるほどね~~、その可能性もあるか。しかし、そうだとしたら明日の朝には、もうこの村をたつ可能性が高いな。そうなると話をするなら今晩って事か……。


 俺は村人から見えない位置に移動し、おもむろに木の枝を二本折る。そして、それをナイフを使って削り木簡を二つ作り上げる。そうして作り上げた木簡にナイフで文字を刻み一つには『納屋の裏で待つ』と刻み、もう一つには『村の丘で待つ』と刻んだ。


「アシル、今から俺、納屋に忍び込むからちょっと見張っていてくれ」

「……また何かやらかすのか」


 そう言うとアシルは肩をすくめ、溜め息をつき始めた。

 そして「へいへい、わかったやってやるよ」と言い、とっとと片付けろとばかりに俺を急かした。


 むむむ、何だ、この反応は、まるで毎度アシルに迷惑をかけているようではないか。それはまったくの誤解である、むしろ迷惑をかけられた回数では俺の方が上だと断言できるぞ!

 まあ、ちょっとばかり俺の方が規模が大きいというか村の決まりを逸脱することが多かったような気もするが……。それは気にしない方向で行きたいと思う。

 まあ、ここで言い争っているわけにもいかんし、さっさと行くか。


 俺は裏側から納屋に忍び込む。中には繋がれた荷馬と荷台があった。俺は荷台に収められた商品の上に一つ目の木簡を置いた。帰ってきた行商人がする行動は商品の確認だろうと考えたからだ。商品から目を離した行商人なら荷台の中の商品が気にかかるはず、ならば商品の上に木簡を置いておけば必ず見つけてくれるだろう。


 さらに納屋を抜け出した後、俺は納屋の裏にもう一つ木簡を置いた。誰か他のものが木簡を見つけ読んだ時のことを用心したからだ。この村では読み書きができるものは少ない、だがまったくいないわけではない。ならば用心はしておくべきだろう。なにしろ竹炭を作っているのは秘密にしているのだ、村の者にばれたら何を要求されるかわからない。

 仮に誰か別の者が納屋の裏の木簡を探すようであったならしばらく手を引かねばなるまい。

 

 俺はその後、アシルに俺の家へ帰るのが遅くなると伝言を頼みアシル一人帰らせた。

 そして村長の家の納屋を見渡せ、さらには人目につかない場所に陣取り、行商人が出て来るのを待った。ちゃんと木簡に気づいてくれただろうか、そして、こちらの頼みをきいてくれるだろうか……。


 そうこう不安を胸に抱えながら納屋を監視していると行商人が納屋から出てきた。行商人は納屋から出ると、納屋の裏に移動し、置いておいた木簡を見つけ手にした。俺はそれを確認すると村の丘へ移動した。



当初の目標であった読了時間100分突破。

やっと突破といったところですが最初の目標は達成ですね。

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