幽閉皇女と騎士について
梢はクロウに呼び出され、ドミナス王国に同行させられる。
ドミナス王国の王宮の会議室で偉い方々と対面しつつ、何故ここに来たかを知らされる。
それは、ロガリア帝国の皇族で唯一呪われていなかった幽閉されていた皇女ネヴィアとその世話役の騎士ランスロットの処遇についてだった──
クロウが出掛けて七日後の夕方、私はクロウに呼ばれた。
「どうしたの?」
「出掛けるぞ」
「神森?」
出掛ける場所と聞いたらそこしか思い浮かばない。
「いや違う」
「ドミナス王国だ」
「へ?」
私は耳を疑った。
「どーしてこうなったのー⁈」
ドラゴンになったクロウの背中に乗り叫ぶ。
「まぁ簡単に事情を話せば、ロガリア帝国滅亡、王族や教皇、司教などは見事神の呪いを受ける、しかし塔で幽閉されていた皇女と騎士のみ呪いを受けずに済んでいる、皇女と騎士の対処をどうするか」
「普通は処刑なんじゃないのー⁈」
「神々に呪われているのであればな。だが呪われていないそれどころか国が異常だと判断していた為幽閉していた娘の扱いで悩んで居るそうだ、神々も処刑するなかれと神託を下しているから」
「なるへそー」
「おお、ドミナス王国の城に着くぞ」
「へーい」
大きな城の前に着陸するクロウ、私はその背中から下りる。
クロウは人型になった。
「愛し子を連れて来た、案内せよ」
やってきた、なんか地位の高そうな人が腰を低くして頭を下げて私達を案内した。
「おお、其方が愛し子のコズエ様か! お初にお目にかかるドミナス王国の国王アルフォンスだ」
「お初にお目にかかります、コズエです。アルフォンス陛下」
「コズエわざわざ始祖の森から来てくれてすまぬな」
「いいえ、正妃マリア様。して議題とは」
「まずはこちらに来てくれ」
と言って円卓の間に通される。
国の代表らしい人達が座っている。
「貴方様が愛し子様ですか」
どこかの国の代表が問う。
「そうだ、このものが愛し子だ」
「それは失礼致しました」
クロウが言うと、その人は頭を下げた。
まぁ、吸血鬼で愛し子なんてそりゃあ無いだろうと我ながら思う。
「今回の議題は、唯一呪いを受けなかった騎士ランスロットと、ロガリア帝国の皇女ネヴィアについてだ」
「神々が呪っていない二人だ、神々も処刑するなと仰っている、がどうすればいい? 貴族に見つかればロガリア帝国復活の礎にされるのは見えている」
「貴族達逃げちゃったんですか?」
「捕まえた者と逃げた者半々だな。あの時軍を侵攻させるため、妖精と精霊は防壁を解除してしまったから」
「なるほどー……ところで、ネヴィアさんが皇女だと知っている方はいらっしゃるんですか?」
「ランスロットだけだ。ネヴィアは帝国の異常さを訴えた為に幼くして幽閉されていたようだ」
「じゃあ、帝国が入らず、ネヴィアさんはネヴィア・ロガリアではなくただのネヴィアで暮らしてランスロットさんと一緒に入れればいいんですよね」
「早い話そうだな、二人はどちらか処刑するなら両方処刑して欲しいと訴えていたからな」
「じゃあ、クロウ。始祖の森に来て貰えばいいんじゃない?」
そう言うとクロウはにやりと笑った。
「お前ならそう言うと思ったぞ」
「ところで、ランスロットさんの事をしってる方はいらっしゃるのかしら」
「騎士の連中はもうほぼ処罰を執行済みだから逃げ出さぬ限りランスロットの事はしらぬだろうな、奴は平民からのし上がり、それ故疎まれネヴィアの世話係になり、同じように国に疑問を持つようになったそうだ」
「ところで二人は処刑に関してどういう反応?」
「ネヴィアは仮にも皇女なのだから処刑されるのも仕方ないという反応だ」
「ランスロットは?」
「自分だけ処罰から逃れようと思わない、ネヴィアが処刑されるなら私も処刑で、という感じかな」
「両方とも処罰も処刑も受け入れてるのかー、じゃあ死んだ事にして始祖の森で受け入れれば、まぁ早々簡単に受け入れてもらえるかは分からないけど」
「それはそうだ」
「受け入れる体制が整うまでそのままでお願いします」
「愛し子様が言うならば……」
「愛し子様! 貴方様はかつてロガリア帝国の前身カインド帝国によって殺されたのですよ! 何故平気でいられるのです!」
どっかの国の代表さんが不満を露わにして立ち上がり叫んだ。
「だから、六百年も愛し子は出てこなかったのだろう、それで察しろ」
クロウがじろりと睨むとその人は不満げな顔のまま椅子に座り直した。
「では、我らは一度始祖の神森へと戻る良いな」
クロウの言葉に皆が頷き、私はクロウに背中を押される形で王宮を後にし、ドラゴンになったクロウに乗っかりその場を後にする。
各居住区の長に相当する方と、私と長い付き添いをしている方々などが集まる場所を、クロウに作っておけと言われて公民館元い会議場を作っておいた。
「さて、議題にすることだが。帝国で幽閉されていた皇女とそれに従っていた騎士の扱いについてだ」
