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国家最終兵器に魔改造された転生魔女、正体を隠して王立学園に通います~異世界で二度目の青春始めました~  作者: 藤白ぺるか@4/1美容スキル第1巻発売


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第9話 実践訓練①

「――今日は森で実践訓練をするのだ!」


 私がこの世界に転生してから、三ヶ月が経過していた。

 ハナハナ博士の実験や、軍の人たちとの模擬戦を繰り返す中で、私は少しずつ戦い方というものを身につけていった。


 そんなある日、博士は軍の訓練場ではなく、王都の外に広がる森林地帯で訓練を行うと言い、私を連れ出したのだった。


「わ……馬車だ……」


 初めて乗ることになった馬車。その隣には、馬に跨った四人の軍隊員が控えている。

 少数精鋭で向かうその森には魔物が生息しているらしく、私は今日、魔獣と呼ばれる異形の存在と戦わされることになるらしい。


 魔獣とは、魔素の濃い場所で生まれた動物が変異した姿で、一般的な動物の何倍も凶暴だという。鋭い角や牙を持つのが特徴的らしい。


 戦いには多少慣れてきたとはいえ、生き物を殺さなければならない。

 今から少し胃が痛い。胃はないんだけど(食べた物は体内で魔力に変換らしい)。



 ◇◇◇



「アリー。そろそろ今の生活には慣れてきましたか?」

「うーん。そうですね、慣れてはきたんですけど、監視がちょっと厳しいというか……」

「それは仕方ありません。アリーは国家最重要機密なんですから」


 四人乗りの馬車の中、私と博士、リィゼルさん、そしてもう一人――同乗していたのは軍の連絡係であるグレアム・エルレイン。

 彼はトレードマークのモノクルの位置を指で整えながら、私との会話を続ける。


「せめて王都の中を歩いている時くらいは、自由にさせてほしいんですけどね……」

「いずれ自由にはしますよ。でも、まだ早いです。そうですよね、博士?」

「そうなのだ! アリーがもう少し自分の機能をコントロールできるようになったら、監視を外してもいいのだ!」


 転生してからおよそ一ヶ月が過ぎた頃、私は初めて王都をリィゼルさんと一緒に回り、日用品や家具を買い揃えていった。

 体の九割が機械とはいえ、人間としての感情や欲求はしっかり残っている。だからこそ、自分の好きなものを選ぶ時間はとても楽しかった。


 でも、いつも必ず誰かが近くにいて、外にいる時は基本的に一人の時間がない。たまには一人でカフェに入って、のんびり過ごしたい――そんなささやかな願いすら叶わなかった。


 ちなみに私の位置は、GPSのようなものが埋め込まれているらしく、博士の方で常に把握できるのだとか。監視社会、こわい……。


「機能をコントロールって言うけどさ、どんどん新しい機能を追加してるじゃん!?」

「それはそうなのだ! アリーは最強なのだ。だから思いついた機能は全部追加するに決まっているのだ!」


 千の機能を搭載されているという私の身体。

 この三ヶ月だけでも、必要な機能も不要な機能も数多く体験してきたが、その間にも新しい機能はどんどん増えていった。


 正直、それを全部把握するなんて無理だし、今だって覚えている最中だ。

 それでも、脳にスーパーコンピューターが埋め込まれているからか、前世の頃よりも明らかに記憶力は向上している。だから一度覚えたことを忘れる、なんてことはほとんどなかった。


