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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
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小市民に成り上がれ【壱】 続々

 目の前に見えるのは、赤々と輝く火の光、そして熱。

 俺は窯からの暑さに辟易としながら火が弱まらぬよう、強くならぬよう焚き口を見ている。昼間にこの炭窯に辿り着いてからずっと、俺は炭作りの作業を続けている。


 四つ割にし、蔓で縛り付けた竹を背負子しょいこで背負い、この隠し炭窯に辿り着いたのが、昼ごろ。俺は父さんに事情を説明し一人でこの場で泊り込みで作業をしているのだ。父さんは俺一人で作業させるのが心配なようだったが、炭窯の近くにモンスターから隠れる場所がある事と、火を焚いていれば動物が近づいてこないだろう事を説明し説得させてもらった。


 俺も、あの森へはもう結構入っているがどうやら人里近くな為か、あの辺りに出没するモンスターはあまり大物はいない。まあ、よく考えれば大物がいないから村が存在できているわけであり、村近くのモンスターがそれほど強くないのは当然ではあるが。というよりも、生態系が変わって大物がでるようになったら、それは村を捨てる時である。


 アニスも周りを警戒しているし、万が一出たとしても何とかなるだろう、そう思い切り炭窯へ突撃したのだった。


 そうして、竹を出し入れ口に詰め、土で塞ぎ、炭作りを開始したのだが、そもそも炭というのは一日で作れるものではない。いや、現代であったのなら半日もあれば作ることができるのだが、この原始的な炭窯であるなら、前に見たドキュメンタリーどうりなら完成まで三日は火をくべなければならない。


 そういうわけでずっと火の番をしているというわけだ。炭窯のまわりには薪が大量に置いてある。俺が炭窯を修理していた期間の間に集めておいた薪だ。果たしてこの量で足りるだろうか……。TVで見た知識しかないので、できるだけ多く用意したのだがこれだけで足りるかどうかわからない。そして、それ以前に、この方法で上手くいくかさえ自信を持っていえない。


「激しく不安だ……」


 無人島に漂流したり、文明が遅れた場所に飛ばされたりする主人公は皆こんな不安を感じているのかね。正直上手くいく気がしないのだが。いや、いや、ネガティブになるな。一月近くもこれに時間を費やしたのは何の為だ。これは成り上がりの為の第一歩なのである。これで金策の都合をつけないと次に進めない。


 俺は自分の頬をべちべちと叩いて気合を入れると、焚き口の中の小さくなってきた火に薪をくべて、窯の温度を上げてゆく。そうこうしているうちに、窯の中の温度が上がってくると、中に詰めた竹が自分で燃え始めた。そして、しだいに濃い煙が勢い良く煙突から吹き出てくるようになってきた。どうやら次の段階に入ったらしいので焚き口の火を止める。


 え~と、窯の温度が十分上がり、今の状態になったら次は、焚き口に入る空気を調整しなくてはいけないんだったな。空気が入りすぎると燃えて灰になってしまうし、少なすぎると窯の中の火が消えてしまう。なので、焚き口を粘土などで塞ぐ面積を考え調整しなければならないのだが、


 そ ん な の わ か る か !!


 たしかTVでは煙の温度を温度計で測っていたが、そんなもんはここには無いわ!!

 なので煙の勢いで判断するしかない。TVで見た炭窯の煙の勢いってこれくらいだったよな? 駄目だ、正確には思いだせん……。とりあえず、こういうものは記憶を頼りに調整し続けるようりも、最初に正しいと思ったことが正解なことが経験的に多い。ここは男らしくこのままでいこう。そして、中の竹に付いた火が細々と燃え続け、俺は日が変わってもそのまま竹をむらし続けた。しかし、


「「暇だったな(です)」」


 だってさ、焚き口と煙突の開きを調整し続けるしかやることがないんだぜ? 夜中はアニスに様子を見てもらって睡眠とって、調整が必要そうになったら起こしてもらっうことで調整し続けたわけだが、すっごい暇なのですよ。 


「あ~~、こっちに生まれ直してから忙しくて思う暇がなかったが本読みてぇ~」


 前世では結構、活字中毒だったから久々に欲求がぶり返してきたぞ。もう今なら辞典だって楽しく読めそうだね。あぁ、朝日が昇ってきたよ。


 とりあえず、腹ごしらえしとくか。俺はズタ袋から唐辛子と塩で一緒に炒めた穀物と昆虫が入った小袋を取り出しボリボリ貪る。唐辛子って防腐効果があるし、何より塩をあまり使ってなくてもそれなりの味に仕上げてくれるから山間の村民にはすごく使える香辛料です。

