第7話 解析・模倣
首がくっついたあと、私はシルヴィスさんとノートくんとも模擬戦を行うことになった。最初の相手はノートくんだ。
「君が死なないってことがわかったからね。遠慮なく吹き飛ばさせてもらうよ!」
「お、お手柔らかにぃ……」
身長は百六十センチくらいだろうか。私とほとんど変わらない背丈のノートくんは、赤い魔宝石が埋め込まれた杖を手に向き合った。
そして、間髪入れずに模擬戦が始まる。
「爆散しろ――〈エクスプロージョン〉!」
「…………へ?」
魔法をほとんど知らない私でも、魔力の奔流というものは理解できた。
ノートくんの杖から膨大な魔力が放たれ、それが私のすぐ目の前で展開される。
みるみるうちに赤い光が収束していき、それがぎゅっと小さな玉になると、視界が真っ白に――
「いやあああっ!? って、あれ……?」
「な、な……俺の爆散魔法が、なぜ……!」
本来なら、私はその爆散魔法とやらで塵となって消えているはずだった。
だけど実際には、目の前にあったはずの膨大な魔力が一瞬で掻き消えてしまっていたのだ。
『前に説明したではないか。アリーはアレキサンドライトが埋め込まれた最強兵器なのだ。剣ならまだしも、魔力を持つものはすべて吸い尽くされるのだ!』
「私、魔法が効かないってこと?」
「そうなのだ!」
良かった。さすがの私も不死身とはいえ、細かい塵のようなパーツになってしまっては再生なんて無理だろう。……たぶん、だけど。
「じゃあ、これならどうだ! 〈ロックスネイク〉!」
すると今度は、別の魔法を放ってきたノートくん。
わかってはいたけれど、人によって色々な魔法が使えるの!?
「ひぃぃぃぃぃっ!」
「逃げるなぁ!」
土の中から這い出てきたのは、蛇のようにうねりながら迫ってくる巨大な岩だった。しかも二頭。私はその二頭の岩蛇魔法から、必死になって逃げ回る。
さすがに岩は、私でも消せないのではないだろうか。
『アリー! 魔力を帯びているものはすべて効かないのだ! 手をかざすだけでアリーの勝ちなのだ!』
「っ……!」
そうだ。さっき私は、あの爆発寸前の魔法だって消してみせた。
博士の言う通り、あの岩がただの岩ではなく、魔力を帯びた岩だというのなら、それはちゃんとした魔法の一種。
なら、私はあの魔法も消せるはずなんだ。
怖い。怖いけど……!
「うああああああ〜〜〜っ!」
涙を飛ばす機能がついていて良かった。
もし涙すら流せなかったら、本当に百パーセントの機械みたいだから。
でも、ちゃんと涙は流れている。
私は涙を飛ばしながら、二頭の岩蛇へと向きを変えて突っ込んでいく。
「潰れろっ、ちんちくりんがぁぁぁ!!」
「嫌だぁぁぁぁぁっ!!」
いたいけな女の子に向かって「潰れろ」とは、どういう了見だろうか。
しかも、ちんちくりんとは何だ。
私はそんなに小さくないし、どちらかといえば博士くらいの背丈の方を、そう言うのではないだろうか。
ムカつく……。あのオスガキに目にものを見せてやりたい!
