夫婦の時間(1)
梢がいない場所でアルトリウス達はリサに色々と相談していた。
その結果もう少し梢との時間を大切にするよう言われる。
一方梢は相変わらず忙しい生活をしていて──
「……ってコズエさんが言ってたわ」
コズエが畑仕事に熱中している間、リサは家に集まってる三人にそう話した。
「まぁ、結婚式を挙げたのは今年の春ですしね」
「そうね」
アルトリウスに言葉にリサは頷く。
「子どもが欲しくない訳じゃないんでしょう?」
「そうですね、自分が理由と言ってましたし」
アインの問いかけにリサは答える。
「吸血鬼だからという訳でも無いのですよね?」
「ええそうです」
ティリオの質問に頷いて答えた。
「多分アレは、三人で過ごす時間があまりないのにそういうことをするのはどうかという躊躇いをもっているのだと思います」
リサの一言に三人は黙り込んだ。
心あたりがあるからだ。
結婚式を挙げてから、一緒に居ようとするとコズエが呼び出しを喰らったり、他に頼られてあちこち行ったりでコズエとの時間を作れてない。
「この夏、大変だと思うけどコズエさんとの時間を大切にね」
「分かっています」
「そう致しますよ」
「ご助言感謝いたします」
三人はどうやってコズエとの時間を取るか考え始めた──
「ぶえっくしょい! えっくしょい!」
私は盛大にくしゃみをした。
うーん……誰かに噂されてるかな?
「コズエ様お風邪ですか⁈」
シルヴィーナが凄い速さでやって来た。
「いや違うよ、多分誰か噂してんじゃない」
「良い噂しかないですね!」
言い切るなよ、悪い噂かもしれないんだぞ?
まぁ、それは置いとこう。
「うーん」
「何かお悩み事ですか?」
「まぁ、悩みと言えばそうなんだろうけど……」
「どんな悩みであろうと、このシルヴィーナ。拝聴します」
「あはは……実はさぁ、アルトリウスさん達と結婚してから──三人と過ごす時間がめちゃ減ってる気がするんだよね」
「……」
「シルヴィーナ?」
「これはいけません! 私達がコズエ様に頼り切ってしまっているからコズエ様は新婚生活を享受できないなんて‼ いけません、いけません!」
大げさに捉えてない?
「シルヴィーナさんやーおーい?」
何かいけませんいけませんと呟いているシルヴィーナ。
「おーい、シルヴィーナさんやーい」
「コズエ様!」
「ひゃっひゃい⁈」
「今日と明日以降の王族の方々への対応は私共に任せて、夫であるお三方とゆっくりお過ごしください」
「え、いいの?」
「勿論です!」
「じゃあ、お願いね」
「はい!」
私はそう言ってその場を後にした。
「そうだ、前々からクロウに聞きたい事あったんだ、ちょっと寄ろう」
そう言ってクロウの家に向かう。
「クロウ、ちょっといいー?」
「構わんぞ、入れ」
ノックして入ると、クロウは本を読んでいた。
「何の本?」
「都で流行っている恋物語の本だ」
「へー、そういうの読むんだ」
「中々面白いぞ、昔の愛し子の恋について書かれているから事実と比較して読むと中々愉快だ」
「あ、そういう」
なんか損した気分。
「ところで我に何の用だ」
「ちょっと気になったんだけどさ」
「うむ」
「聖人とか聖女とか愛し子とかあるの?」
「そう言えばお前さんは常識が欠けていたな」
「悪かったですね」
仕方ねーだろ、元はこの世界の人間じゃないんだし。
「聖人や聖女は普通の国なら数名いる」
「マジっすか」
「愛し子は世界に一人しか居ない」
「えっとつまり希少価値は聖人・聖女<<<越えられない壁<<<神々の愛し子? みたいな?」
「その通りだ。希少価値だけでなく能力も同じだ」
「能力、も?」
私は首をかしげる。
「例えば聖女や聖人が雨乞いをすると普通の雨が降る」
「ふむふむ」
「お前が雨乞いをすると砂漠は草が生えてきて木々も生い茂り、泉や湖ができる」
「へいへいへい、ちょっとたんまクロウ。なんか大げさ過ぎない?」
「いや、事実だ。実際我は見てきたしな」
「マジか」
「それに聖女や聖人は祈らなければその地は豊かにならないが、愛し子はいるだけでその場所が豊かになる」
「うへぁ」
