二十一話
「さて、もう一つの本題に入りましょうか」
マリアが改めて子供達を見る。
本題といえば、その通りだ。ここには子供達の身体を診せに来たのだ。
という訳で、健康診断よろしく子供達を検査してもらうことになった。
検査といってもまさか身長やら体重やらを測るようなものではない。それらももしかしたら関係あるのかもしれないが、一番関連がありそうなのはやはり魔力。そして次に呪力だ。
魔力に関しては今更説明するまでもないだろう。空気と同様に大気に漂い、呼吸と同様に体内に出たり入ったりする。今まであまり深く考えたことはなかったが、口からというよりは全身から取り込んでいるはずだ。
そして、魔術師なんかはそれらをうまく活用して魔法陣を作り、魔術を行使する。火が出たり水が出たり。とにかく無から有を生み出す訳だ。
それを魔法陣なしでやってのけているのが、リィル達だ。魔力を魔法陣を介さずに直接操作して、事象を発生させている。
これを魔化兵士……つまり兵器運用するのが、この子達を作った組織の目的だったのだろう。
虫唾が走る……本当に、許せない。
「どう?」
「魔力の方は概ねリリシアの読み通りね。この子達の身体は魔力をそのまま扱っている……魔法陣なしなんて、本当に凄いことよ」
マリアはキラキラと目を輝かせながら、私の言う通りに術を使ってみせたリィルを見ていた。
何故リィルかと言えば、他の子は全然見せようとしてくれなかったからだ。
「……そう。じゃあ呪力の方は?」
こちらの方は少し聞くのが怖い。
呪力とは何か。
単純な話、呪いの力である。
呪いとは、出現すれば誰彼構わず燃え広がる火事のようなものである。
それにある種の指向性を持たせるのが呪力である。
言葉の上だけで言い表すなら呪術と言い換えてもいい。魔力、魔術と違い、呪力と呪術には言葉以上の差はあまりない。
なぜかと問われれば、そもそもそこまで体系化していない分野だからだ。私個人としては、やはり力は力、術は術なので、そこは言葉尻からニュアンスを異なると考えているが人それぞれだろう。
呪いの力を扱うにはどうすれば良いのか。そこがネックな故に、ほとんどの人類には扱えない代物なので。必然的に研究者も殆どいない。
呪力の扱いは簡単で、身体を呪いと同化させればいい。
……つまりは聖女にしか扱えない力なのである。
呪力は基本的には聖女の肉体を元通りにするように体内を循環している。それに対しての呪いはいわばガソリンみたいなもので、呪いを消費することで再生能力などを得たりしている。
つまりは、永久機関というものである。聖女の精神性を考慮しなければ。
……今回、リィル達に関しては呪力の方はあまりないとは思うが、それでも私より何年も先に呪いと戦っていた先輩の判断を仰ぎたかった。
「呪力……はあまり感じないわね」
「じゃあ呪いは関係なしにこんな身体に?」
「いいえ。呪術の痕跡は残ってる。魔力を扱えるようにするために、呪術を使ったんだと思うわ」
「……」
私は思わず閉口した。
こうまではっきり言われてしまうと、ショックだったのだ。
呪術の痕跡がある。
それってつまり、呪術として使いこなせるほど経験の積んだ聖女が、子供達を使って人体実験をしているという事になる。
そんな馬鹿な、と思わずにはいられない。
あの苦しみを受けて。
それを子供達に無理やり植え付けるなど。
想像すらしない。
最悪だ。
最悪すぎる。
私の中にも、真っ黒い感情が芽生えかける。
「――リリシア」
「――っ」
マリアがそんな私を咎めるように、目を細めて名前を呼んだ。
いけない。
聖女が呪いを産むようなことがあってはならないのだ。
こういう所が母やマリアから見てまだまだの部分なのかもしれない。
ちょっぴり自己嫌悪に陥りながら、しばらくマリアと子供達について話す。
「やっぱりその呪術を解呪することは出来ないの?」
「無理ね」
すっぱりと諦めるような声色だった。
「この子達の身体の中が凄い事になっているのは貴方だって分かっているでしょう? 『コレ』を取り外すっていうのは、それこそ心臓を抜き取るようなものよ」
「……でも、そんなものがあったらこの子達の身体はどんどん私たちと同じように」
呪いが身体にあるというだけで、どんな悪影響があるかわからない。
それに、周囲に呪いの影響だって与えてしまうかもしれない。
危険だ。
……いや、そもそもこの子達に施されたらしい呪術のエネルギー源は何だ?
呪術の力で魔力を扱えるとするなら、その呪術は何を燃料にして動かしている?
単純に一度その呪術を発動したら、子供達の体質諸共綺麗に変質させてしまい、以降は不要なのか?
それとも……子供達は体内で呪いも生成している?
「――リリシア、もう少し調べる必要が出てきたわ。この子達を借りるわよ」
「……」
ゾクリとした。
私は考えを読まれたのかと思いながら、慌てて頷く。
どちらにしても、検査は必要な事だ。念入りにやってもらったほうがいい。
「後で使いを出すわ。とりあえずリリシア……貴方は休んでおきなさい。長旅だったのでしょう?」
「いえ、待たせてもらうわ」
「――良いから、任せて」
「……はい」
有無を言わせぬ雰囲気に、私は頷いた。
子供達をここに置いておくのは心配だが、ここに居たところで私の仕事はない。
私はケイルを連れてこの場を後にする事にした。
「……リリシア」
去り際に、モモイが不安そうに私を見つめていた。
私は心配ないと微笑みながら、退室した。
「ケイル、貴方にも暇を出すわ。数日楽にしてて良いわよ」
「……」
いくら騎士として訓練されていると言っても、彼女も人。警戒状態のままいつまでも護衛など出来ないだろう。
私は王国内なら心配ないとケイルに言い含める。
「……わかりました」
ケイルはなんとも言えない顔で頷くと、暫くしてから別れる事になった。
……さて、やっと一人になれた。
考えるのは、無論子供達のことだ。
あの子達がもし、呪いを生み出す存在なのだとしたら。
私はあの子達を、処理する事が出来るだろうか。
いや、あの子達だけじゃない。
もし子供が、呪いの発生源だとしたら、私は、手を掛けられるだろうか。
今まで、あまり深くは考えたことなかった。子供は純粋で、なればこそ呪いなんて生み出さないと考えていた。
しかし本当は違うのではないか。
子供だろうとなんだろうと呪いは生み出せて、マリアがうまく処理していただけなのではないか。
私の頭の中に、答えのない問いがぐるぐる回る。
私は国と子供。どちらが大切なのだろうか。
二つの選択肢を与えられれば、子供と答えるかもしれない。
だが、国の選択肢にも子供は含まれる。
つまりコレは、特定の子供を助けるか、不特定の子供を助けるかの、選択肢だ。大人なんてどうでも良いが、子供は……選ぶなんて出来ない。
母が言っていた差別。もしかしてこれの事だろうか。
私は無意識に自分を納得させて、特別な子供を優遇している?
……難問だ。
どうやら私の子供を救うという欲望は、少なからず矛盾を孕んでいるらしい。
全ての子供を助けるには、一部の子供を切り捨てる必要があるのか。
そんなことはしたくない。
私はリィル達と同じくらい、今も苦しんでいる名も知らぬ子供達を助けたいと心の底から思っている。
この思いを消すことは出来ない。
さて、どうしようか。