そう覚悟を決めた瞬間だった。
体の内側から、何かが湧き上がってくるのを感じた。
「博士! この反応は!」
「む、何か起きるのか!」
「アリー様は、ご自身で……!」
遠く離れた場所から見ているリィゼルさんと博士が、手元のタブレットを見ながら何か呟いている。
私は内から湧き上がる何かに身を委ね、そして両手を前へとかざした。
すると、その手の前方から赤い光が生まれ、それがやがて二頭の岩蛇へ向かって――
「なにぃぃぃぃぃ!?」
耳が弾け飛びそうな爆音が響き渡り、二頭の岩蛇は木っ端微塵に砕け散った。
土埃が空高くまで巻き上がり、しばらくしてそれが晴れていくと、ようやく何が起きたのか理解できた。
「ほう……クレーターができるほどとは」
顎に手を当てたシルヴィスさんが感心したように言う。
私の目の前にはかなり大きなクレーターが出来ていて、その中に砕け散った岩蛇の残骸が転がっていた。
「お、お……お前…………っ!」
「はは、なんだか凄いことになっちゃった……」
博士に説明されなくてもわかる。
これは魔法だ。素粒子魔導砲のビームでも、素粒子魔導剣のビームソードでもない。
「俺の〈エクスプロージョン〉をなぜ!? しかもさっき以上の威力で……!」
「これが〈エクスプロージョン〉なんだ……」
どうやら私は、先ほど受けそうになった〈エクスプロージョン〉という爆散魔法を使っていたらしい。ノートくんの説明でようやくそれを理解した。
「にゃっはっはっは! にゃははははっ!! アリー! 最高なのだ! 君は最高オブ最高なのだ!!」
語彙力がほとんどない博士が、私のもとへ駆け寄ってきて、そのまま抱きついてきた。……少し可愛い。
「えっと……これってどういうことなの?」
「それについては私から説明しましょう」
博士の後ろからついてきたリィゼルさんが、タブレットを手にそう言った。
「お願いします」
「アリー様の体に埋め込まれたアレキサンドライトという魔宝石には、魔力や魔法を吸収してしまう性質があると説明しましたよね」
「はい。だからノートくんの魔法を吸収して消しちゃったんですよね」
「そういうことになります。加えてハナハナ博士が生み出し組み込んだ装置には、相手から吸い取った魔法を解析し、模倣する機能があるのです」
「へ、へえ…………」
つまり、コピー機能か。
私にはよくわからないけれど、どうやら私の体の中にはスーパーコンピューターのようなものが内蔵されているらしい。
「ってことは何だよ、俺の魔法はそいつに真似されたってことか!? 爆散魔法はティアレンス家に代々伝わってきたレッドスピネルの魔宝石があるからこそ、ここまで練度を高めた状態で使えるんだぞ!?」
模擬戦はひとまず終わりのようで、ノートくんがクレーターを回り込んでこちらまでやってきていた。
「でも、こいつが使った〈エクスプロージョン〉は、さっき俺が出そうとした〈エクスプロージョン〉以上の破壊力だった!」
そうだったんだ。
ということは……どういうことなんだろう?
「ええ。それは単純な話で、アリー様の体に内包された莫大な魔力をそこに注ぎ込み、さらに破壊力を増した〈エクスプロージョン〉を放った、ということになります」
「これは相伝魔法なんだよ? 誰でも扱える魔法とはわけが違うんだ! それを破壊力を上げて、しかも一発目で放てるなんて……」
ノートくんの言葉の中に、気になる単語があった。
「相伝魔法ってなんですか?」
「相伝魔法は、その一家に代々伝わってきた魔法のことです。一般的に誰でも使える魔法とはわけが違います。ちなみに、その相伝魔法は魔宝石によって受け継がれるのが一般的です」
「ということは、ノートくんの爆散魔法はそのレッドスピネルの魔宝石があるからこそなんですね」
「それを、お前如きが……っ」
なんだかノートくんに物凄く嫌われた気がする。
それもそうか。親の世代、いや、そのずっと前から受け継いできた魔法なのだろう。
それを初対面の小娘に真似されたとなれば、プライドが傷ついて当然だ。
「研鑽を積みなさい、ノート」
「シルヴィス隊長……でも……っ」
「ふふ。要は戦い方ね。じゃあ、始めましょう――次の試合を」
王国軍魔女隊隊長、シルヴィス・レッドフィール。
彼女の身長はノートくんよりもさらに小さい。百五十センチ……いや、もっと小さいかもしれない。
それでも彼女は隊長なのだ。ノートくんは副隊長ですらない。
そう考えると、きっと彼女はもっともっと強いのだろう。
「死にたくないので、本当にお手柔らかに……」
「ふふ、楽しみね。――さて、先にこれを直しておきましょうか」
「えっ」
シルヴィスさんは、模擬戦を始める前に手にしていた大きめの杖を軽く振るった。
するとどうだ。クレーターができていた土の地面がみるみるうちに修復されていくではないか。
「すごい……」
わずか十数秒で、あれほど大きく開いていた穴は、すっかり平らな地面へと戻ってしまった。
「さあ始めましょう――私達だけの舞踏会を」
シルヴィスさんの杖に嵌め込まれた赤紫色の魔宝石が、妖しく光った。
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