「アリー、そろそろ仮面を」

「森でもつけるんですね……」

「ええ。何が起きるかわかりませんからね。特にアポフィス教団の信徒は、あらゆる場所に潜んでいるようですからね」


 私は手にしていた黒い仮面を顔に装着し、魔獣が潜む森の奥深くへと足を踏み入れた。



 ◇◇◇



「魔獣がいるっていう話だけど、普通の森なんですね」

「ええ、そうね。この王都から東の森は、比較的危険性の低い森だと言われているわ。魔素も薄い方だしね」


 馬車を降りて歩き始めた中、隣でそう説明してくれたのは、魔女隊隊長のシルヴィス・レッドフィール。

 今回の訓練では、彼女が代表として二人の騎士と一人の魔法使いを率い、同行してくれていた。


 やってきた森は、日本でイメージするものとほとんど変わらず、背の高い木々に囲まれた緑豊かな場所だった。

 昔から人が通ってきたのか、道はそれなりに整備されており、馬車でも大きく揺れることなく進むことができていた。


「じゃあ、凶暴な魔獣はあまり出ないんですね」

「そう言われているわね」


 シルヴィスさんの部隊でも、何度か訓練で利用したことのある森らしく、地形や状況にも精通している様子だった。


「皆、レーダーに強い魔力反応があるのだ!」


 その時、後方をゆっくり歩いていた博士が声を上げた。

 手元には、私の位置を把握するものとは別の魔道具があり、それは一定範囲内の魔力の強弱を探知できるらしい。


 博士の声に反応して、騎士隊と魔女隊の面々が一斉に剣や杖を構え、周囲に警戒を向ける。


「グルゥゥゥゥゥ……ッ」


 やがて前方に、低く喉を鳴らす巨躯の影――魔獣と思しき存在が姿を現した。


「シルヴィス隊長! あれは――」


 だが、その様子がどこかおかしい。冷や汗を浮かべた女性騎士が、シルヴィスさんに問いかける。


「まさか、こんな場所に魔石獣……?」

「魔石獣って……?」


 シルヴィスさんの口から出た『魔石獣』という言葉。

 それは普通の魔獣とは違うものなのだろうか。


 目を凝らせば、人間の二、三倍はあろうかという巨体に虎のような姿で角を生やした魔獣が、一定の距離を保ちながらこちらを伺っていた。


「私から説明しましょう。――魔石獣とは、野生、もしくは人為的に生み出された魔獣に魔宝石を埋め込み、いざという時に操れるようにした存在です。そして、その個体は元よりも強化されています」


 近くにいた連絡係のグレアムさんが説明してくれる。

 だが、その説明の中に、どうしても引っかかる言葉があった。


「生み出す? 操れる……? どういうことですか?」

「まずは後者から。魔獣は通常、操ることはできません。しかし、一度捕らえた魔獣に特定の魔宝石を埋め込むことで、制御する技術があるようなのです」

「埋め込む……」


 今の言い方からすると、軍の研究所でも把握していない技術なのだろうか。

 前方の魔獣に目を向けると、額のあたりに石のようなものが埋め込まれているのが見えた。おそらく通常の魔獣には、あのような魔宝石は存在しないのだろう。


「もう一つ、魔獣を生み出すというのは、一般的な動物に対して強制的に濃い魔素を浴びせ、変異させることで生み出されます」

「ええっ……誰がそんなことを――」


 自然の摂理ならまだしも、そんな実験のような行為……絶対に良いものではない。そう思いたかったけれど、博士だって人体実験をしているのだから、強く否定もできなかった。


「――アポフィス教団です」

「そういえば、そういう組織があるって……」


 アポフィス教団は、世界から魔法を消し去ることを目的とした邪神アポフィスの復活を目論む組織だという。

 潜伏先は多岐にわたり、信徒の数も把握しきれないため、壊滅させるのは困難だと聞いている。そんな彼らが、二つの方法で魔石獣を作り出しているとは……。


「彼らも戦力を集めているのです。世界への反逆を起こし、自らの目的のためには手段を選ばない。――この魔石獣も、その一つに過ぎません」

「そうだったんですね……」


 グレアムさんとの会話が終わると、男女二人の騎士が前へと進み出る。

 その後方には、シルヴィスさんを含めた杖を持つ魔女隊が二人控えていた。


 私の存在は軍の中でも極秘とされているため、同行しているのはそれなりに階級の高い者だけだ。

 シルヴィスさんは実力者だから問題ないだろうが、人数的にはやや不安が残る。


「ここで必ずあの虎を仕留めるわよ! ――かかれ!」

「「はいっ!」」


 シルヴィスさんの号令とともに、騎士隊が一斉に動き出した。

 騎士隊と魔女隊は本来別の部隊だが、今回は最高位であるシルヴィスさんが指揮を執っている。


 剣を構え地を駆ける騎士達は、魔法を使っているのか人間とは思えない速度で虎の魔石獣へと迫る。左右から同時に攻撃を仕掛け、どちらか一方でも確実に一撃を通す――そんな戦術のはずだった。

