第6話 酷い実験
「うぎゃああああああ〜〜っ!?」
ねねっち、ぱるるん。
私、いま――空を飛んでいます。
前世では足が不自由だった私だけれど、今は立つどころか空まで飛んでいます。
飛行機に乗っているわけでも、鳥人間コンテストに出場したわけでもありません。
私自身が、この体だけで空を飛んでいるんです。
でも――
「誰か止めてぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!?」
この世界には、浮遊魔法なる魔法が存在するらしい。
風系統の魔法を応用したものだと事前に説明を受けた。
そして私は今、その浮遊魔法を使って空を飛ぶ実験をさせられていた。
『意識を集中するのだ! アリーならできる! アリーは天才っ! 作った我も天才! にゃははははっ!!』
超スピードで空を飛び回る私の耳元から声が聞こえる。
どうやら私の体には魔力を介した通信機能があるらしく、ハナハナ博士が持つトランシーバーを通じて会話ができるらしい。
「意識って何なのかわからないよ〜〜〜っ!?」
「アリー! 鳥なのだ! 鳥をイメージするのだ!」
「鳥ってどうやって飛んでるの〜〜〜〜っ!?」
『あ、マズいのだ』
方向感覚を完全に失っていた私は、もう浮遊魔法をうまく制御できなくなっていた。ハナハナ博士の焦った声が聞こえた瞬間には、すでに手遅れだった。
「――ぐへぇっ!?」
私は頭から地面に激突し、まるで犬◯家の一族のように、足だけが地上に突き出た状態になってしまった。
◇◇◇
「凄いのだ! 全然傷がついていないのだ!」
「もっと心配してよぉ……」
軍の訓練場の地面に突き刺さっていた私は、なんとかリィゼルさんと、少し遅れて合流したハナハナ博士の助手である研究員たちに引っ張り出され、ようやく脱出することができた。
「痛いのは痛かったけど、あれで骨折してないのは不思議というか……」
「ん、アリーには骨はないのだ。何を言ってるのだ?」
「物のたとえだよ! ていうか、私に空を飛ぶなんて無理だよぉ……」
土まみれになった体をリィゼルさんがタオルで拭いてくれている間、博士は私の体をあちこち確認しながら、何かを確かめている様子だった。
「では次は、我が操作してみるのだ」
「えっと……何を言ってるの?」
「じゃじゃーん、なのだ!」
すると、どこから取り出したのか、博士はラジコンのコントローラーのようなものを手に掲げてみせた。
嫌な予感しかしない。
「では準備ができたら、次の実験をするのだ」
「ねえ、嘘だよね? まさかそれで私を飛ばすっていうんじゃないよね?」
「にゃははははっ」
一分後。私は再び空を飛んでいた。
「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!?」
私はドローンになった。
怖くて、目も開けられない。
ハナハナ博士の持つコントローラーによって、私は戦闘機のような速度で空を舞い、髪が引きちぎれそうなほどの風を浴びていた。
たぶん今の私の顔は、風のせいでとんでもなくブサイクになっているに違いない。
◇◇◇
「ひとまず浮遊魔法の訓練はこれくらいにして、次は戦闘訓練なのだ!」
「これだけでも疲れたっていうのに……戦闘訓練……?」
十分ほど休憩をもらったあと、すぐに次の実験へ移行することになった。
するとリィゼルさんが、少し前に紹介してもらった三人を連れてきていた。
騎士隊長のレオンハルトさん。魔女隊長のシルヴィスさん。そして魔法使いのノートくんだ。
ノートくんは、この体から見れば年上らしいけれど、背が低いので勝手にそう呼んでいる。まあ一番の理由は、彼がいわゆるオスガキと呼ばれるタイプだからだけど。
「博士、本当にいいのかい?」
「いいのだ」
「と、言っても……彼女、剣も何も持っていないみたいだけど」
どうやらこれから、私はレオンハルトさんと模擬戦をするらしい。
レオンハルトさんは、私を前に腰の剣を抜いて構えている。なのに、私だけは素手だった。これはハナハナ博士の指示らしい。
「大丈夫なのだ! レオンハルトには殺せないから、気にせず斬るのだ!」
「言ってくれるね……これでも騎士隊長をしている僕に」
博士の言葉に、レオンハルトさんの表情がぴくりと反応する。
今の絶対怒ったよね!?
