フェンリル達に名付け
梢がシルヴィーナに叩き起こされて見たものは大きな白い狼の群れだった。
梢はその狼──フェンリルの群れに名前をつけていく。
その後、クロウが群れの長らしき存在──白亜に話しかける──
「オゥイエ」
夕方シルヴィーナに棺桶を叩かれて叩き起こされて、外を出たら六匹の真っ白で巨大な狼みたいなのが居ました。
「えーと、夢?」
「夢じゃありません‼ 間違いなくフェンリルの群れです‼」
「フェンリル⁈」
『愛し子よ』
「え、私⁈」
驚愕している私に、どこからともなく低くも心地よい声が耳に届いた。
『我らは名も無きフェンリルの群れ。風の精霊から聞き、神の愛し子がこの世界に現れたと聞いた。この始祖の森で暮らしていると』
「あーはい、そうです」
『宜しければ、我らも此処に住まわせてはいただけないでしょうか?』
「え⁈」
私は少し考える。
「住処は家畜小屋位よりちょっと大きい位でいい?」
『構いません、いざとなれば適当な場所で休みます』
「いやいや、それは……」
私はそう言って、斧を振り下ろしクラフト能力で開墾し小屋を建てた。
「これでいい」
『なんと立派な……愛し子様、有り難うございます』
「愛し子って……私、梢って名前があるんだけど」
『ではコズエ様。我らに名前を与えてください。さすれば、より強い力となるでしょう』
「えーと……」
私はそれぞれを眺めて言う。
「じゃあ、貴方は白亜」
『承知しました、コズエ様』
ぱぁっと光り輝く。
「で、貴方が青藍」
『有り難うございます、愛し子様』
再度ぱぁっと輝く。
『で、貴方が琥珀で、貴方が石榴。貴方は翡翠で、貴方は玉髄』
色の名前にしようとおもったけど、全員体毛が真っ白なので、白亜以外は目の色にした。
『有り難うございます、コズエ様』
『有り難うございます! コズエ様!』
『感謝いたします、コズエ様』
『名をくださり、感謝の極みです。コズエ様』
「あ、あはははは……ところで、皆目の色が様々だけどどうなの?」
『我らフェンリルにも得意分野はございます、魔法の、ですが』
「ほむほむ」
『私と琥珀、玉髄は全てを得意とする為、黄金や虹色の目をしているのです』
「なるほど」
『私の青い目は氷や水魔法が得意な証なのです』
『私は火魔法を得意としているの』
『私は風魔法と植物魔法』
「んーでも、得意と、しているだけで……皆さん使えるんですよね、魔法全部」
『『『『『『その通りです』』』』』』
Oh、フェンリルってやべぇな。
『やっぱり来よったか』
『やはり居たかエンシェントドラゴンの爺』
小さい竜の姿でクロウさんが出て来た。
『いうとくがここではやらんぞ。梢達に被害が及ぶし、何より──』
『怒った梢は儂等じゃ太刀打ちできん、儂には分かる』
クロウさんがどこかげんなりした風に言う、私怒ったことないんだけど?
