ヴェロニカ、アエトス一族から自由になる
エリザベートが来ると手紙で連絡があり、ぶち切れ状態のヴェロニカ。
エリザベートと騎士達を叩きのめすと息巻いており──
「またあの女が来る……!」
ヴェロニカさんが手紙を握りしめて言った。
「ああ、エリザベートさん、さんですか」
「もう我慢できん! あの女の騎士共を叩きのめして、あの女の顔面に拳をたたき込む!」
「今のお前ならできるだろうな」
シャドーボクシングをしているヴェロニカさんに、クロウが何でも無いように言った。
「え、そんな事しちゃって都の偉い人に怒られない?」
「構うか! こちとら絶縁済みだ!」
ヴェロニカさん、相当恨み辛みが貯まっているなぁ。
イザベラちゃん達も「ヴェロニカさん、大丈夫?」って気にするレベルだし。
「まぁ、我と梢が同行しよう、何かあった時の脅しは考えてある」
嫌ーな予感がするのは私だけじゃないはず。
そして夜、馬車がやって来た。
騎士達が並び、エリザベートさんが下りてくる。
「ヴェロニカ会いたかった──」
「これで貴様とは最後だエリザベート! 二度と私の前に面をだすなぁああああ!」
ヴェロニカさんが拳を構えて突進する。
騎士達がそれを防ごうとするが、ヴェロニカさんのパンチが鎧を破壊して地面に沈める。
私はドン引きしてそれを見ていて、クロウは満足げに見てる。
いや、ヤバくない?
エリザベートさんも唖然としてるよ?
「この糞女ぁああああ‼」
バチーン!
ヴェロニカさんの右手のビンタが炸裂する。
凄いいい音だった。
エリザベートさんは頬を押さえている。
勿論ぶたれた方の頬を。
目を潤ませて、そして──
「うわあああん! ヴェロニカが私をぶったぁあああ‼」
ギャン泣きし始めた、子どもかアンタ。
地面に沈められた騎士達が慌てて宥め始め、そしてヴェロニカさんの方を見る。
「ヴェロニカ! 姫になんて事を! それでもアエトス家の吸血鬼か!」
「アエトスの名は今日限りで捨てさせて貰う! 私はヴェロニカ! ただのヴェロニカだ!」
「正気か⁈」
「正気だ‼」
「ね、ねぇ。クロウ。吸血鬼がファミリーネーム捨てるってどういうこと?」
「その一族全員を敵に回すことになるが、ここにはお前がいる。ヴェロニカに新しいファミリーネームをくれてやれ。そうすれば愛し子であるお前の加護を持った存在として手出しができなくなる」
「え⁈」
「エンシェントドラゴン様に、愛し子様⁈」
私は少し考えていった。
「アルマ、ヴェロニカ・アルマ。これからは貴方をそう呼びますヴェロニカ」
「感謝の極みです」
ヴェロニカさんは頭を下げた。
「これで一族は敵に回せなくなったな、何せ愛し子様が後ろに居るのだからな」
クロウの言葉に騎士達が悔しそうに歯ぎしりをしたり、拳を握り締める音がした。
「ねえ、嘘よね。ヴェロニカ、ねぇ」
「言っただろう、お前が大嫌いだ、縁を切りたい程に。二度と始祖の森を訪れるな」
「その時は我が相手になろう、このエンシェントドラゴン、クロウがな」
「うう……」
泣きながらエリザベートさんは馬車の中に入り、そのまま騎士達と森を後にした。
後日、クロウが単独でヴェロニカさんの元実家がある夜の都の宮殿を訪れて、エリザベートさんの親や祖父母達などと話をしたそうだ。
結果、今まで甘やかされてきたエリザベートさんは、厳しい伯母の息子と結婚させられ、毎日厳しい花嫁修業を送っているとか。
騎士達よりも伯母の方が強いらしく、またエンシェントドラゴンであるクロウの命令もあるから特に厳しく躾をされているようだ。
その上でヴェロニカに今までの事を謝罪したいと言ったが、ヴェロニカの返事の手紙は「突っぱねる」というもの。
今更謝ってももう遅いんじゃお前ら、と言わんばかりの内容をしたためてあったらしい。
ヴェロニカさん、確かシルヴィーナより年上だから相当ストレス溜め込んでたんだと思う。
でももう二度と実家と関わらなくて済むということが分かったヴェロニカさんはキラキラして見えた。
うーん、ストレスためるって駄目だね。
と、そんなこんなでヴェロニカさんの問題は解決した。
ヴェロニカさんはアエトス一族から離れ、アルマというファミリーネームを私が与えたから今はそれを子ども達にも名乗らせている。
