各自が思う事と梢の対応
イリスと父ロッズの確執を眺める梢。
仲裁に入り、漸く孫サフィロを抱っこさせてもらえるが落っことしそうな雰囲気を出した為取り上げられるというオチに。
その後、正妃マリアから相談を受け、クロウと共に秋に行われると言うマルス王子の結婚式への出席を頼まれ──
「イリスや、そろそろ孫を抱かせてはくれんか?」
「お断りだ、未だに結婚許してない親父殿には抱かせられん」
まだわだかまりあるんかこの二人。
ロッズさん、もう二十年も経ってるんだからそろそろ許しても良いんじゃない。
「それはお前が勝手に家出するから……」
「『素性の知らん吸血鬼なんぞと結婚するよりも正妃候補として正妃になる方が重要だ』だったか? 私はその素性が知れない吸血鬼と結婚して夫婦になったんだ、それにサフィロは待望の子だ、そんな事言った親父殿には抱かせん」
うわーイリスさん根に持つタイプだなー。
まぁ、気持ちは分からんでもない。
そして少し離れたところにいるグレイスさん。
どうしたらいいか分からないから困った顔しとるぞ、イリスさんそんなグレイスさんにサフィロ君を抱っこさせたぞ。
「ともかく、親父殿。私はまだその台詞を恨んでいるからな」
「うぐむむ……」
ロッズさんどうしたら良い物か悩んで居る。
「イリスさん、気持ちは重々分かります。が、突如大事にしている娘が家出して、消息不明になって、挙げ句一回死んで蘇ったロッズさんの親としての気持ちに多少手心を加えてさしあげても……」
「むぅ」
イリスさんは不満げだ。
「まぁ、イリスさんからしたら全てを捨ててでも添い遂げたい相手を初めて見つけた喜びがあったのでしょうが、親のロッズさんから見たら吸わずとはいえ吸血鬼、娘が不幸になるんじゃないか、イブリス教の連中に何かされるんじゃないかと心労が絶えなかったのでしょう」
「まぁ……それは分かる、吸血鬼は忌避される存在だからな。イブリス教は今は大人しくなっているが当時は過激だったから、イブリス教が来ないような土地で暮らしてたのだ」
「イブリス教が来ないような土地となると、ロッズさん達も行方を捜すこともできない、安否の確認もできない。漸く安否確認ができたのが去年の話なんですから二十年も愛娘の行方を知れなかったロッズさんの心労は相当ですよ。サフィロ君が大人になって二十年も行方不明になったら心労半端ないでしょう?」
「それは、そうだな……コズエ様」
「許せとは言いません、ただイリスさんも普通の親なら子どもの事を心配するはずです、それと同じようにロッズさんは心配だったのでそんな言葉を言ったのでしょう、普通の親は子どもの幸せを願うものですから」
「……」
イリスさんは無言になってしばし考えた。
そしてグレイスさんの元に行き、サフィロ君を抱っこすると。
ロッズさんのところに行き。
「落とすなよ、私の大事な息子だ」
「お、おお」
ロッズさんは、サフィロ君を抱っこした──
のは良かったんだけど、ロッズさんはご老体。
プルプルしてるので即効で取り上げられた。
「落っことしそうな老人には抱っこさせられん!」
「うう……儂がもう少し若ければ……」
流石に其処まで面倒は見れないので私はその場を後にした。
筋トレしなよ、ロッズさん。
としか言えないけど、言わなかった。
「そちらの話は終わったか?」
「マリア様、どうしたんですか?」
「何実は愛し子様に相談があってな」
アイテムボックスから取り出した椅子に二人で座る。
「で、話とは?」
「マルスの結婚式だ、宜しければ愛し子様とエンシェントドラゴン様に出席を願いたい」
「いつ頃で?」
「今年の秋だ、もう四人も結婚して良い年だし、学校も卒業している。そして妃教育も誰も遅れること無く済ませた」
「凄いですね」
「私達の時はメリーウェザーが足を引っ張ったが、マルスの妻達はお互いに支え合い、励まし合っているから妃教育で遅れることは無かった」
「あー……」
こんな時代から足引っ張ってたのかイザベラちゃんを誘拐アンド奴隷にして売り飛ばそうとした輩は。
「最初は今年の春の式を挙げてはどうかと意見したのだが、婚約者三人が『私達も愛し子様にお会いしたい! お目にかかってから式を挙げたい』と意見してな」
「はぁ、ところでクロウはなんと?」
「エンシェントドラゴン様は『愛し子である梢がいくなら行く』と仰っていた」
クロウこういう大事な選択私に放り投げんなよ!