 だが、虎の魔石獣はそれを容易くいなした。


「ちっ、あいつ素早いな」


 男性騎士が上を見上げる。虎の魔石獣は跳躍して剣閃をかわし、そのまま大木に四肢を掛けたかと思うと、次の瞬間には鋭い爪で反撃に転じた。


「ぐっ、重い……!」

「はぁ――ッ!」


 男性騎士が重い一撃を剣で受け止めている隙に、女性騎士が横から斬りかかる。だがそれすらも回避され、気づけば魔石獣は木々の間を縦横無尽に駆け回っていた。


「離れて! ――ぶっ放すわ!」


 二人の騎士にそう指示すると、彼らはすぐさま後方へ跳躍する。

 シルヴィスさんは隣の男性魔法使いとともに、虎の魔石獣へ向けて魔法を放った。


「〈アイスエッジ〉!」

「〈サンダーボルト〉!」


 弧を描く氷撃と、紫電を纏う雷撃が同時に炸裂する。

 その中で――シルヴィスさんの氷撃が、虎の魔石獣の体を深く抉った。


「グルォォォォォッッ!!」


 地面へと転がり落ちた虎の魔石獣は、腹部から血を流している。

 これでほぼ勝利は確実――そう安堵しかけた、その瞬間だった。


「「グルルルルルルル…………」」


 唸り声が聞こえたのは、私たちの後方。

 振り向いた先には、さらに二体の虎の魔石獣が、突如として姿を現していた。


「さらに二体!? 騎士隊、そっちは任せたわよ! 私たちは後方を!」

「「はい!」」


 負傷した虎の魔石獣は騎士隊の二人に任せ、シルヴィスさんと男性魔法使いは、私たちの後方へと回り込み、杖を構える。


「私が本気を出せば森ごと一瞬で消し飛ばせるけど、少し溜めがいるのよね……だからアリー。一体はアンタが仕留めなさい」

「わ、私ですか!?」

「博士を傷つけたいの? 戦いは相手に勝つためだけじゃない。仲間を守るためでもあるのよ!」

「っ……!」


 シルヴィスさんの言葉に、私は思わず博士とリィゼルさんへ視線を向ける。

 三ヶ月もの間、毎日のように顔を合わせてきた二人は、もはや家族のような存在だった。

 そんな二人が傷つく姿なんて、見たくない……だったら――


「ハナハナ博士は自分を守る魔道具くらいはお持ちでしょうし、リィゼル殿も、それなりに身を守る術はあるはずです。――ですが、このお二人については私にお任せください」

「グレアムさんが……?」


 そう言って、グレアムさんは懐から小さな杖を取り出し、一歩前へ出る。

 魔女隊が使うような大きな杖ではなく、まるで木の枝のような簡素なものだった。先端には小さな魔宝石が埋め込まれているが、その大きさも他と比べればかなり控えめだ。


「私は連絡係なのですよ? その連絡係が倒れて必要な伝達ができないなど、あってはならない。ですから私は、一つの魔法だけを徹底的に鍛え続けてきました」

「ぁ……」


 グレアムさんが杖を前に掲げて展開したのは、半透明の壁のようなものだった。


「一般防御魔法――〈マナシールド〉。それを私なりに変化させました」


 〈マナシールド〉は、全ての魔女にとって基礎となる防御魔法の一つで、魔力さえあれば誰でも扱えるとされているらしい。

 本来は杖を差した一点にしか展開できないはずだが、グレアムさんのそれは違った。自分と博士、リィゼルさんの三人を包み込むように広がり、まるで結界のように周囲を覆っていた。


「さあ、アリー。あなたの実力を見せてください。あの程度の魔石獣――あなたにとっては準備運動にもならないはずですから」


 不敵に笑うグレアムさんのモノクルが、きらりと光る。

 私はその言葉を受け、ぎゅっと拳を握りしめた。


「アリー、行くわよ!」

「はい! ――虎さん、覚悟して!」


 シルヴィスさんの声と同時に、彼女と男性魔法使い、そして私の三人は、二体の虎の魔石獣へと一斉に踏み込んだ。






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