夜の都、血の契約、そして世界樹ユグドラシル
梢は夜の都の成り立ちが知りたいと思いクロウを尋ねる事に。
その際アルトリウス達も一緒に尋ねる事になった。
四人で押しかけて不機嫌そうなクロウだったが手土産を受け取り快く四人を家に入れる。
そして梢は夜の都の成り立ちを尋ねる──
食事を終え、洗い物を済ませる。
水の妖精と精霊のおかげか、水洗いで大抵の汚れがおちる、マジ便利。
「ところで、何故クロウ様の元へ?」
「夜の都の成り立ちを聞きたいの、ヴェロニカさんに聞くのも良いかもしれないんだけど、世界の事に一番詳しいのは多分神々の使いのクロウだからね」
「興味深い、私も聞きに行かせてくれ」
「そうですね、興味深い」
「聞いてみたいですね」
「……流石に四人で押しかけたら土産所望されそうだな」
私は冷蔵庫から大きめの炭酸ミカンゼリーを取り出し、小さいのを四つ取り出した。
それらをアイテムボックスに仕舞い。
「じゃあ、行こうか」
三人は頷いた。
「なんだ、四人で押しかけて」
クロウは不満げだった。
「急遽そうなったの、はい。お土産に炭酸ミカンゼリーの特大サイズ」
「よかろう、全員椅子に座れ」
私は自分とアルトリウスさん達の分も配置し、スプーンを置いた。
クロウは大きめのスプーンで既に食べている。
「それで……聞きたいこととは?」
「夜の都の成り立ちを聞きたいの」
「ああ、夜の都か。その成り立ちには最初の愛し子が関わっている」
「最初の、愛し子。つまり全ての始まり」
「そうだ、当時の飲まずの一族達は飲む連中の所為でかなり否定されていた、同じ吸血鬼と言うだけで」
「……」
「そこに愛し子が夜の精霊と妖精達の力を使って昼でも歩ける闇の空間を各地につくり、こう言った『飲まずの方々、貴方が飲まないのであれば、この夜のとばりで覆われた場所に都を作りそこで暮らしなさい。ここには伴侶の人間と、飲まずの吸血鬼、ダンピール達と私こと愛し子、そしてエンシェントドラゴン以外は入れません』とな」
「ほへー」
「アエトスの一族は愛し子から直々に一つの都の管理を任されたからあの一族にとって飲まずであることこそが、最初の愛し子への敬意であり、自分達の誇りだと信じている。まぁ、その結果ヴェロニカ達は夜の都から出てここに来たのだろうがな」
「うーん、ギルティなのかギルティじゃないのか難しいところだ」
「まぁ、どっちにしろ、夜の都の住人は自分達は愛し子に『認められた』存在だと自負しそれを誇りにしているから、飲まないのが当然。だが、ブラッドフルーツの栽培まで手が回らなかった」
「もしかして夜の都の周囲に村あったりする?」
「正解だ、そこでブラッドフルーツを栽培させ質が良いものは高値で買い取りワインにしている」
「へぇ」
「まぁ、関係は良好とは言いがたいがな」
「だろうねー」
ヴェロニカさんの話だと、アレックスさんは周囲の村で暮らしていた事になる。
関係が良好ならアレックスさんは元の家族と縁を切る必要がないからだ。
「吸血鬼と人間の関係性って難しいねぇ……」
「まぁ、この村だと関係なさそうだがなお前がいるから」
クロウは私を指さす。
あ、ゼリーもう食い切ってる。
じゃなくて、人を指さしちゃいけないんだぞとは言わない。
「私?」
「お前という存在いる、もしくはいたという事実がある限り村は安泰だろう」
「ほへー……」
「早い段階だが言っておこう、神々は永久にこの森をお前に管理して欲しがっている」
「うぇ⁈」
「吸血鬼の血は永久の夜の誓いの血。余程のことがなければお前は死なぬ。だが……」
アインさんとティリオさんを見る。
「ダンピールのアルトリウスはともかく、ハイエルフは寿命があるアインとティリオは見送ることになるだろう、このままでは」
「何でその話を?」
「アインとティリオはアルトリウスは普通だからな、神の加護ももってない、あっさり殺されるとお前が病むだろう、そうすれば世界は破滅の危機だ」
「あー……病むね、確実にぼっちになったら確定で病む」
「そこでだ、三人には血の契約というものをしたらどうかと提案する」
「血の契約?」
「三人に聞いている、この契約をすれば梢が死んだ時自分達も死ぬ事になる」
「え゛」
「……受けよう、コズエの居ない世界はごめんだ」
「同感です、コズエを置いて逝くのも逝かれるのもごめんですから」
「ええ、梢様を一人悲しませるのは耐えられません」
かなり重大な案件なのに三人ほぼ即答してる。
「よく言った」
そう言うと、クロウは黒い刃の短剣を出してきた。
そして三つの小さなお皿。
「梢、この短剣はネロ神と創造主の加護が宿っている、その刃でお前の手でも何処でも良いから傷をつけ、器に血を注げ」
「へいへいー」