「皇女といってもどのような立場で? 幽閉されていたのならあまり良い立場では無かったと推測されますが」
レイヴンさんが意見を言う。
「その通りだ、皇女は皇籍を除籍済みでその上幽閉されている。平民になって叛逆分子になるのを恐れてな」
「どんな事をしたんじゃ?」
ロドノフさんが尋ねる。
「各国へ赴き奴隷として子どもを誘拐する行為を止めるよう嘆願、そして奴隷にされた子等の開放、また平民への重税を無くすことetc……まぁ色々だ」
「帝国の奴ら、腐っとるの、上の連中、王族や貴族連中は」
「結果幽閉された訳だ。どういう理由で幽閉されたのかは知っているのは王族と側仕えを命じられたランスロットだ」
「食事はどうだったのだ?」
イリスさんが問いかける。
「ランスロットが渡される二人分の食事はカビの生えたパンと腐ったスープだったそうだ」
「それでよく二人生き延びられたな」
「どうやらネヴィアとランスロットは妖精と精霊が見えているらしく、妖精と精霊が二人分の果実などを運んでくれたから生き延びれたそうだ」
「帝国内で妖精や精霊に愛されていると知られたら大変だったのでは?」
「いや、どうやら知られないように二人きりの時に窓に運んできていたようだ、城の連中は妖精も精霊も見えない輩のみだったそうだ」
「それは誰から聞いたの?」
私がクロウに聞く。
「妖精と精霊達にだ」
「まぁ、それなら嘘ではなさそうよね。ところで他の王族とかはどうなったわけ」
「お前は知らん方が身のためだ」
「アッハイ」
えげつない処罰か処刑が待ってるんだろうなー。
なら聞かない。
「で、議題とはその二人を村に住まわせていいかどうか、だな? 愛し子様はどうお考えだ」
「え、特に悪いことしてないんだし、アインとティリオの前例があるから帝国出身でもいいかなーと思ってる。帝国の人全員が悪い人な訳では無いんでしょう?」
「その通りだ、民なんかは搾取される側だったから帝国が連合に占領されて、重税やら何やらから開放されて万々歳状態だ」
「なるほど……」
「本来の皇族であるならば処刑が妥当だが、既に皇籍から除籍処分を受けているなら話は別だ、私は構わんが他のものは? まぁ愛し子様が言うなら意見をするのは愚かだしな」
「私も構いませんよ、コズエ様が仰っているなら」
「儂もじゃ、コズエ様が仰ったならそれに従おうとも」
「私もです、梢様が仰るならば」
「ということだ、梢」
「なんじゃい」
「お前の言う通りになった、だがあのままでは向こうは素性もバレるだろう」
「私二人に会ったことないんだけど、二人とも髪の毛長い?」
「長かったな、我が見た時は」
「じゃあ、バッサリ切ってもらおう。今までの人生とおさらばという意味合いで」
「それがいい」
私とクロウは会議場を後にした。
「皆さん、何か我慢してませんか?」
クロウと梢が居なくなった会議場でシルヴィーナが発言する。
「シルヴィーナさん、特にしてないよ。ただコズエ様のお人好しがこう言う形で使われるのはあまり良い気分ではないね」
「他の国々の後始末を押しつけられているようなもんじゃからな」
「でも、コズエ様にはそんなこと一言も仰らなかったですよね」
「当然です、梢様に否定の意見を出してみなさい、あの方は困り果ててきっと頭を破裂させるでしょう、あ、勿論比喩ですからね」
「そう……ですね、梢様困り果てると絶叫して意識吹っ飛びますから」
「責任感があるけど、責任感から逃亡したい、そんな感じじゃの」
「全くもってその通りです」
ロドノフの言葉にシルヴィーナが頷く。
「ネヴィア、か」
「アイン様、聞いた事があるんですか?」
「一度だけな、呪えと命じられて呪ったが効果が無く鞭打ちにあったのを覚えている、痕は消えているがな」
「帝国の連中は最低だな」
イリスが吐き捨てるように言う。
「それくらい、ネヴィアとやらが邪魔だったのだろう。自分達の意見に同意しない者が鬱陶しかったのだろう」
「クロウ様から聞いたらどうやらその通りだと」
「しかし、肝心なのは向こうが村に馴染んでくれるか、だ」
「そこら辺は大丈夫でしょう。この村は獣人、人間、ドワーフ、ハイエルフ、吸血鬼、ダンピール、白狐と多種多様の村ですから」
アルスさんが微笑んで行った。
「……そうですね、どうかこのまま良き方向になるよう祈るばかりです」
シルヴィーナの言葉に、一同は頷いた。
本来なら処刑される立場ですが、ネヴィアは皇籍除籍され幽閉、ランスロットも排他されネヴィアの世話役という特異な環境下にありました。
村の人達は言いように梢が使われているんじゃないかと危惧していますが、梢は特に深く考えていません。
神様そう言ってるんならこれが最適解じゃ無い?
程度です。
深く考えるとパンクするので。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、誤字報告等有り難うございます。




