ブリークヒルト王国の決断
始祖の森に最も近い国であるブリークヒルト王国にクロウがエンシェントドラゴンの姿を出現する。
そして王と王妃に会い、ロガリア帝国への進軍を行うよう要請する。
その返事を待つと言ってクロウは森へと帰還する。
そして数日後、寝ぼけている梢の元にブリークヒルト王国の王族が来た事が告げられる──
──ブリークヒルト王国、王都上空。
黒き巨大なドラゴンが街を覆っていた。
人々は逃げ惑う。
ドラゴンが小さくなり、王宮の前で人の形に変貌する。
「我はエンシェントドラゴン。この国の国王に会わせよ」
その言葉を拒否できる者は誰も居なかった。
謁見の間に、国王と王妃がいた。
エンシェントドラゴンは頭を垂れることなく口を開いた。
「帝国が我が領土たる始祖の神森を穢す行いをしている、それについてお前達はどうする」
「ろ、ロガリア帝国が、ですか」
「他に何処がある」
「い、いえ、失礼しました」
国王は冷や汗を垂らしながらなんとか会話を試みる。
「エンシェントドラゴン様、貴方様はこう言いたいのですね。『帝国を滅ぼせ』と」
妃が冷静に口を開いた。
「ほぉ、聡いではないか。その通りだ」
「此度、愛し子様が新たな世界樹ユグドラシルを根付かせ、各国で祝福がされているなかロガリア帝国とイブリス聖王国、元デミトリアス聖王国の者が住む場所だけが祝福を受けていません。これは向こうにもいずれ知られることでしょう」
「その通りだ王妃よ」
淡々と事実を述べる王妃に、エンシェントドラゴンは頷いた。
「ならば各国に訴えかけ打って出るのが良いかと、これ以上孤児などを奴隷として誘拐されるのは見てられません」
「う、うむ、そうだな」
「ドミナス王国、ムーラン王国、大地の国、各国へ連絡を致しますエンシェントドラゴン様のご期待に添えるようこちらも努力いたしましょう」
「それならば我も助力しよう」
「感謝の極みでございます」
「では、日時が決まったら始祖の神森に遣いを寄越せ。良いな」
「はい」
エンシェントドラゴンはその場を後にした。
「メルティ、助かった……」
「もう、陛下! しっかりしてくださいな! 貴方は国王でしょう?」
「そ、そうは言うがな、え、エンシェントドラゴン様だぞ? 機嫌を損ねれば国が滅びる」
国王は王妃にすがるように言った。
「レイク。貴方は国王なのよ、それでは子ども等に示しが付かないわ、こんな時こそ堂々としていないと」
「うう……何故父上と母上は私以外に子をもうけられなかったのか……」
「それは、貴方のお父様とお母様の結婚を妬んだ貴族がお母様に毒をもって殺そうとしたのが原因でしょう? もうその貴族の血筋は途絶え、行った者は処刑されたわ」
「それでも……」
「それでも、お父様──先代の国王陛下は先代の王妃様以外との結婚を拒んだ結果貴方一人が生まれたのよ。愛されて生まれたのを誇りなさい」
「う、うむ……」
「さて、行きましょう。各国にエンシェントドラゴン様より言葉を預かった事と、兵達をどう動かすのかということを相談しに、それと──」
「それと?」
「王子達にお願いしましょう、愛し子様はどういう方なのか知る為に、遣いとなって貰いましょう──」
王妃はにこりと微笑んだ。
「むにゃむにゃお早う……」
まだ半分寝ぼけている私はパジャマ姿のまま、下の階へ降りる。
「コズエ、卵焼きとパンにミルクだけどいいかい?」
「うん……」
寝ぼけ眼のまま、夕食を食べる。
そしてお風呂に入り、体を洗って、ジャージに着替えると──
「梢様ー! ブリークヒルト王国の王家の方が!」
「おっふ」
急いで服を着替え直し、レトロガーリー風の服に着替える。
「これで大丈夫かしら」
ワンピースだが、ちょっと心配。
「お似合いです!」
「梢起きたか、なら行くぞ。向こうはお前とも会いたい様子だ、それくらい良かろう」
「クロウ、何してきたん?」
「内緒だ」
「何でや」
と言いつつ、森の入り口に到着。
「初めまして、エンシェントドラゴン様。レイズ・ブリークヒルトと申します」
「私はレイラ・ブリークヒルトです、エンシェントドラゴン様」
「うむ」
「まずは、こちらを会議で決まった内容です」
レイズ様が手紙をクロウに渡す。
クロウは直ぐさま開けて内容を見て頷いた。
そして、空中に用紙を静止させ、ペンで書き込み、封筒に入れて返した。
「そちらの行動は分かった、故に手紙の内容のように我は行動すると伝えよ」
「はい」
私はじーっとその間レイラさんを見ていた。
レイラ様、ぶっちゃけるとドミナス王国の正妃マリア様にそっくり。
レイラ様は私の視線に気づいたらしくにこりと笑った。
「どうなされました?」
「いえ、あの、えーと……ドミナス王国の正妃マリア様にそっくりだなぁと」
「当然です、だって私の母ですもの」
「え゛」
「梢、少しはその間の抜けた顔をどうにかしろ」
うるせー!
