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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
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小市民に成り上がれ【壱】 続

「よし、もう大丈夫だよな?」

 

 試運転として何度か窯に火を入れて様子を伺っていたが、特に崩れる様子はないようだ。しかし、これまで何度も失敗しているので念の為に俺は窯を「ぺしぺし」と恐る恐る訝しげに叩いてみた。

 作成中に崩れるのはまだいいが、炭を取り出す際に崩れてしまっては色々危ない。そのときはアニスでも直接助けることはできないだろう。……家族の誰かに虫の知らせとかできないかな?


 俺は試運転用に窯に入れた薪の灰を取り出した後、窯の補修を行った。俺の修理の手際とは関係なく、窯は使えば内部の土がいくらか剥がれる。俺は窯の剥がれた部分、特に天井の剥げ落ちた部分を丹念に補修した。

 これまで何度も窯の土を固め続けたため、手に豆が幾つも出来てしまった。まあ、それくらいで休んでもいられない。顔を叩きながら「さあ、これから炭を作るぞ!」と気合をいれ、布を巻いた豆だらけ手に力を入れ、窯の壁を叩き続け、修理を続けた。

 

「さてさて、やっと炭作りですか」


 俺が、何度も繰り返し同じ作業を続けていたので、すっかり退屈し、俺の頭の上で座っていたアニスが頭の上から話しかけてきた。髪の毛の上に何かが触っている感触はあるのだが、不思議な事に重さは感じない。俺はそんなアニスと会話しながらも、手は窯の修理の為に動かし続けている状況だ。


「ああ、やっとな。もっとも次は材料を集めないとな。

 まあ、木を切るわけにもいかなので、代替品を考えている」

 

 何故、木を切ってはいけないかというと、前にも言ったが、木炭を作るために木を伐採すると領主に税を払わなければならないからだ。こっそりやるという手もあるが、木を切り倒せば当然切り株ができる。地面にしっかり根を張っている切り株を取り除くのは正直、子供一人の力では無理だ。

 そして、切り株を放置しておくと当然誰かが木を切っているのがばれる。そして、この森に入っているのは猟師達と父さんと俺しかいない。その際、一番槍玉に挙げられやすいのは、やはり俺達家族だろう。何世代も村で猟師として暮らしてきた家系と、俺達新参では立場が違う。


 ようするに、証拠があろうとなかろうと、俺達が犯人にされやすいのだ。そう考えると、この窯を作った奴みたいなのが、今、存在しなくてよかったな。今、そんなことをされると俺達がスケープゴートにされかねん。今後は森に入った際はそういう事にも注意を向けなければ……。


 はて? そうすると、この窯の持ち主は材料をどうやって集めていたのだろう?

 推測するならば、簡単には発見されない森の奥まで探索できる凄腕の狩人か、権力で誤魔化せる村長の縁者だったというところだが。まあ、今、俺の役に立ってくれればどうでもいいけどな。折角の掘り出し物だ、せいぜい俺の役にたってもらうとしよう。


 

◆◆◆

 

 

 俺は今、以前に罠の材料として使った竹が生い茂る竹薮に来ている。炭の材料として竹を使おうと考えたからだ。木を切れば税がかかる。だがしかし、目の前の竹はどう見ても木には見えない。これならば木の伐採にかかる税を逃れることができるだろう。

 まあ、大々的に取り掛かれば領主は竹にも課税をしてくるだろうが、いかんせん所詮使うのは俺一人である。普通の物とは毛色が違うとして、幾らか買い叩かれるかもしれないが、税金分が掛からないことを考えれば買い叩かれる分を差し引いても余りある。


 また、竹は木と違って成長が早い。木の場合は伐採してから再び成長するのに十年以上掛かるが、竹ならその数分の一の期間ですむ。まあ、これは俺一人で使う分にはあまり関係のないことかもしれないがな。いつか、金が貯まったら、大々的に竹炭の量産を手がけてみるのもいいかもしれない。


 いやはや、こんな立派な竹林を誰も利用してこなかったなんて実に勿体ないね。

 だが、俺にとってありがたいことに取り放題である。

 いやー、笑いが止まらないとはこの事だ。


 俺は鉈を使って次々と竹を切り倒していく。

 竹は木よりも直径が小さいので子供の俺でも十分切り取ることができる。しかも、木と違って竹は中が空洞なので弾力を考えなければ、切る部分は木よりはるかに少ない。俺は面白いくらいに次々と竹を切り倒していく。 


「一つ切っては父のため、二つ切っては母のため♪」

「三つ切ってはふるさとの、兄弟我身と回向して、昼は独りで遊べども ってか?」


 しばらく竹を切っていると、竹を切るのに合わせてアニスが調子外れた歌を歌い始めた。

 というかアニスよ、少々その流用は罰当たりではないかい?


