クロウは語る
クロウはアルトリウス達三人に、梢の事について説明した。
別世界から来た事、梢の祖母が別世界にいった前の愛し子である事などを──
「コズエの真実、とは?」
「梢はまずこの世界の住人では無い、別の世界からやって来た者だ」
「⁇」
ティリオは首をかしげた。
「別の世界というものがあるのですか?」
「ある、梢はそこで暮らし、また処刑の時天に召されたとされる前の愛し子は梢の祖母だ、異世界へと転移させられたのだ、神の雷で」
「赤の他人ではなかったのですね」
「うむ」
アインの言葉にクロウは頷く。
「……では、何故コズエはこちらの世界に来たのだ?」
「梢は向こうの世界で生きづらさを感じていた、生きるのが苦痛だったのだろう向こうの『社会』の中では。死にたいと思う程に。前の愛し子から伝え聞いた神々は梢に雷を当て自分達の場所に連れて来た、そして別世界でどう生きたいか問うことにした」
「それが……」
「そう、始祖の森で暮らす事になった理由だ。梢は今は幸せだが、極東の者ではないボロがどこかで出る、そこをお前達にフォローして貰いたい」
「「「……」」」
「それとも何だ、このことを知って梢に幻滅したか」
「馬鹿な事をおっしゃらないで下さい」
「馬鹿な事ですね、本当。そんな事で幻滅するわけがありません、ただ話があまりにも突拍子もない事だったので驚いてただけです」
「私も幻滅などいたしません、コズエ様は、どのような出自であろうとコズエ様です」
三人はクロウの言葉をきっぱりと否定した。
「すまんな。あと、この件は梢には知られるな、今まで通り接しろ」
「分かっています」
「特に祖母が実は愛し子だったなんて情報は知られるな、向こうは赤の他人と思い込んでいるからな」
「分かりました」
「気をつけます」
「他に気をつけることはございますか?」
「取りあえず、ボロが出ないようにしろいいな」
クロウの言葉に三人は頷いた。
「あー疲れた。吸血鬼が親御さんのお子さん達のおやつ作ってコールは凄まじかった……ゼリーとかでなんとかしのいだけど……」
畑を終えて家に戻ろうとしたところをヴェロニカさんに捕まって家に行くと、子ども達のおやつ作ってコールが凄かった。
どうやら、ヴェロニカさん達が作ると何かが違うらしい。
ので、それが不満で私がもう一度つきっきりで料理を手伝って漸く満足してくれた。
シャーベットも、小量のレモン汁とか入ったけど子ども達全員に好評で良かった。
ヴェロニカさんが「料理を教わりたくとも、教われるのは愛し子である、コズエ様だけだからどうしようかと悩んで居た」とか言って居た。
子ども達は舌が肥えたらしく、夜の都のワインなんかは見向きもしないらしい。
また、自分達も肥えてしまったので少々飲むのが辛い、とか言って居た。
そんなに美味いのか私のところのブラッドワイン?
と思い都のワインを飲んでみた、うん不味い!