子ども達はアエトス家があまり好きじゃ無かったらしく、私が新しく与えたというのを喜んでくれた。
愛し子様からの贈り物、らしい。
まぁ、贈り物と言えばそうなるか。
フレア君もミラちゃんも喜んでるし、アレックスさんは奥さんのストレスの元が解消されてほっとしているみたいだしね。
「騎士達をぶちのめしたのか、私達も混じりたかったな」
「そうだな」
レイドさんと、ライガさんが、ブラッドワインの入ったグラスを傾けながら言う。
「いや、アレは私がやると決めた。あの騎士共に幼少時からあの女は守られていた。それがムカついていたからぶちのめしたかった」
「あのビンタは痛そうでした……」
「顔面殴っても良いがビンタで我慢した」
「何で?」
「顔面殴ったら、いくら庇護があっても文句言いに来るだろう絶対、だからビンタ」
ヴェロニカさん、考えてビンタ選んだんだな。
騎士の方々はがっつりボコって地面に沈めたのに。
そんな話をしているヴェロニカさんの屋敷に、クロウがやって来た。
「どうしたの、クロウ?」
「アエトス家の現当主が来たぞ」
ヴェロニカさんがぶふっとブラッドワインを吹きだした。
顔色が悪い。
「ヴェロニカさん、一緒に行きましょう。クロウも付き添いますから」
「なら、我らも付き添おう」
「そうだな」
レイドさんとライガさんが名乗り出る。
「じゃ、皆で行こうか」
「そ、そうだな」
ヴェロニカさんは頷き、私は引っ張って連れて行った。
馬車から既に下りていた女性がいた。
豪奢なドレスを身に纏う女性。
「貴方が今代の愛し子様ですか?」
「はい、そうです」
私がそう言うと、女性は頭を垂れた。
「私の昆孫が失礼した。あの孫は甘やかされすぎたのだ。本家筋で珍しく生まれた女子故に」
「甘やかした結果、ヴェロニカはここに来るまで多大なストレスを抱え混んでいたのだが?」
「エンシェントドラゴン様、申し訳ございません」
「エリザベートさんはもう此処に来ないと?」
「来孫の家に嫁がせた。嫁だからということで厳しくすることはないがエリザベートだけは厳しくしつけるようにいった、騎士共も昆孫から引き剥がした」
「徹底的ですね……」
「ああ」
そう言って、女性は言ってから何かを気付いたようにもう一度頭を下げた。
「名乗りを忘れておりました。愛し子様、私はベアトリーチェ・アエトス。アエトス家の現当主です」
「は、はぁ……」
「我が一族の恥に付き合わせてしまい申し訳ないです」
急に口調が丁寧になった
「あのー謝罪するなら、分家だったヴェロニカさんに謝罪を。発狂したり、ストレスで髪の毛むしったりしてたんですから」
「分家筋の昆孫ですね」
「血のつながり的にはそうなるのかな」
「そうなります。アルマという新しい名を授けられたのですよね」
「ええ」
私は肯定する。
ベアトリーチェさんはヴェロニカさんを見た。
「ヴェロニカ・アルマ」
「……何でしょう?」
「すまなんだ、何もしてやれず。これからは己の心のままに自由に生きよ」
「……ええ、そうさせて貰います」
「では、私の昆孫を頼みます、愛し子様」
「はい」
「それと、エフォドス卿、エスペルト卿。私の昆孫と仲良くしてください」
「既に仲良くさせて貰って居ます」
「ええ、とても」
「では、心残りはありません。ヴェロニカ・アルマ」
「はい」
「息災でな」
ベアトリーチェさんはそう言って馬車に乗って立ち去りました。
ヴェロニカさんはへたり込んだ。
「な、何か言われるかと戦々恐々してた……!」
「でしょうね」
ヴェロニカさんの手は汗でべっとりしていたもん。
手を握ってたから分かる。
「取りあえず、あの女と二度と会うことはなさそうだ」
「でしょうね」
「逃げてきたら分からんぞ」
「止めてください」
クロウの言葉にヴェロニカさんは心底嫌そうな顔をした。
まぁ、二度と会わないよう祈りましょうか。
ヴェロニカのストレスの元が解消されました。
アエトス一族という繋がりも、解消。
新しくアルマというファミリーネームを貰い、愛し子である梢の庇護にある吸血鬼となりました。
そして一族の長ベアトリーチェの登場。
ベアトリーチェは謝罪の為にこの地を訪れました、色々と思うところあったのでしょう。
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