悪かったなクロウ、どうせ私は間抜け面のへちゃむくれですよーだ!
「ああ、貴方様がもしかして愛し子様?」
レイラ様は私を見て納得したように声を上げた。
「うむ、その通り。梢が愛し子だ」
「あ、はい、そうです……」
「母から聞いてますわ、コズエ様。とっても優しくておしゃれな御方だと。お召し物素敵ですわ」
「いやその……王族の方々の前でいつもの土まみれの格好はどうかと思い……」
「母は、土にまみれている貴方も素晴らしいと仰ってましたわ」
「は、はぁどうも……」
レイラ様、マリア様にそっくりだけど、中身は若干違うから、別の意味でやりづらい……
まぁ、顔がねそっくり。
マリア様の体の筋肉質っぷりはあれは別、マリア様の美人な顔立ちがそのまま若くなったのがレイラ様。
「イザベラがお世話になったようで……」
「いやぁ、あのそれは……」
「おかげでイザベラは命が助かり、メリーウェザーの悪事が公に知られることになった事を感謝します」
「ほう、それはお前は何か気付いていたのか?」
「胡散臭い匂いがしたんですもの、あの女は。しかし、私が居たときはガードが堅くて調べられませんでした」
「なるほど」
「嘘偽りはないようだな」
クロウ分かるんだよなー。
私も何となく分かる。
「あのー宜しければ村を少し見て行かれます?」
「え?」
「宜しいのですか⁈」
レイズ様は驚いているけど、レイラ様は食い気味だ。
そんなに見たかったんか。
「と言っても普通の村ですよ、先日の件で花が咲きっぱなしなのを除けば」
「いいんです、イザベラが素敵な村だったと話していたので是非みたく」
「では、どうぞ」
レイズ様とレイラ様が馬車に乗り、馬車が移動し村の中に入る。
馬車からレイラ様が降りると目を輝かせていた。
「作物は何処で?」
「主に私の畑です」
と私の畑と果樹園を案内する。
「素晴らしいわ、見たことのない花の果樹や野菜があるわ! あら、これはブラッドフルーツ? 王宮でも育ててたけど、こんなに大きな実は初めて……‼」
『僕らと愛し子様のお力だよー』
『そうだよー』
「? 妖精と精霊の声かしら?」
「え、聞こえるんですか?」
「かすかにですけどね。お祖母様なら妖精と精霊とお話できたのですが、お母様達や私は話せないのです、会話をしている、居る位は分かるんですが……」
「な、なるほど……」
精霊や妖精と話をするって結構貴重なんだろうな、種族問わず。
まぁ、私もこの世界に来た時は妖精と精霊との会話どころか、見ることもできなかったけどね!
言わないけど。
「この豊かな土地……愛し子様は、妖精や精霊だけでなく世界樹にも愛されているのですね」
「あー……多分、そうかな」
「そうですよ、もっと自分に自信をもってくださいませ!」
「そうなんですよ、コズエ様は全然自信を持って下さらなくて」
「ちょ、シルヴィーナ‼」
「せっかくこんな素敵な女性なのに、自分を卑下しますし」
「まぁ、なんて勿体ないの!」
「以前、自分の事を不細工と言った時には耳を疑いましたよ」
「確かに疑って当然ですわ、こんなに愛らしい方なのに」
白熱する女性陣の会話。
ついていけない私とレイズ様。
クロウは欠伸してる。
恥ずかしいから誰か二人を止めてくれ!
と思って居たら、アルトリウスさん達が止めてくれて助かった。
まぁ、その日のうちに帰ることになり、お二人は泊まることなく王都へと向かっていった。
泊まって行っても良かったのに。
なんかクロウと話してたけど、何を話してたんだろう?
「梢、我は七日後の朝から出掛ける、その間の守護は他の者に任せる」
とか考えてたらクロウがそう言い出した。
なんでだろう?
でも、悪いことではなさそうだし、まぁ、いいか。
「うん、分かったー」
とだけ返事をした。
クロウはロガリア帝国滅ぼす気満々です。
何せ、自分の友人である前の愛し子を処刑したカインド帝国の血筋だからです。
ブリークヒルト王国の王様は大変ですね、脅すように言われて。
王妃様の方が肝が据わっているからやっていけるのでしょう。
そして森に王子こと王太子と王太子妃が来たのはクロウの言葉に同意の返事を出すためです。
それはクロウしか今のところ聞いていません。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、誤字報告等有り難うございます。