『そんなにか……!』
「えー私、そんなにヤバい?」
『ここではなんじゃし、ちょっと離れた所にいこうかの?』
と言うわけで白亜に乗ってそのまま森の反対側へと行った。
途中でユグドラシルの前を通りクロウが「ちょっと迷惑かけるかもしれん」と言っていた。
斧をとりだし、小さな広場を作り、斧をしまう。
『梢。儂等に向かって敵意とか殺意とか向けてみるんじゃ』
「ちょ、ま、無茶振りすぎません⁈」
『大丈夫です、コズエ様。そう思うだけでいいのです』
「じゃ、じゃあ……」
私は少し考える。
イザベラちゃんを裏切った連中、そして奴隷商人共のことを。
──ユルサナイ──
凄まじい殺気と敵意に、クロウと白亜は圧倒された。
同時に放出される魔力にも。
頭上を見上げれば月が赤い満月に変わっていた。
『これは一体……』
『真紅の月じゃな……真祖の中の真祖が日中でも夜に変化させるという……』
『神の愛し子が吸血鬼故の証か?』
『そうじゃな。今攻撃したら、確実にこっちが大怪我じゃな。よし、おーい、梢もういいんじゃぞー!』
クロウは声を張り上げた。
『もういいんじゃぞー!』
クロウのその声に私は我に返る。
なんか森の空気が全然違う。
生き物が居ないような空気がした。
「な、なんか生き物がいない空気しない?」
『そりゃあおぬしの殺気に生き物たちは気絶しとるからな』
「ええ⁈」
私は驚愕の声を上げる。
『まーしばらくすれば、意識を取り戻すじゃろうて』
「私、そんなに恐ろしい存在だったの……」
『吸血鬼で愛し子のくせに何寝ぼけたこといっとるんじゃ?』
『エンシェントドラゴン、コズエ様に不敬だぞ!』
『儂はお前さんと違って梢と契約しとらんからいいんじゃよ』
「契約?」
首をかしげる私。
『そうじゃ、梢。お前さんさっきフェンリル達に名前をつけただろう、それで獣魔契約は完了しとるんじゃ』
「な、なるほど……あれ、じゃあクロウは誰と契約してるの?」
『そりゃー儂は神様じゃの』
ひょえ、エンシェントドラゴン怖し。
『まー愛し子のお前が本気だせば儂も危ういんでな、おぬしは神様から言われた「すろーらいふ」なるものを満喫するといい』
「うん、そうする。じゃあ戻ろうか」
『畏まりました』
そのまま私は白亜に乗り居住区に向かう。
戻ると子ども達がまだ起きていた。
「どうしたの?」
「ぼくらが収穫したブラッドフルーツです、どうぞ!」
「ありがとう」
私はブラッドフルーツに齧りつく。
血の濃厚で甘い味が広がる。
「どう、ですか」
「まぁ、吸血鬼だから美味しいよ、でも……」
「で、でも……」
子ども達が表情をこわばらせる。
「晩ご飯用に作ったスープとパンと果物のセットがいいなぁ私は」
と感想を述べると、何故か子ども達は嬉しそう。
「晩ご飯まだだったら食べる?」
「良いんですか?」
「いいよー」
と家に招き入れ、ジャガイモのスープ (購入したミキサーで作った)と、作っておいたパン、それから事前に収穫して加工しておいたラズベリーのジャムに、ブルーベリーを入れたヨーグルト。
「じゃあ、食べようか」
「わーい!」
子ども達はわいわいと椅子に腰掛けながら食べ始めた。
「うん、美味い」
スープはなかなかの出来だった。
美味いな。
牛乳とジャガイモとブイヨンの素ぶち込んで煮込んでミキサーでガーしただけだけど美味い。
「この子達の親御さん見つかればいいんだけど……」
そう言いながらパンをちぎって口にした。
子ども達やシルヴィーナさんが寝静まった後、私は農作業に戻る。
「昼夜逆転の所が吸血鬼らしいな」
「クロウ? うーん、人方になった途端口調変わる貴方に言われるとなんとも」
「おやでは」
クロウが小さなドラゴンの姿になる。
『これでよいじゃろ』
「あ、うん。ねぇクロウあの子達の親御さん此処にこれるかなぁ?」
『入り口までは入れるじゃろ、じゃがお前さんが許可を出さないなら「神森」は迷いの森と化す』
「うへぇ」
『まぁ、日中はシルヴィーナが門番しとるし、夕方おぬしが目を覚ましたら行けばよかろうて』
「さよですか」
『コズエ様』
白亜が声をかけて来た。
「なぁに」
『この森に向かってくる貴族の馬車があるそうです』
「到着時刻は?」
『おそらく明後日の夕刻──』
「さて、迎えか、否か。見極めないと」
私は居住区の入り口をじろりと眺めた。
梢は実はかなりヤバいレベルで強い存在であることが本格的に示唆されました。
殺気だけで周辺の生き物失神させちゃうんですからヤバいですよ。
そして、イザベラの迎えらしき馬車。
梢は偽物か、本物か、かなり緊迫しています。
だって偽物入れちゃったらイザベラ達がまた危険な目に遭いますからね。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
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