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誰か勝手に魔王、倒してくんないかな  作者: 山彦
第一幕 少年時代編
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くぅ~、くぅ~、お腹が空きました 続々

 狩人が森の中を移動する際、当然、闇雲に森にはいるわけはなく、移動しやすい場所、移動経路として向いている場所を往復していく。そういう場所は、森の狩人などの人間が何度も往復していると、踏み固められ、低木の小枝は折られ、自然と林道のようなものがうまれていくのだ。

 

 そのような、けもの道とも林道ともいえぬ道を、村から北におよそ二時間ばかり歩き、あきらかに周りの木とは種類の違う大木を見つけた。周りの木々より一回りも二回りも背がだいぶ高く、よい目印となりそうだった。


 木の間を抜けるたびに、顔に蜘蛛の巣がかかり、服はべったりと汗で肌にへばりついている。俺は、草で括っておいた山菜と枯れ木を地面に置いて、一休みすることにした。   


 ここまで来る間に、いくらか山菜を手に入れることができた。狩りの為、身を守る為にクロスボウを持ってきたが、そもそも、森に入った目的は食料の不足をどうにかする事であるので、別に獲物がとれずボウズでも他に食べるものが取れていれば問題ない。


「お~いアニス、周辺の状況はどうだ?」

「見る限りでは問題なしですよ~、それにしても無茶をするのです」

「まあ、なんか危険があったらアニスに頼るよ」

「頑張りますけど、万能でも、無限でもないので、気をつけろなのです」



 アニスは俺自身に憑いているTPなので、俺から離れることはできない。だが、その範囲は密着したものでなくアニスが自由に動ける距離は3mほど。短い距離だが縦に動けば多少の哨戒にはなる。


 さらに、アニスはTPとして、相手に対して認識阻害の魔法を使うことができる。これは、幼少時にどうしようもないトラブルが降りかかった場合への対策として持っている力だ。TP達はこの力を使うたびに体が小さくなっていき、最後には 消えてしまう。


 幸いなことに、今の両親はとても自分を大事にしてくれたし、運よく特に大きなトラブルにも遭遇しなかったので、今までに一度も使うことはなかった。しかし、もしかしたら遂に使うことになるやもしれない。



「まあいきなり無茶をする気もないさ。

 まずは、この辺りの地理を覚えて、最善の行動を探るとするよ」

「それが無難なのです。初日からいきなり森の中を走り回ったら遭難してもおかしくないですからね」

「地味だがな。まあ小さい事からコツコツとって事さ。こっちの方が俺らしいしな」



 暗がりを、おっかなびっくり、えっちらこっちら歩いてこそ俺らしい。派手さはいらん。求めるは安全だ。今日のところは、獲物になりそうな獣が作ったけもの道を探したり、獲物のフンなどから獲物の行動半径を調べるとしよう。


 改めていうが、別に山菜だけでもいっこうに構わないのだ。もちろん、獲物を仕留められそうな幸運が舞い込めばもっといいが。


 その日一日は大木を中心とした地理把握と、山菜取りに没頭した。

 因みに、ボウズで帰ってきたところをアシルに見られ、爆笑されたので殴っておいた。

 そして、山菜を母さんに渡し、夕食を食べた後、そのまま寝床で泥のように眠った。

 


 翌日、身体がバキバキ鳴るほどの筋肉痛が俺を襲った。どうやら普段使わない所の筋肉を酷使しすぎたのが原因らしい。家族の皆が俺を心配そうに見つめるが、俺は心配ないと言って、飯を食った後、畑仕事にいき、その後、また森に出かけた。


 昨日、覚えた地理を忘れないうちに行動したかったのだ。


 大木からしばらく移動した先に、直径一メートルくらいのへこみが二つあった。

 おそらく、父さんが話してくれた鹿が寝た際にできる跡か、猪が堀った穴だろう。


 どちらも俺にはただのへこみにしか見えないが、本職の狩人はこれらの痕跡からさまざまな情報を引き出す。たぶん、いくつかのパターンがあるのだろうが、今の俺には判別できない。ただ素人目にもこれらのくぼみはできてからまだ新しいように思えた。


 山菜を取りながら獲物を探して尾根伝いを歩く。そして、

 

「猪です! 猪が、猪が、直ぐそこに居ます!!」


 俺は手振りでアニスへ返事を返すと、クロスボウに矢をセットするため、クロスボウに備え付けておいた”あぶみ”を踏みしめながら両手で弦を引き矢をつがえる。鉄が貴重なので、石の鏃を取り付けた原始的な矢でだ。


 猪に見つからないように、アニスが教えた場所の風下に回った。いる、そこにいる!