「だから昔は愛し子が産まれると、その国に確保しようとしていた。が、多くの愛し子は神の命を受け様々な場所を旅した、旅先を終の棲家としたり、故郷を終の棲家としたり愛し子によって分かれたがお前の前の愛し子以外は大往生して命を終えてる」
「……」
やっぱり前のがイレギュラーなんだろうな。
「愛し子の子は聖女や聖人になったりする?」
「なることは多いが、本人の素養次第だ。ただ、愛し子の子は皆妖精や精霊に愛される。それだけでも価値はある」
「ふぅーん……」
「まぁ、愛し子の子というだけで結構圧がかかるらしいが、神々や妖精と精霊がその辺しっかり対応してくれるし我も対応する」
「なるほどー」
「で、悩み事は一応は解決したか?」
「うん、一応」
「それならいい、早く家に帰って彼奴らの相手をしてやれ、このままでは我が文句を言われる」
「何でそうなるかは分からないけど、有り難うね」
私はそう言って自宅へと向かった。
「ただいまー」
「ああ、お帰り」
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ」
「あれ、まだ皆起きてる」
「まだ九時ですよ」
驚く私に、アインが時計を指さす。
「あ、本当だ」
「お酒でも飲みますか?」
「そうだね、久しぶりに梅酒サワー飲みたいし」
「同じ物を頼む」
「私もです」
「私もお願いします」
私は梅酒をとりだし、氷をコップに入れ、炭酸と梅酒を注いで軽く混ぜた。
人数分作って配る。
「はいどうぞ」
「有り難う、コズエ」
「有り難うございます、コズエ」
「有り難うございます、コズエ様」
「ううん、いいよー」
そう言って梅酒サワーを口にする。
甘い梅酒と炭酸の相性は抜群だ。
「そう言えばさ、シルヴィーナからお暇貰ったんだけど」
「お暇?」
「夫婦生活送れてないって愚痴ったらしばらくは休めみたいなこと言われた。まぁ、畑仕事はするよ、整備は私がしないといけないし、収穫できない位でかい作物もあるし」
「じゃあ、それ以外は基本ゆっくりできるな」
「まぁ、そうだね」
「実は先ほどシルヴィーナ氏がわざわざ家に来ましてね、私達は当分狩りとかは休みでいいと言われたんですよ」
「ええ、コズエ様と時間を取るように言われましてね」
「そうなんだ、でも、シルヴィーナだけで大丈夫かな?」
「そこはクロウ様と協力すると仰ってましたよ」
少し不安になる私にアインがそう言う。
「なら、大丈夫かな?」
「シルヴィーナなら大丈夫でしょう、クロウ様もいらっしゃいますし」
「そだねー」
「まぁ、子どもが構ってきたらそうはいかないがな」
アルトリウスさんの言葉に苦笑いを浮かべる。
「取りあえず、今日から少しの間だけど、ゆっくり四人ですごそっか?」
そう言うと、三人は静かに頷き微笑んだ。
その日は寝るまで談笑が続いた──
「明日はアイスクリームとシャーベットとかき氷を揃えると、で使い方は……え、えーっと」
「シルヴィーナ、少し落ち着いて確認しろ」
「はい! クロウ様」
アイスクリームを作る材料等の確認とシャーベットを作る材料等の確認、そしてかき氷は使い方とシロップの確認をしていたシルヴィーナにクロウが声をかける。
「それでお前とレームの時間が無くなったら元も子もないだろう?」
「大丈夫です、レームと一緒にやりますから!」
「……なら大丈夫か、ともかく無理はするなよ」
「はい!」
クロウはそう言って自宅へ歩いて言った。
「氷の精霊、妖精達よ、分かっているだろうな」
『わかってます! ちゃんと手伝います!』
『愛し子様がゆっくりできるように!』
「なら良いのだ」
保管庫へ向かっている氷の精霊と妖精に釘を刺すと、クロウは自宅へ入った──
夫婦の時間が取れてない梢とアルトリウス達。
周囲が気付いて、時間をなんとか確保できた様子。
またクロウと話をして、神々の愛し子がどういう存在であるかを知る。
クロウも、梢がアルトリウス達と過ごしていない事を気にかけていた様子。
夫婦の時間はどんなものになるのでしょうか。
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