よくよく考えてたら吸血鬼の皆さんの舌が肥える原因のブラッドフルーツ最初から丸かじりして食ってたの私だわ、そんな奴が不味いから飲まないと言ってたワイン飲んだら不味いと感じるに決まってる
馬鹿か、私。
「梢か、なんかやつれているがどうした?」
「あ、クロウ。実はね……」
家に帰る途中でクロウと遭遇。
先ほどあった事を話した。
クロウはカラカラと笑った。
「まぁ、そうだろうよ。お前の作物は味も大きさも見た目も全てが超一流品だ。夜の都でも、その味を知ったら、他のブラッドワインなど飲む気にはなれんぞ」
「あーそうなんだ」
「それにお前のブラッドワインならがぶがぶ飲む必要は無い、二ヶ月に一度飲めば渇きが癒やされる」
「でも、美味しくてがぶがぶ飲んじゃう?」
「村の者はな、向こうで手に入れた連中はそれを理解している」
「なるほど」
「その結果村の者は舌が肥える」
「あー」
「まぁ、ヴェロニカの子ども達は元々舌が肥えていたのだろう、生まれつきな」
「ふぅーん」
「だから、村のブラッドフルーツ産の物は何でも美味しいと食べるだろう?」
「確かに」
「他の吸血鬼連中の子ども達もだ、ダンピール、吸血鬼関係無くお前が作ったブラッドフルーツを美味い美味いと食べている」
「そーだね」
「ところで、夫婦生活はどうだ?」
「まだ本格始動したばっかりだし、今まで別々の行動が多かったからちょっと違和感」
「そうか」
クロウは微笑んでいた。
「そんな顔してどったの?」
「いや、目覚めてお前の力に誘われてここに来て、神々の神託で暮らし始めたが退屈しない日々だなと、昔の愛し子達との日々を思い出す」
「んー……クロウは愛し子達と過ごす日々は楽しかった?」
「ああ、楽しかったとも? 愛し子達と過ごした日々はかけがえのないものだ。お前と過ごすこの日々もな」
「そっか、有り難う」
私も笑って返す。
「だから二度と失う事はさせん。お前には長く、長く生きて貰わねば、生き飽きる位に」
「うん」
生き飽きるとはどのくらいだろうか。
千年か、百年か、でも吸血鬼だから寿命がないよね。
まぁ、いいか。
生き飽きるまで生きてやる。
でも、その分楽しまないと。
毎日を楽しく、スローライフと言う名前のスローライフじゃない生活をしつつ、大切な人達との時間を大事にしたい。
「ただいまー」
「お帰り、何か飲むか?」
アルトリウスさんが出迎えてくれた。
他の二人はもう寝ちゃっているから。
「レモネード作ってくれる?」
「ああ」
アルトリウスさんはさくっとレモネードを作った。
私はそれを貰い飲む。
「ああ、美味しい」
レモンと蜂蜜の酸っぱさと甘さと炭酸のしゅわしゅわ感が心地良い。
「ふぅ、今日も疲れた」
「何があったんだ?」
「それがねー」
私は外に出た時の事を話した。
ヴェロニカさん達に頼まれて料理をしたこと。
そのことでクロウと話したこと。
全部。
「そう言えば前々から思ってたのだが、君はそれなりに料理ができるな?」
「あー、色々あって料理はできるようにしてたんだ」
「そうなのか」
元の世界の事なので深く言うつもりは無い。
「そうか、しかし頼られっぱなしだと私達の時間が削られるな」
「その時は一緒に来てくれる?」
「それくらいなら、勿論」
アルトリウスさんの言葉に、私は笑みを浮かべた。
安心したのだ。
それから眠るまで、アルトリウスさんとお話をした。
私が思ってることをただ言うだけだったが、アルトリウスさんは聞いてくれた。
それですっきりした。
色々と溜め込んでたんだろうな。
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
「そうだな、寝よう」
そう言って寝室に向かう。
「お休み、アルトリウスさん」
「お休み、コズエ」
そう言って棺桶が閉じる音が二つ聞こえた。
私はそのまま、目を閉じた。
夢を見た。
女性が焼かれる、誰も助けない。
石を投げている、止めて、止めてよ。
声がした。
『愛し子をこのように扱うなら、神である我らはお前達から愛し子を取り戻そう』
雷が落ちた。
死体は、ない。
『呪われよ、カインド帝国の者ども。神々はお前達を許しはしない』
「……」
「コズエ?」
「大丈夫ですか、コズエ」
「コズエ様、うなされてましたが大丈夫ですか?」
三人が私の顔を覗き込んでいた。
「うん……多分前の愛し子に関する夢をみたからだと思う……」
「何故今頃?」
「わかんない……クロウに相談しに行きたいからついてきてくれる?」
私がそう言うと三人とも頷いてくれた。
なんで、今頃あんな夢を見るんだろう?
何かあるのかな?
少しだけ不安になった──
クロウ、梢の伴侶三名に梢の事情を話します。
知ってもなお、三人の対応は変わりませんでしたね、梢は梢だと。
そしてブラッドフルーツ関連では、夜の都のワインがくっそ不味く感じた梢。
舌が肥えていたのもあり口に合わなかったのです。
ブラッドフルーツ丸かじりにしたりしてますしね。
夢は何故か愛し子関係の夢を見ます、その夢の意味とは果たして──
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