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約束は消えない...

作者: 爱丽丝
掲載日:2026/04/05

約束なんて、子どもの頃のものは消えていく。

普通は。

「おにいちゃん、けっこんするんだよね?」

あの日、無邪気に言った彼女の言葉を、俺は軽く流した。

「いいよ。大人になったらな」

それだけ。でも、彼女は違った。

最初に違和感を覚えたのは、小学生の頃だった。

友達の名前を話すと、必ず聞き返される。

「その子、女の子?」

まだ幼いはずなのに、妙に執着していた。

中学生になると、それははっきりした形になる。

俺の部屋に勝手に入ることはない。

でも、物の位置が微妙に変わっている。

スマホを置いていた場所。本の順番。机の上の小物。

見られている。そう確信するには十分だった。

高校に入った頃、彼女は変わった。

いや、“完成した”と言った方がいい。

「ねえ、おにいちゃん」

笑っている。いつも通りに。

「その人と、どこまで行ったの?」

ぞっとした。

俺が誰とも付き合っていないことも、全部知っているくせに。

「別に何もない」

「そっか。よかった」

その「よかった」は、安心じゃない。確認だった。

俺は距離を取ろうとした。

帰省の回数を減らし、連絡も最低限にした。

でも。

「どうして最近帰ってこないの?」

電話越しの声は穏やかだった。

「忙しいだけだ」

「嘘」

即答だった。

「おにいちゃん、逃げてるでしょ」

心臓が跳ねた。

「ねえ、約束、忘れたの?」

あの言葉。

「……あれは子どもの頃の話だろ」

沈黙。そして、静かな声。

「わたしは、一度も忘れてないよ」

高校最後の日。彼女に呼び出された。

その瞬間ベットに押し倒されていた。

「ちゃんと話そう」

逃げることはできなかった。

「ねえ、おにいちゃん」

彼女の目は、笑っていなかった。

「どうして、他の人を見るの?」

責めるでもなく、ただ事実を問うように。

「見てない」

「嘘」

抑えつけている手が強くなる。即答。

「全部知ってるよ」

顔を近づけてくる。

「誰と話したかも、何を考えてるかも」

背中に冷たいものが走る。

「わたしだけ見てればいいのに」

その言葉は、願いじゃない。確信だった。

「結婚するって言ったよね」

沈黙。抱きついて来た。俺はそして聞く。

「……あれは」

「冗談?」

首を傾げる。

「わたしにとっては違うよ」

その目はもう今すぐにも泣きそうになっている。

「ずっと、そのために生きてきたの」

重い。逃げたい。でも目を逸らせなかった。

「……なんでそこまで」

やっと出た言葉。彼女は少しだけ考えて、答えた。

「最初に、優しくしてくれたから」

それだけだった。

「ずっと一緒にいてくれたから」

たったそれだけの理由で、ここまで歪むのかと思った。

「ねえ、おにいちゃん」

目が合う。

「逃げる?」

試すような声。ここで逃げたら、たぶん一生追われる。

そう直感した。だから、逃げなかった。

「……俺たち、血は繋がってない」

自分でも驚くくらい、落ち着いた声だった。

彼女の目が、わずかに揺れる。

「だから」

「ちゃんと選べる」

今度は俺が、逃がさない番だった。

「俺の意思で言う」

彼女の呼吸が止まる。

「お前が怖いと思った」

正直に言う。

「でも、それ以上に」

自分でも、もう分かっていた。

「もう君に恋をしているんだ」

沈黙。

「約束、守るよ」

その瞬間。彼女の表情が、崩れた。

壊れるみたいに、泣き出す。

「……ほんとに?」

「今度は本気だ」

それから。

彼女の“重さ”は消えなかった。

むしろ、少しだけ形を変えただけだ。

「ねえ、おにいちゃん」

今でも時々、同じ目をする。

「他の人、見てないよね?」

俺はため息をつく。

「見てないって」

「ならいい」

安心したように笑う。完全に治ることは、たぶんない。

それでもいいと思った。

「だって約束したでしょ?」

「結婚しようって。」

その言葉に今度は俺が縛られる番だった。

逃げないと決めた時点で、もう終わっている。

それでもこの結末は、きっと“幸せ”だ。


 


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