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国家最終兵器に魔改造された転生魔女、正体を隠して王立学園に通います~異世界で二度目の青春始めました~  作者: 藤白ぺるか@4/1美容スキル第1巻発売


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第10話 実践訓練②

「やぁぁぁぁ!!」

「グルォォォォ!!」


 私が一体の虎の魔石獣へ突っ込むと、相手も鋭い爪を振りかざし、真正面から飛び込んできた。素手で立ち向かっているせいか、どうやら完全に格下と見られているらしい。


 ガキン、と金属音が弾け、火花が散る。

 ――火花が散ったのは、虎の爪の方だった。


 私は瞬時に素粒子魔導剣を形成し、そのまま振り抜いて爪を削り取っていた。予想外の反撃だったのか、虎は大きく後方へ跳び、警戒するように距離を取る。


「怖くないぞ!」


 ――嘘だ。本当は怖い。

 でも、それ以上に博士たちを傷つけられる方が嫌だった。


「〈アイスエッジ〉!」


 すぐ隣でシルヴィスさんの詠唱が響く。氷の刃が空を裂く音が耳に届いた。

 彼女は隊長クラスの魔女だ。歴戦の強者――心配はいらない。


『アリー! これまでの成果を見せてやるのだ!』


 その時、トランシーバー越しに博士の声が届いた。ちらりと視線を向けると、ニヤリと笑っている。


 あんなに小さな見た目なのに、この状況でもまるで怯えていない。

 外見と中身が一致していないんじゃないかと思うくらいに、精神が出来上がっている。家にいる時だけは、年相応なんだけどね。


「……!」


 私は再び素粒子魔導剣を構え、虎へと踏み込む。

 だが今度は、ただ突っ込むだけじゃない。


 ――〈加速装置〉。


 足元から風系統の魔法を噴出させ、一気に間合いを詰める。


「やあああっ!」

「グルォッ!?」


 想定外の速度だったのか、虎は反応しきれず、その一撃を腹部にまともに受けた。

 鈍い手応えとともに肉を断つ感触が伝わり、血が滴る。


 生き物を傷つけた感覚に、胸の奥がざわつく。ほんの一瞬、吐き気にも似た感覚が込み上げた。


 落ち着け……落ち着け、私……。

 あれはただの動物じゃない。魔獣――それも魔石獣だ。

 ここで倒さなければ、アポフィス教団の手でまた誰かが傷つくかもしれない。


「グルォォォォォッッ!」


 その時、虎の体に異変が起きた。

 先ほどの個体には見られなかった変化だ。


「何あれ!?」


 筋肉が膨れ上がるように体が膨張し、一回り大きくなる。

 同時に、額に埋め込まれた魔宝石が、不気味な光を放っていた。


「――あれが魔石獣の特徴の一つよ。魔宝石から魔力を吸収して、さらに強くなるの」

「アリー殿。心配はいりません。あの個体は特別な技を使うわけではない。あなたならやれます」


 隣で戦うシルヴィスさんが簡潔に解説し、男性魔法使いが落ち着いた声で背中を押してくれる。


「前に教えたでしょう。長引く戦闘では相手の攻撃パターンを見極めて、その手段を潰すのよ!」

「……はいっ!」


 虎の攻撃手段――あの瞬発的な脚力と跳躍から繰り出される爪撃。さらに、あの鋭い牙。接近すれば確実に噛みついてくるだろう。

 ならば、狙うべきはそこだ。爪と牙を潰せば、勝機は見える。


「こいっ!」


 魔力で形成した剣を握り直し、私は再び駆け出した。虎の周囲を円を描くように走り、間合いを詰める。だが今度は、虎も私の動きをしっかり捉えていた。


「ぐ――っ」


 振り抜かれた鋭い爪をまともに受け、私はそのまま弾き飛ばされる。背後の大木に叩きつけられ、鈍い衝撃が背中を貫いた。


 ――誰も、私の心配はしない。


 少しだけ、寂しいと思った。

 ほんの少しくらい心配してくれてもいいのに。


 でも、それは信頼の証でもある。

 アリーは死なない――この三ヶ月で、皆それを嫌というほど見てきたのだから。


「痛いなぁ……」


 ゆっくりと立ち上がり、私は素粒子魔導剣を一度消した。

 たぶん私は、無意識に手加減していた。本気を出せば、もっと早く終わらせられたはずなのに――どこかで、生き物を殺すことをためらっていた。


 でも、もうやめる。

 これは命のやり取りだ。中途半端な覚悟の方が、相手にとっても失礼だろう。


「――〈アースウォール〉」


 手をかざすと、地面が唸りを上げ、巨大な土壁が隆起する。虎と私を囲うように壁がせり上がり、外へ出るには登るしかない閉鎖空間が出来上がった。


「グルゥゥゥゥゥゥ……」


 周囲を見渡した虎は逃げ場がないと悟り、再び私へと視線を定める。そして次の瞬間、迷いなく飛びかかってきた。


「いいよ。食べたいんでしょ?」

「グルォ!!」


 牙が私の左腕に食い込む。

 布は容易く裂けたが、肝心の腕は砕けない。硬質な感触に、虎がわずかに戸惑うのが伝わってきた。


