第8話 弱点
戦闘経験なんてない。
でも、二回の模擬戦でわかったことが一つだけあった。
その場に突っ立っているだけでは相手の攻撃の的になるということだ。だから私は走ることにした。
前世ではできなくなった走るという行為。
でも今は、まるで違和感なく走ることができていて、このサイボーグの体に改めて驚かされる。
「アリー、逃げ回るだけ? ――〈アイスエッジ〉」
杖を光らせたシルヴィスさんが詠唱すると、氷の刃が私を襲った。
「わ、わっ!?」
細長い三日月型の氷が、大きく円を描くようにして私の体を狙う。
だが、ノートくんとの戦闘で覚えた魔法吸収がある。前に手をかざすと、その氷の刃は一瞬で消し去ることができた。
「本当に吸収してしまうのね……」
どうやら様子見の一撃だったようだ。
シルヴィスさんは目を細め、次の魔法へと備え始める。
その隙に、私は一気にシルヴィスさんへと距離を詰めた。
『アリー、三十二番を使うのだ!』
「なにそれ!?」
『千の機能は基本的に番号管理してるのだ! とにかく三十二番なのだ! 頭……いや、心臓で念じれば魔力伝達して勝手に発動するはずなのだ! とにかく三十二番!』
「っ、わかった!」
初めて聞く機能の使い方だけど、それだけで使えるのなら簡単だ。
私の脳みそは心臓部にあるらしいので、心臓辺りでそれを念じた。
三十二番、三十二番、三十二番……
「三十二番!!」
私は適当に前へ手を伸ばした。
すると――
ファサッ…………。
『あ……三十二番は花束だったのだ。ごめんなのだ』
「何それ。私にくれるの? ――〈ロックブラスト〉」
「きゃああああっ!?」
なぜか私の右手から、どこに仕舞ってあったのかわからないほど大きく色鮮やかな花束が現れた。これではまるで、私がシルヴィスさんに花束をプレゼントしているみたいだ。
シルヴィスさんは一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐに我に返り、石礫のような魔法を私に撃ち込んできた。
私はそれをなんとか吸収したり躱したりしながら、再び距離を取ることになる。
「思ったんだけど、魔力を帯びていない間接的な攻撃なら通じるってことよね?」
「ぇ――」
「――〈ロックフォール〉」
空中に巨大な岩塊が生成されたかと思うと、それが地面へ向かって落ちてきた。
まるで小さな隕石だ。
私は慌ててそれを躱そうとするが――
「躱していいのかしら?」
「それはどういう――」
次の瞬間、地面にぶつかった岩塊の衝撃で土が大きくめくれ上がり、その土壁の波が私を襲った。
「あ゙ぅっ」
体全体で土壁を受けてしまい、私は思い切り吹き飛ばされた。
「……おしまいでいいかしら?」
「は、はい…………」
地面に転がっていた私のところへやってきたシルヴィスさんが、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
痛覚が残っているせいか多少痛かったけれど、どうやら私は気を失う機能はないらしく、意識だけははっきりしていた。
服はズタズタになっていたが、やはりというべきか、体の方には傷ひとつない。
「最初からアリーの弱点を見抜くとは、やるではないか!」
模擬戦が終わり、博士達が近づいてくる。
「一番危ないのは……そうね。地割れを起こして裂け目に挟み、動けなくするとか。レオンハルトとの模擬戦を見た限りだと関節も弱そうだし、吹っ飛んでバラバラになった部位が体にくっつく前に氷漬けにでもしたら、もう戦えないわよね?」
シルヴィスさんが私の弱点をずらりと解説してくれた。
言われてみればその通りだ。たとえ不死身だとしても、封じる方法はいくらでもある。
「もちろんそれは想定済みなのだ! たくさんの戦闘データを蓄積し、同時に使える機能を覚えていくことで、アリーはどんどん強い魔女になるのだ!」
「それは楽しみね。また戦いましょう、アリー?」
「あはは……」
正直なところ、私はもう戦いたくない。
