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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
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小市民に成り上がれ【壱】

 ……母さんが死んだ。そして、母さんを除き、我が家は家族五人となった。父さんは生まれてまもない末妹のアガットを抱きしめ、ぼぉっとしている。アガットは、死んだ母さんそっくりな容姿をしている。金髪碧眼に白い肌。おそらく、アガットは、もっとも母さんの血を引いていだろう。


 そんなアガットを父さんは時折、何かに耐えるように、キュっと強く抱きしめる。あれからずっと、父さんは悲しみに暮れている。魂が抜けてしまったかのようだ。最近の父さんは何か気力がなくなってしまったかの様に、覇気がない。


 だが、仕方がないだろう。

 父さんが母さんを深く愛していたことは子供達はよく分かっていた。

 だから、俺はなるべく父さんをそっとしてあげようと決めた。


 もちろん、下の兄弟達も母さんの死は辛いだろう。だが、今だけは父には構わず、兄である俺で我慢して欲しい。父さんは、今まで俺達の為に歯を食いしばって頑張ってくれた、守ってくれたのだ。どうか、立ち直るまで時間を与えて欲しい。



 ◆◆◆


 

 俺は今、森の中にいる。

 狩りの為でもあるが、何か換金できるようなものを探す為でもある。

 なぜならば、いずれ村を出たとき、旅費が必要だからだ。その為の金策である。


 今回のことで、この村にはホトホト愛想が尽きた。この前の飢饉のとき村が父さんに無茶をさせなければ、ひょっとした母さんの症状は持ち直したのではないか?


 彼らが、うちの家族に対して蔑視する言動がなければ、母さんもずっと心労を募らせることなどなかった。そう、この村が、村長の一家がうちにちょっかいをかけなければ、もっと住みよく、穏やかに暮らせたことだろう。

 

「あいつ等が! あいつ等が俺達にちょっかいをかけなければ!! 」


 振りおろした拳が目の前の幹に当たり、その衝撃と痛みが体に伝わる。

 

 痛い、だが痛くない。

 こんなものより、胸の痛みのほうがずっと痛い。


 何故だ、何故なのだ。俺達が何をした、ただ、周りと違う容姿をしていただけではないか!

 端から俺は、この村を飛び出す気だったとも。だがしかし、今と前では、その理由は違う。俺はただ、俺を狙ってくるかもしれない同胞達から身を隠すために、村から飛び出そうと考えていた。


 だが今は、そうではない。こんな村に、俺の兄弟達を置いてはいけない。母さんの血を引く兄弟達はこの村で生きずらい。かといって他の村にいっても無駄だ。いや父さんの伝手がないぶん余計にまずいだろう。


 都会に出なくてはならない。あの子達が大きくなり、この村に絶望する前に。

 ただ、今のままでは都会に出てもスラムで生活するしか手段がない。都会で俺が求める人間らしい暮らしをするには金か技術がいる。そして、農村育ちの俺達には技術はない。



「いずれ、村を出て商人になろう」


 

 行商をしながら金を貯め、街で店を買おう。そして、家族を呼び寄せよう。新しい我が家で兄弟達に自立する為の技術を教え一緒に暮らそう。

 彼等が拒否しないなら彼等の伴侶と一緒に住むのもいい。いずれ、俺も愛する妻を娶り、可愛い子供が産まれるだろう。そしたら大家族だ、そうすればもう寂しくなどない。


 なんというお花畑の中のような益体もない妄想だ。

 ああ、自覚しているとも。だが、そう思考を逸らさないと怒りと悲しみで歩けなくなる。結局、俺も父さんと同じだ。ただ、立ち止まるか、走るかという違いがあるだけだ。




 さっきから胸が痛む。


 喉から俺の意思とは関係なく声があふれ、息をする。


 胸がかってにしゃくりあげ、肩が震える。


 頬に熱い何かがつたっていく。


 ――何故だろう、涙が止まらない。



 結局、俺は怖いのだ。


 前世の様に一人孤独に死ぬのが。


 周りの愛する者達と死に別れるのが。


 前世で体験できなかった母の温もり。

 それを失ったことで俺は、俺という人間を、はっきりと理解した。


 

 ◆◆◆



 今、俺は炭窯の壁を積み直す作業をしている。


 炭は庶民とは無縁な燃料だ。庶民として炭は、作るのに手間が掛かるというのに、そこらに落ちている薪と比べた場合、たしかに火が長持ちはするがその手間に見合うほどの燃費、燃焼時間ではない。その程度、薪をつぎ足せばよいことであり、わざわざ薪の代わりに炭を使う必要性がない。


 基本的に炭とは煙がでない事から、経済力を持っている貴族に好んで使われる。また、鉄の精錬の際に使われるのが殆んどなのだ。当然、薪より売値が高い、つまり儲かる!

 よって、俺は炭窯を使って炭を作り、商人に売って儲けようと企んでいるのだ!!


 さて、俺がなぜ炭窯などを手に入れることができたかというと、ちょっとだけ、とある体験談を話さねばならない。以前、森で獲物を狩った際、位置的にいつもの獣道を使うには少々外れていた為、村までショートカットして帰ろうとしたことがあったのだが、その際に森の中に周りから隠れるように作られていた炭窯を見つけたのだ。


 おそらく、かつて村人の誰かがこっそりと炭を作っていたのだろう。木の伐採は領主の権利であるので、木を切り倒すのには税を払わねばならないし、村の掟でも、村に収入の一部を納めねばならない。まったく、強欲さという意味では村長も領主も大差ないものだ。この金の亡者共が。


 だが、しかし、せっかく見つけた炭窯であるが、そのままでは使えそうにない。長年、整備せずに雨風を受けたせいで天井は崩れ落ち、壁も所々、穴が開いている。その為、修理が必要となったのだ。  


 炭窯など前世も含めて触ったこともないので、その作業は手探りだ。とりあえず、適当な大きさの石を拾ってきて、石と石の間に、炭窯で使われているっぽい赤土を練って挟み積み上げてゆく。


 これは、壊れた炭窯の断面から判断し、推測したやり方である。ちょうどいい大きさの石の数が足りなかったので、大きすぎて使い難い石は、割って適当な大きさにして数をそろえる。幸いだったのは、煙突がかろうじて崩れてはいなかったことだろう。

 流石に煙突は素人がやるのは難易度が高い。雪でかまくらを作ることは素人にでもできるが、かまくらに煙突を作ることはできまい、たとえ形だけ繕っても直ぐ崩れるだろう。しかも、使っている材料は雪より難しい、土と石である。まったく幸運だった。


 俺はひたすら、軟らかくした赤土を握って、隙間に向かって叩き続ける。時折、狙った所に上手く行かなかったり、跳ね返ってきたりで泥まみれになる。

 壁に土を張り付け終ったら、棒を使い、叩き固める。段々と窯の形がはっきりとしてくる。その日は、一日中、炭窯の修理に費やされ、日が暮れ始めた頃、夕立が降りそうになったので俺は帰った。


 なんだ、案外簡単じゃないか、そう思ったときが俺にもありました。


 翌日、俺が見たものは雨水を吸い込んだことによって崩れ落ち、元の木阿弥になった炭窯だった。そして、俺はこれより、この炭窯の修理の方法を試行錯誤することになり、最終的には一月近く掛けることになった。  


 最近、大雪が続きますね。こちらは豪雪地帯なので、一晩で車が雪で埋まります。

 ああ…、毎年、雪のせいで数時間余分に仕事が増える。

 皆さんも風邪等にお気をつけて。


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