「行ってもいいですけど、私夕方からしか参加できませんよ?」
朝おきれねーもん、吸血鬼だから。
「勿論それは重々承知だ、だから愛し子様の時間に合わせて式を行う事になる」
「いいんですか?」
「勿論、イザベラも式に参加して欲しがってるし、マルスもああ見えて貴方に式に参加して欲しいようだ」
そんな風に見えないけどなぁ。
そうなんだろうなぁ。
「それに後数年もしたらマルスはここに自由にこれなくなるだろう」
「王太子だからです?」
「ああ、王の替わりにやる仕事が増える、国王になる為に。それまでは──」
「あの子を少しでも自由に此処に来させたい。これは私とクレアの意見だ」
「……わかりました」
私は微笑んで答える。
「すまないな、王族の勝手で振り回して」
「いえ、この程度なら」
パーン、パーンと音がした。
空を見上げると花火が大輪の花を咲かせて居た。
「おや、花火か」
「だれかな、普通の火ではこの森の木々は燃えないから良いんだけど」
「梢様ー!」
「あら、一二三ちゃん」
浴衣姿の一二三ちゃんがとっとこ歩いてやって来た。
「伯父様達が花火をあげてるの!」
「伯父様達?」
「うん、五郎伯父様達よ、里では有名な花火職人だったの」
「たしかに、立派な花火だね」
夜の空に咲き誇る大輪の花を見て私は言う。
「でも、ここに来たら里のお祭りとかはどうなるの?」
「残ったお弟子さんと、お祖父ちゃん達がいるから大丈夫です!」
「なるほど……」
こうしてイザベラちゃん達が来た一日目はゆっくりと過ぎていったのだ。
「ふぁああ」
日が沈む少し前頃私は目覚めた。
夏場は夕方だとかなり遅い時間になる、日照時間が長い所為だ。
そこは元居た世界と変わらない。
他の吸血鬼さん達は日が沈むまで起きてこない。
まだ食事を取る時間でもないので切り分けておいたブラッドフルーツを囓り、歯磨きをしてジャージを着て、髪を整える。
「よし、行くか」
聖獣の世話をして畑仕事をしていると、子ども達が寄ってきた。
「コズエ様、果物が沢山採れたので冷やしておきました!」
「ルフェン君有り難う」
「コズエ様、私も手伝ったのよ?」
「イザベラ様も有り難うございます」
「もう、見張りの目がないからイザベラで良いのよ?」
「誰が聞いてるか分かりませんからね」
むくれるイザベラちゃんを宥め、私達は保管庫へ向かう。
真冬並みに冷え込んでいる保管庫。
魔法をかけているのでアイテムボックス同様ここでは食べ物がしなびることがない。
ちょっと複雑な魔法だけどシルヴィーナと共同で作り魔法の氷で温度を下げ、空間魔法でアイテムボックスを疑似的に再現している。
だから、我が村は食料に困ることはない。
畑も種を蒔いたら翌日には芽を出し、数日後には収穫できる。
早ければ二日で収穫できたりする。
だから野菜不足で困る事はない。
肉の方だが、この森には多数の肉になる動物等が居るので、それを狩れば良い。
神森の動物は他の動物の何倍も大きく育つのだ。
だから大きく育った動物を男衆が狩りに行っている。
イリスさんもたまに混じってる。
だから森から出るときは人に頼まれた時位だろう、そう思って居た。
一人になった途端、スマホが鳴った。
「はいはいもしもし、こちら梢」
『おお、梢か。大変な事になった!』
「な、何がですか!」
神様が焦っているようだった。
『下級神達がお前が愛し子なことに腹を立てて、お前の世界から別の愛し子モドキをつくりよった!』
「は、はあああああああああああ⁈」
穏やかな夏は一時的に中断させられる事となった──
イリスとロッズのわだかまりは若干解けましたが、赤ちゃんって意外と重いですよね。
なのでサフィロは即効取り上げられました。
筋トレ大事。
正妃マリアの相談はクロウが梢が出るなら出るというもので、梢は少々困りましたがイザベラ達のことも考え出席することに。
そして大問題、下級神達が愛し子もどきを梢の世界から呼び寄せ力を与えてしまったというもの。
次回早々に対処するでしょう。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。