 ポタポタと赤い液体が滴る。

 けれどこれは本物の血ではない。人間らしく見せるために再現された疑似的なもの――いわば赤い塗料のようなものだ。ただし、出血する箇所や量には制限があるらしい。


「美味しい? 美味しくないよね。だって私――機械だもん」

「グルゥ!?」


 虎が目を見開く。

 小さな体の私が、左腕を噛まれたまま平然と立ち上がったからだ。


 そのまま腕ごと持ち上げ、勢いよく虎を空へと投げ飛ばす。


 虎は咆哮を上げながら宙を舞い、やがて落下する。だが、ただでは終わらない。落下の勢いを利用し、再びこちらへ襲いかかろうとしてきた。


「虎さん、ごめんね――」


 右手を天にかざすと、手首の装甲がぱかりと開く。

 内部に集束していくのは、濃密な魔力の塊。白い光が一点に凝縮され――次の瞬間、私は素粒子魔導砲を解き放った。


 奔流となった光は壁いっぱいに広がり、〈アースウォール〉の内側を白く塗り潰す。

 そして光が収まった時、虎の姿は――跡形もなく消えていた。



 ◇◇◇



「――ひとまずこんなものね」


 気がつけば、騎士隊の二人も、シルヴィスさん率いる魔女隊も、それぞれ虎の魔石獣を討ち倒していた。周囲には、動かなくなった骸が二体分転がっている。


「アリー! やったのだ! 初討伐おめでとうなのだ!」

「博士っ!」


 駆け寄ってきた博士が、満面の笑みで私を称える。

 その顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなり――私は思わず博士を抱きしめていた。


「アリー、痛いのだ」

「少しだけ、こうさせて……」

「アリーは子供なのだ」

「うん。子供だよ。だって私は博士が作ったんだから、博士の子供」


 正確には作ったではなく改造した、だけど小さい事は気にしない。


「言われてみればそうなのだ! アリーは我の子供なのだ! にゃははははっ!」


 恐怖を一切感じていない博士。

 対して、死なないと分かっていても恐怖を感じていた私。


 ――今日の出来事は、確かに私の中の何かを変えた。


 もっと、命を大切にしたい。

 たとえこの先、人を手にかけることがあったとしても――


 そう、思っていたのに。



 ◇◇◇



 その後もしばらく、出現した魔獣を相手に討伐訓練を繰り返し、研究所でデータ採取を終えた頃には、すっかり夕方になっていた。

 そのまま帰宅し、迎えた夕食の時間――


「こ、これは……?」

「ああ、これはあの虎の魔石獣のお肉ですよ」

「なな、なななななっ!?」


 私の初討伐を祝して用意されたのは、焼き肉だった。

 ――ただし、その肉は、ついさっきまで戦っていた虎のもの。


「じゃあいただきますするのだー!」


 私が考えた世界だからか「いただきます」の文化があるらしい。博士は躊躇なく肉に飛びつき、次々と頬張っていく。


「アリー、食べないのだ?」

「だ、だってこの虎さんって、私が倒した……」

「何を言っているのだ。アリーが倒した虎は跡形もなかったではないか。これは残った二体の虎なのだ」

「そういう意味じゃないんだけど……」


 隣ではリィゼルさんが、当たり前のように白米と焼き肉を楽しんでいる。

 そして、もう一人――


「おい新入り。人様の作った飯に文句か? まだまだだな。こんだけうめぇ肉なんだ、食わないなら俺がもらうぞ」

「あーくん……」


 超肉食系の猫型サイボーグ、あーくんは、焼き上がった肉を次々と平らげていた。

 どうやら私と同じく消化機能が備わっているらしい。


「アリー様。今回はご自身で倒した魔獣を召し上がることになりますが、普段口にしているものも、すべて誰かが命を奪い、私たちに届けてくれているものです」


 リィゼルさんの言葉は、静かに胸に落ちてくる。

 それは前世の頃から、頭では理解していたことだった。


「私たちは、その命を糧として生きています。だからこそ、命を奪ってくれた人々にも、そして糧となってくれた生き物にも、感謝をしなければなりません」

「はい……」

「それはご自身で倒された魔獣であっても同じです。今回に限って言えば、魔女隊と騎士隊の皆様、そして――アリー様ご自身にも、ですね」


 当たり前のこと。

 でも、いざ自分の手で命を奪った後だと、その当たり前はどこか重く感じられた。


 昔、似たようなことを扱った某酪農作品を見た時も理解していたはずなのに――いざ自分の立場になると、簡単には割り切れない。


「さあ、食べましょう。美味しいですよ」


 優しく促され、私は小さく息を吐いた。

 覚悟を決め、箸を手に取る。焼き上がった一枚の肉を取り、タレにくぐらせる。


「――いただきます」


 そう呟いて口に運んだ虎の肉は――

 驚くほど、やわらかくて、美味しかった。


 



 


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