博士、煽るのはやめてよぉ……。
「というか私、戦闘経験なんてないんだけど……何をすればいいの?」
「最初は簡単なのだ。腕を前に出して防御したり、余裕があればパンチでもして攻撃を返せばいいのだ」
「それが簡単にできたら苦労しないんだけど……」
人に向かってパンチをしたこともなければ、暴力を振るわれたこともない。
ただの女の子だった私に、どれだけ無茶をさせるつもりなのだろう。
……でも、この世界ではそれが普通なんだよね。
「――では、始めるのだ!」
私が不安を感じているにもかかわらず、無情にも模擬戦は始まってしまった。
博士の声と同時に、レオンハルトさんが剣を構えたまま走り出す。
「アリー、悪く思わないでくれ――」
「きゃあっ!?」
「なにっ!?」
レオンハルトさんは剣を振りかぶり、私を真っ二つにする勢いで上から斬り下ろしてきた。
怖くて思わず右腕を前に出したその瞬間――
なぜか剣は弾き返され、逆にレオンハルトさんの方が仰け反っていた。
「レオンハルトよ、アリーの前では魔力は意味がないのだ」
「ふふ……まさかそんなことが。代々僕が受け継いできたこの剣と魔宝石を持ってしても、彼女の前では無意味だと?」
「純粋な剣技でなければ、アリーは傷つけられないのだ。だから――本気でやらなければ一生勝てないのだ!」
「そうか……」
こんなにも強そうな人の剣を防げたことに驚いた。
だが、それがきっかけだったのか、レオンハルトさんの目の色が変わった。
それは今まで人から向けられたことのない、明確な殺意を帯びた目だった。
「きゃああっ!?」
「これも防ぐかっ!」
「た、助けてぇっ!?」
「アリー! そのままでは、いずれ斬られてしまうのだ! 反撃するのだ!」
「ど、どうやって!?」
次々と剣を振るい、連撃を繰り出してくるレオンハルトさん。
私はただ腕を前に出して、防御することしかできなかった。
博士は反撃しろと言うけれど、こんな速度で斬りかかられてはどうしようもない。
気がつけば、着ていた服の腕の部分も剣によって斬り裂かれ、少しずつ肌が露出していく。
――その時だった。
『素粒子魔導剣を使うのだ』
「っ!?」
浮遊魔法の時と同じように、耳元で小さく博士の声が聞こえた。
見ると博士はトランシーバーを使い、こそこそと私に指示を送っている。
『光が集まった剣を想像するのだ。魔法はイメージ。アリーならできるのだ』
「っ、そう言われても……!」
そういえば、私が最初に目覚めた時、右腕からビームを放っていた。
あれは驚きのあまり暴走したのだと思っていたけれど、どうやら私に搭載された一つの機能らしい。
あの時の感覚を思い出せ……。
じゃないと、このままレオンハルトさんに斬られてしまう――!
『空気……風……光……腕から伸びていく剣……』
博士の声が、続けて耳に届く。
その言葉に意識を集中させているうちに、私の中でイメージがどんどん膨らんでいった。
「――やるしか、ないっ!」
その瞬間、右腕が熱くなっていく感覚に包まれる。
ビームを出した時と同じように、体温が一気に上がるような感覚だった。
「やぁぁぁっ、あぁぁっ!!」
「なにっ!?」
なりふり構わず、思い切り右腕を振る。
するとレオンハルトさんの剣に触れ、ガキンと弾き返す感触が伝わってきた。
「そのようなこともできるのか」
「あ…………」
気づけば、手から半透明の剣のようなものが伸びていた。
よく見ると淡い緑色に輝いていて、私はそれをまるで剣の柄を握るようにして持っていたのだ。
「成功なのだ! アリー、反撃開始なのだ!」
「うっ、ああああああっ!」
剣なんて振ったことはない。
でも、私の新しい人生はここから始めないといけないんだ。だから――
「レオンハルトさんっ、すみませんっ!!」
前へと思い切りダッシュする。
半透明の剣を大きく振りかぶり、そのままレオンハルトさんへ向かって振り下ろした。
「――僕を舐めてもらっては困るな」
しかし、私の剣はあっさりと躱されてしまう。
勢い余った私は、大きな隙をさらしてしまった。
「あ、へ……?」
次の瞬間、視界がぐるぐると回転した。
そして、ぼとり――という鈍い音が響く。
視線の先には、なぜか私の体が立っていた。
「あらら……」
「うわっ、グロっ」
それを見ていたシーヴィスさんとノートくんの声が聞こえる。
「アリー、悪いね」
「ふん、その程度でアリーは殺せないのだ」
「わ、わわわわっ!?」
レオンハルトさんの謝罪の言葉のあと、私の視界は再び変化した。
すっと吸い込まれるように自分の体へ近づいたと思った次の瞬間、視界は元通りに戻っていた。
「首が取れても死なないだなんて……君はとんでもないね」
首が、取れても……?
「うぎゃあああああっ!? 首っ、首っ!? 繋がってる……っ!?」
「アリー! 素晴らしいのだ! 初めての戦闘なのに、いきなり素粒子魔導剣を使えるなんて、才能あるのだ!」
「そ、そんなことより首は!?」
「首はちゃんとくっついているのだ。首が取れても腕が取れても、胴体が切り離されても、自動的にくっつくようになっているのだ。だからアリーは絶対に死なないのだ」
「あは、あはははははっ………」
乾いた笑いが漏れた。
目の前のレオンハルトさん、シーヴィスさん、そしてノートくんは、なんとも言えない複雑な表情をしている。
――私は本当に、一割は人間なのだろうか。
むしろ、もっとずっと機械なのではないか。
そう思わずにはいられない出来事だった。
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