「おお、まさか返してくるとは思わなかったのですよ」

「俺としては妖精が賽の河原の地蔵歌なんか知っているほうが驚きだが……」


 いくらこの世界があっちの世界の縁故といってもな。こっちの世界は、前の世界の分身である。要するに切った枝を切り株にさした接木みたいなもんらしく、植生などは基本的に同じらしい。もっとも、色々調整やらマナによる変質なんかも起きており、なかなか一筋縄ではいかないが。


「まあ、前世は孤児だったからな。

 遠い親戚をたらい回しにされた際に爺婆の下で暮らすことが多かった結果だな」


 よく、小説やアニメなんかで子供のいる夫婦のとこで暮らしたりするけど、実際、そんな人の良い夫婦ばかりってわけじゃないからな。基本的に若い奴は大きな子供なんて抱え込みたくないし、ある程度年齢を重ねている奴は、子供が受験やらなんやら言って引き取ってはくれんのですよ。

 実際、子供が大学受験の時期である家庭だと、大学の学費の準備やらあって金がないし、子供の勉強の邪魔になってほしくはないので嫌だろう。となると、必然的に子供が独り立ちした老夫婦が引き取る場合が多くなるのは当然だろう。


 まあ、俺の場合がそうだったというだけで他はどうだか知らんがね。


「しかし、学校で習ったことより、

 爺さん婆さんに教えてもらったことの方が今となっては役に立つとは皮肉だな」

「実に爺臭い子供なのです」 

「やかましい」


 だいたい、爺臭いも何も、今の時代設定は中世なんだから、昭和生まれのご年配の方々以上に、俺が今いる現在自体が古臭いだろうに。むしろ御婆ちゃんの知恵袋が新規の最新知識である可能性すらある。


 おっと、なんだかんだ喋っている内に、大体の数は揃ったな。あと、ついでだから竹の子も探して持ち帰るか。どうやら、ここの人間って竹の子を食べ物と認識してなかったようだが、以前持って帰って調理したら問題なく食べてたしな。


 あ、そういえば、年寄りの豆知識と言えば、


「竹炭を砕けば土壌改良剤になるかもな」

「マジですか」


――マジです。


 引き取られていた家が家庭菜園をしていたのだが、そこで使用していた土壌改良剤の中身が確か木炭だったはずだ。この竹からできるのは竹炭だが多分問題ないだろう。炭は畑に撒いても肥料にならないが地力増進作用があるらしく、土の中の通気性がよくなり、透水性や保水性を良くし、地力を増やす効果がるのだ。


「炭が土の通気性をよくする効果があるらしい。畑に種を植えるときも、くわで土を耕して、土に空気を混ぜ込むだろう? 土壌の通気性が良いと作物の育ちがいいんだよ」


 作物を良く育てる方法は何も肥料を与えるだけってわけではない。野菜作りの前に、土作り、砕いた炭を撒いての土壌の改良も立派な農業技術だ。  

 作物が育ちやすい土壌環境を作ることによって、作物そのものも丈夫になり、病原菌や害虫による作物などの被害の発生も少なくすることができる。結果、収穫量も確実に増加する。もっとも、当然、ばら撒き過ぎたらむしろ状況は悪化するけどな。何事も適量が大事である。


「よい事尽くめなのですよ~♪」

 

 そう言うと、鼻歌を歌いながら俺の周りを飛んで回るお気楽妖精。母さんが死んでしばらく大人しかったと思ったら最近、ずっとアップテンポなんだよな、こいつ。

 慰めの言葉なんて一言も俺に発しないけど、アニスの癖にひょっとしたら俺のことを慰めようとしてくれてんのかね。もしそうなら、安易な慰めの言葉をかけずに見守ってくれた、この妖精に感謝しなければなるまい。



「アニス」 

「はい?」

「ありがとな」


「何のことか分からないのですよ~」


 その後、アニスと俺は特に会話らしきことはしなかった。

 だが何故か俺の顔には笑みが浮かんでいた。

理想郷の探索掲示板にて御紹介いただいたことで、なんと日刊ランキング1位を獲得しました。マイマイY@様、御紹介ありがとうございます!!


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