まだ初日の訓練だというのに、空を飛んで地面に突き刺さったり、首が斬られて頭が吹っ飛んだり、土壁に吹き飛ばされたり……体は無事だけど精神的にすごく疲れた。
「というか博士! なんなの、あの花束は! 本当は何を使わせたかったの!?」
結局、三十二番だと勘違いしていたあの機能は、一体何だったのだろうか。
「確かめたら三十一番だったのだ。試しにやってみるのだ」
「えっと……念じればいいんだよね」
私は三十一番を念じた。すると体内の魔力と思われる流れが、一気に頭の方へ上っていくのを感じた。
「うわっ、まぶしっ!?」
近くにいたノートくんが慌てて目を塞ぐ。
どうやら私の目から、猛烈な光が放たれていたらしい。
「アイライトなのだ。暗い洞窟でも使えるし、相手の目眩ましにもなるのだ。もちろん光量も調整できるから、目に意識を集中させてやってみるのだ」
「ん……あ、本当だ。少し小さくなった」
「俺で試すなこのクソガキ!」
「あ、ごめんなさいノートくん」
ぷんぷん怒っているノートくん。
落ち着いて見てみると、少しだけ可愛いかもしれない。
「それにしても、わかってはいたけれど……私の眼って本物の眼じゃないんだね……」
「そうなのだ。義眼なのだ。でも見た目は本物と変わらないのだ」
「まあ、見た目が人間と変わらないのがせめてもの救いか……」
銀髪に青い目という、なかなか素敵な容姿なのだ。
それだけでも良しと考えることにしよう。
◇◇◇
「また戦おう、アリー」
「次はどんな技を見せてくれるのか楽しみね」
「もう来んなよ!」
「あんた、もう連れてこないわよ!」
「いでっ」
レオンハルトさんをはじめ、それぞれに見送られながら、私は今日の訓練を終えた。これから研究所へ向かい、私の体に溜まったデータを解析していくそうだ。
「あ、渡すのを忘れていたのだ」
すると博士が、どこからか取り出した物を私に手渡してきた。
「これは……?」
「アリーは国家最重要機密の存在なのだ。だから軍の訓練に協力してもらうのも、上位の実力者のみになるのだ。それ以外の人物には、基本的に顔は晒さない方がいいのだ」
「そ、そういうものなの?」
「そういうものなのだ!」
渡されたのは仮面だった。
顔をすべて覆い隠す黒っぽい仮面で、なんだか悪役みたいだ。
「次の訓練からは、これを身に着けて行くのだ」
「わかった」
研究所へ向かう途中、私は一つ聞きたいことがあった。
「みんなが持っている武器には魔宝石が埋め込まれていたけど、あれがないと魔法は使えないってわけじゃないんだよね? リィゼルさんも、小さな火を指先に出してたし」
「それについては私から」
博士に聞いた質問を、リィゼルさんが引き取ってくれた。
「魔宝石とは、山、海、洞窟……あらゆる場所で発掘される、魔力を帯びた鉱石の一種です。使えば内在する魔力が枯渇するものもあれば、そうではないものもあります。アリー様のアレキサンドライトのように、特殊な性質を持ったものも存在します」
今日の訓練でわかったのは、ノートくんが所持していた魔宝石が爆散魔法と関係しているということだった。
「主な使われ方としては、使用者の扱う魔法の威力を底上げと内包されている魔法を使うために、それぞれの武器に埋め込まれているのです」
「へえ……じゃあ、魔法の力が弱い人でも、魔宝石があれば強い魔法使いになれるってことですか?」
「いえ、そうとは限りません。魔宝石にはそれなりの適応者が存在し、誰でも強くなれるわけではないのです。一般的に売られているものの中にはそういった物もありますが、爆発的に強くなることは稀でしょう――何かを代償にしない限りは」
最後の言い方が少し不穏だったけれど、基本的には誰でも一気に強くなれるような魔宝石は存在しないようだ。
おそらくノートくんの家に受け継がれてきた魔宝石も、その血筋の人だから扱えるといったものなのかもしれない。
また一つ、この世界の知識が増えたのだった。
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