 猪は地面を前足で掘り、何かを食べていた。

 クロスボウは普通の弓と違い再装填まで時間が掛かる。一撃で急所を捕らえ仕留めなければ逃げられてしまうだろう。


 作った矢の数が少ないので練習量が十分とは言い難い。なので、もっと近距離で狙いたいのだが、これ以上近づいたら気づかれてしまいそうだ。



 急所は何処だろう?  頭か? 心臓か?


 

 ……心臓にすべきだな。

 頭は頭蓋骨が硬く的が小さいので猪の心臓の方が成功率が高そうだ。



 俺は胸に手を当てて、喧しく鼓動をしている心臓の位置を確認する。当てた手から”ドクン ドクン”と鼓動を感じ、心臓の位置を猪に当てはめ、心臓を狙うには何処を射ればいいかのか考察できた。……前足の付け根の少し後ろあたりだろうか。



 あまり、グズグズもしてはいられない。今、猪は食事に夢中であり、動かない獲物に、こちらからじっくりと狙いをつけることができるという最高のシチュエーションにあるのだ。猪が食事を終える前に行動すべきである。



「ままよ!!」俺は覚悟を決めてクロスボウから矢を放った。



 その時、突然、強風が吹いた。風に煽られた矢は猪の肩に当たった。

 矢が当たった瞬間、猪から悲痛な悲鳴があがった。だが、猪が倒れる気配はない。

 猪はこちらの方をじろりと睨んだ。




 ……あれ、ひょっとして怒らせちゃった? ダラダラと頭から冷たい汗がふきでる



 金縛りにあったように体がぴくりとも動きません。

 そして、あちらさんから眼を離すと危ないと感じたので目も離せません。


――な、なんか鼻息が深くなってきたような気がしますが、気のせいです。気のせいだと言って、お願いプリーズ。あ、なんかずっと目と目を合わせ続けたせいか、なんか猪とアイコンタクトができるようになった気がする(妄想です)


 このとき、俺の頭の中では以下のような会話がなされていた。



『おいおい、兄ちゃん、何さらしてくれとるんじゃ』

『い、いやー、ちょっとした出来心でして……』

『出来心で、わしにチャカ撃ったんかい、われ!!』

『大丈夫・・・恐くない・・・』《ジャンは混乱している》

『どこの姫姉さまじゃい、つうか撃ったのはお前じゃろが』

『あはははははっ……モウシワケゴザイマセン……』

『とりあえず、事務所まで来てもらおうか、つまり地獄やけどな』


 後ろ足で土を蹴り始め鼻息も荒くなってきた猪の兄貴。そして……



「何やってるですか!! さっさと逃げるです!!」

「にげろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」

「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーっ!!!」

「追ってくんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」

「急げえぇぇぇーーっ、もっと急げえですぅぅぅぅぅぅ!!!」



 誰だ!! 一撃で仕留めないと獲物が逃げるなんて馬鹿言っていた奴は!!

 この日、俺は命がけの逃走劇を繰り広げ、猪が諦めるまで木の枝の上に留まらねばならなかったのだ。ちくしょう、今度あったら絶対ボタン鍋にしてやる!!


今度は、日刊ランキングを見てみたら12位だと……。

お読みいただいた方々の応援は化物か! いや神だ!!

皆様の応援のおかげですありがとうございます!


そして、せっかくの狩りパートなので、なるべく泥臭い描写にしようと心がけましたが、最後は結局ギャグになってしまいました。まあ、ジャン君だしいいよね(ぉい)

そもそも、子供があっさり成功できる方がおかしいので仕方ないのですよ。


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