 ここは日本で俺が住んでいた所よりかは寒いけどヨーロッパの多くの地域と違ってそこそこ暖かいから普通に栽培できるし、ニンニクと唐辛子はこの世界の貧民の標準装備ですね。


 本当に、薬味があるって素晴らしい。生活が俄然に華やかになります。唐辛子はもちろん、ニンニクもネギ類だから保存が利くしね。冷蔵庫がない以上、保存のし易さはとっても重要です。前世では安価だった物でも痛みやすければ高級品になるのですよ。あ~、できれば生姜も欲しいけど、あれは比較的寒さに弱いのでこの村じゃ作ってないんだよな。


「……とりあえずいったん窯から離れてみるか。一度周囲を警戒したほうがいいだろうし」

「……そうですね」


 あぁ、何度も中途半端な時間に起きたから眠い……。

 これが初回じゃなかったら、もう少し時間を有意義に使えたのかもしれんが、何せ全てが初めてだから何が起こるかわからないからな。次回はもっとうまくやろう。あと、やっぱり薪が少なくなったからついでに取ってくるか。あ、それと終盤、炭窯に細かい亀裂ができて煙が漏れてきていたから補修せんと。


 はぁ、

 さっきまで暇だ暇だと言ってたのに朝を迎えたら一転忙しいって、なんなんだかな……。



 …… 


 …… 


 …… 


「……なんでこの炭窯が放置されたのか判ったな」

「……ですね」


 や、やることがほとんどねぇ。偶に空気量を調整したり、炭窯に細かい亀裂が入ったら埋めることぐらいしかやることがない。畑のそばなら農作業をしつつ監視することができるのに、ここじゃあまりすることがない。なるほど、どうしてこの炭窯が放置されたのかと思ったが納得した。なるほど、これじゃあ使う奴を選ぶわ。


 なんか安定してきたし狩りにでるか。暇だし、もっといいもの食べたいし、なにより暇だし! こんな時、使い魔がいればな、折角スキルがあるというのに使えないという苦悩!!

 残念な事に、ステータスはあれから何度かモンスターを倒して敏捷がEになったくらいしか変化がないんだよ! ケケケッ、いっそ、もっと奥に行って魔力持ちのモンスターを狩ってくるかな。……自殺行為ですね、基本人型モンスター以外じゃ雑魚では魔力持ちはあまりいないそうだし、人型は群れてるし。


 一定時間毎に炭窯に帰るようにするか、煙が外から見えれば楽なんだけど、周りの崖や岩などの影響で煙が風でかき消されて、遠くからじゃよく判らないしな。まあ、ばれ難くていいんだが。



◆◆◆

 


「炭化が終わるのに、結局三日かかったのですよ」 

「何故あらぬ方向を見ながら話しかけてるんだアニス」


 いや、俺も前にやったけどな。つうかマジで神さんが見てるのか? まあ、例え、ここが物語の中だったとしてもアニスなら俺よりも設定的に許されるような気もするが。

 もっとも、お前はどこの蝸牛型浮遊霊かとも思うがな!!


 さて、今朝から炭窯の煙突から青い煙が出てたのですが段々と透明になり、今では完全に切れてしまいました。後は一週間ほど冷やすだけだったはずです。炭は見た感じ表面上は問題ないようなんだけど大丈夫かな? とりあえず完成したら二つに割って調べてみるとしよう。


 それにしても、本当に暇かつ大変だったぜ。間違った表現のようだが間違っていない。それと狩りですが大量でした。大物は狩れなかったけど、鳥とか兎とかが取れたよ。暇だったので炭窯の近くで燻製にする作業をしました。なお、二酸化炭素中毒が怖いので、作業は近場のなるべく高い位置です。あとは鳥の羽が大量に手に入ったから矢を作ってたよ。あと、途中、父さんが様子を見に来ました、申し訳ないことです。


 さて、早足で回想してみたが、今回の収穫はこんなもんかな。大量にお土産もできたし、久々に愛しの我が家に帰るとするか。ヒャッホー、なんだかこんなに順調だったことはかつてなかったような気がするぜ!

 テンション上がっていたので、その為、自然とアニスとの会話もはずんでしまったよ。そして、俺はそのまま村までアニスとお喋りをしながら村に帰った。結果、ついアニスが他の奴見えないことを久々に忘れ、胡乱な目を向けられてしまうことになるのだが、それは忘れるとしよう。



 ……ちょっとハイになっていたし、ずっとアニスと二人きりだったから忘れていたよ。


転生前に違和感を感じるという御意見が感想を感想で多くいただいたので、第4部を削除し、第2部、3部加筆修正しました。


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