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光る板と承認欲求

作者: 猫治
掲載日:2025/12/14

夜になると、人間たちは一斉に座り込む。

箱の中でも、道の途中でも、布団の上でも。

まるで見えない合図が出たかのように、同じ姿勢で光る板を見つめ始める。


屋根の上からそれを眺めるのが、老猫の日課だった。

若い猫は最初、狩りの前の集中だと思ったらしい。


「獲物はいないのに、あんなに真剣だね」


「彼らは獲らない」

老猫は静かに言った。

「獲られるのを待っている」


若い猫は首をかしげる。

老猫は続けた。


人間は、板の中に自分の姿を放り込む。

笑顔、食べ物、風景、誰かと一緒にいる証拠。

それを見た別の人間が、指で軽く触れる。

その回数が増えるほど、彼らは安心する。


「撫でてもらってるみたいだね」


「撫でられている“気”になっているだけだ」

老猫は尻尾を揺らした。

「本当に触れられているわけじゃない」


若い猫は、ある人間を見つけた。

昼間、猫に餌をくれた人間だ。

その人間は今、部屋で一人、板を見つめている。

肩は丸まり、呼吸が浅い。


光る板に何度も触れるが、何も起こらない。

やがて、人間は自分の写真を消した。


「消したよ」

若い猫が言う。

「見せるの、やめたのかな」


老猫は目を細めた。

「違う。見せても、返ってこなかっただけだ」


沈黙が落ちた。

街には無数の光が瞬いている。

どの光の下にも、人間がいる。

だが誰一人、空を見ていない。


「ねえ」

若い猫が小さく言った。

「人間は、どうしてあんなものを作ったの?」


老猫はしばらく考えてから答えた。


「孤独の形を、数字にしたかったんだろう」


そのとき、下の部屋から声がした。

昼間の人間が、誰かと話している。

板に映るのは——猫の動画だった。


画面の中で、別の猫が転び、鳴き、眠る。

人間は笑った。

久しぶりに、ちゃんと笑った。


老猫は静かに言った。


「気づいたか」

「彼らは猫を見ているときだけ、数字を忘れる」


若い猫ははっとして、老猫を見た。


「じゃあ……」


「ああ」

老猫は夜風の匂いを吸い込む。

「彼らは自由になりたいとき、無意識に猫を見る」


屋根の下で、人間は板を置いた。

そして、窓の外の闇に気づき、こちらを見上げる。


目が合った。

ほんの一瞬。


老猫はゆっくりと背を向けた。


——猫は、見られなくても存在する。

——だが人間は、見られなければ消えた気になる。


それが、彼らが最後まで学べなかったことだった。


 

 人間が最も恐れることは、無視されることだ

            〜オスカー・ワイルド〜

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