第3話:麗しの近衛騎士、アレクシー参戦
リヴリー夫人からの「挨拶しろ」という圧力を完全無視してから数日。
私の配信チャンネル『マリーの優雅なティータイム』は、炎上マーケティングも相まって、登録者数がうなぎ登りだった。
しかし、ここで一つ問題が発生した。
フェルゼン(フェンリル)は確かに最強だが、彼はあくまで「ペット枠」であり、私の癒やしだ。彼にあまり戦闘の汚れ仕事をさせたくないし、何より私が画面に映り続けるには、私の代わりに前線で体を張ってくれる「前衛」が必要なのだ。
私は、ギルドの掲示板に求人広告を出した。
『【急募】護衛騎士。業務内容:ダンジョン探索の先導、および雑務。待遇:週休二日、残業なし、福利厚生完備。※容姿端麗な方優遇』
ブラックな騎士団が多いこの世界で、「残業なし」の文字は輝いて見えたのだろう。
面接会場(屋敷の庭)に現れたのは、息を呑むような美青年――いや、男装の麗人だった。
「お初にお目にかかります。元男爵令嬢、現在はフリーランスの騎士をしております、アレクシーと申します」
燃えるような赤毛を束ね、真っ赤な軍礼服を着こなす彼女。
その立ち振る舞いは宝塚の男役のように凛々しく、エメラルドグリーンの瞳には強い意志が宿っていた。
私は一目で合格を決めた。顔がいい。これは配信映えする。
「採用よ、アレクシー。貴女には今日から私の『専属護衛』になってもらうわ」
「はっ! ありがとうございます! では、マリー様……いえ、主君とお呼びすれば?」
アレクシーが騎士の礼をとる。
私は扇子を振ってそれを制した。
「いいえ。主従関係なんて古いわ。私たちが結ぶのは雇用契約。対等なビジネスパートナーよ」
「ビジネス……?」
「そう。私のことは『社長』と呼びなさい」
「しゃ、シャチョウ……?」
聞き慣れない単語に首を傾げるアレクシーだったが、私は「組織のトップをそう呼ぶのよ」と適当に教え込んだ。
こうして、私の小さな「弊社」に、優秀な社員第一号が入社したのだった。
◇
そして迎えた、新体制での初配信。
場所は「地下墓地の迷宮」。薄暗い石造りの通路だが、アレクシーの赤い軍服が鮮やかに映える。
カメラが回り始めると、コメント欄がざわついた。
『え、誰このイケメン』
『赤の軍服……もしかして「剣聖」の異名を持つアレクシー様!?』
『マリー様の新しい男か!?』
『いや、あれは女性だぞ! 男装の麗人キターーー!』
視聴者の食いつきは上々だ。
前方から、スケルトンの群れが現れる。私は優雅に指示を出した。
「業務連絡。前方より敵影確認。アレクシー社員、排除をお願い」
「イエス・マム! 直ちに遂行します!」
アレクシーが腰のレイピアを抜く。
その動きは、まさに**「華麗な剣技」**そのものだった。
舞うようにステップを踏み、切っ先が閃くたびに、スケルトンたちが粉砕されていく。無駄がない。美しい。そして何より、速い。
私は一歩も動かず、ただ扇子で涼みながらその様子を眺めていればいい。
(素晴らしい……これぞ私が求めていた『ワーク・ライフ・バランス』!)
戦闘終了後、アレクシーは乱れた前髪をかき上げながら、私の元へ駆け寄ってきた。
そして、キラキラとした瞳でビシッと敬礼する。
「社長! ご指示を! 次のエリアへ進みますか!?」
「ええ、頼むわ。安全第一でね」
「はっ! なんて部下思いの素晴らしいお言葉……! 一生ついていきます、社長!」
「忠実な態度!」
これだ。この「出来る部下」と「余裕のある上司」の構図。
コメント欄は爆発的な盛り上がりを見せていた。
『「社長」呼びwww新しいな』
『この主従、尊すぎる……』
『マリー様、何もしないで立ってるだけなのにカッコイイ』
『アレクシー様が楽しそうで何よりです』
フェルゼンという「カワイイ(物理)」に加え、アレクシーという「カッコイイ」を手に入れた私の配信は、死角なしのエンターテインメントへと進化したのだ。
◇
一方、その頃。
リヴリー夫人の部屋は、お通夜のような……いや、火山のような空気に包まれていた。
彼女は、血走った目でモニターのグラフを睨みつけていた。
画面に映し出されているのは、右肩上がりのマリーのチャンネル登録者数。
そして、それと反比例するように急降下していく、リヴリー夫人自身の視聴者数である。
「くっ……! なぜあの女ばかり……!」
ギリギリと歯ぎしりをする夫人の頭上で、飾りの帆船模型がメリメリと音を立てる。
マストに乗った数人の船員人形が、震動に耐えきれずにポロポロと甲板から落下した。
「私が……私が欲しかったアレクシーまで手懐けるなんて! あの堅物は私の勧誘なんて『興味がない』って断ったくせに、なんであんな新人の下についてるのよ!」
リヴリー夫人はハンカチを引き裂いた。
彼女のプライドは、マリーの「無視」と、アレクシーの「寝返り(に見える行為)」によって、ズタズタに引き裂かれていた。
「許さない……絶対に許さないわ! こうなったら、来週の『大規模レイド』で、直接わからせてやるしかないわね……!」
夫人の瞳に、どす黒い炎が宿る。
それは、私の平穏な「社長ライフ」を脅かす、最終決戦の狼煙だった。
【次回予告】
アレクシーの人気に嫉妬したリヴリー夫人が、ついに権力を行使する。「ギルドマスター(国王)命令」で、私のアカウントが凍結寸前!?
第4話:フェルゼンの夜は獰猛につき