私は短剣を手に取り、手にぶっすりとさした。
いでぇ、やり過ぎた。
「やり過ぎだバカモン」
「いやこれが手っ取り早いかと……」
そう言いながら三つの器に注ぎ、短剣を抜く。
傷はあっという間に無くなった。
「で、三人。これを飲め」
「え゛」
飲むの⁈
血を飲むとか──いや飲まずが定着しすぎて本来吸血鬼は血を飲む生き物──いや待て、ダンピールのアルトリウスさんはともかく他の二人は一応人間だぞ。
とかぐるぐる考えていると、三人はぐびっと血を飲み干した。
器が三つ転げ落ちる。
三人は心臓のある箇所をおさえて苦しみだした。
「ちょっとクロウ⁈」
「直に収まる」
クロウはなんともなさそうに言う。
あまりにも長い五分が経過した。
三人が漸く起き上がると、目に少しだけ赤い光が灯り、消えた。
「死ぬかと思った……」
「同意です……」
「まさかこんな副作用があるとは……」
「これでお前達は梢と運命共同体だ、末永くこの土地を守るといい」
「クロウなんか居なくなるような言い方だけど、いなくならないよね?」
そう言うとクロウは目を丸くして爆笑した。
「はははは! 不老不死の我が死ぬとな! 我が死ぬときはこの世界が終わるときよ!」
「マジかー」
それはそれで大変だな。
「この件は我から村人に話すからお前達は言うなかれ」
「はーい」
「畏まりました」
「分かりました」
「勿論です」
まぁ、こう言う事案は天啓として語れるエンシェントドラゴンであるクロウが適任なのだろう。
私も神様達と話ができるが、それを知ってるのはごく少数だ。
「やれやれひやひやさせられたわ」
「そんなに心配だったのか?」
「勿論よ」
アルトリウスさんの言葉に呆れたように返す。
「だって三人が私の所為で死んじゃうんじゃないかって思ったんだもの」
「それは……すまなかった」
「まぁ、事前にそういう副作用が起きること言わなかったクロウが全面的に悪いんだけど」
「クロウ様の事だから言う必要がないと思ったのでは?」
ティリオさんの言葉に首を振る。
「わかんない、クロウの考えてる事は」
私はそう言ってから、今日何やるんだっけと脳内のやることリストを頭の中でチェックしだした。
「あ、私ユグドラシル、見に行ってくる」
「今から?」
「今から」
「分かった、では後の事は任せてくれ」
「うん」
そう言って一階、自宅のあるエリアの湧き水をじょうろに汲み、アイテムボックスに入れ、堆肥も入れて急いでユグドラシルのある場所へ向かった。
「まぁ、数日でそんなに変わるわけ……あったわ」
ユグドラシルを見てあんぐりと口を開けた。
巨木と化していたからだ。
『有り難う愛し子様、愛情を有り難う、有り難う』
「いやぁ、私ここまでした? たった数日のお話よ?」
『貴方の愛はここまで届いていました。だからこんなに大きくなりました、有り難うございます』
「……まぁ、足りないと思うけど水やりするね」
そう言ってじょうろと堆肥を取りだし、堆肥を根っこの一部にかけるとそこに水をかけた。
「おおきくなぁれ♪ おおきくなぁれ♪」
水をやり終えると、ピカッと木が光った。
「眩し!」
目を閉じる、何かしたから盛り上がって来る感触がした。
目を開けると──
「なんじゃこりゃああああ‼」
あのユグドラシルの大樹が其処にあった。
『愛し子、有り難う、貴方のおかげで次なるユグドラシルにこんな短い期間で成長できました』
「いや、あの、短すぎない?」
『ええ、育った私も驚きです、貴方の愛情がそれだけ大きかったのでしょう』
「は、はぁ……」
『ありがとう愛し子、これからは一人でやっていけます』
「そ、そっかぁ」
ちょっと寂しいが、親の手から子どもは離れていくものだと思い私はそれを受け入れた。
『新たなユグドラシルが誕生した』
『祝いだ、祝い、盛大に祝おう』
『花よ咲け、咲き誇れ』
『今宵世界樹ユグドラシルは愛し子の手を離れた』
『さぁ祝おう我らがユグドラシルを』
『祝おう、我らが愛し子を』
『神々の恵みよ今咲き誇れ』
などと、世界樹達が祝っていることを梢は知らない。
知っているのは神々と──クロウだけ。
夜の都は最初の愛し子が関わっていました。
その愛し子に選ばれたという事は夜の都の統治者に取って何よりも誇りなのでしょう。
そして血の契約、実は契約途中下手すると死んでしまう危険のあるかなりヤバい契約です、でも三人なら耐えられると思ってクロウは言い出しました。
無事で良かったですね。
世界樹ユグドラシルへの祝福、どうなるか分かるでしょう。
それの正解は、次回。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、誤字報告等有り難うございます。




