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飲まずの吸血鬼

ヴェロニカと村人の交流を進めようとしたが、ヴェロニカが逃げ出す騒動があり、二日ほど逃げ回っていたところをグレイスが捕まえ漸く交流が始まった。

その交流の中で梢は色々な事を知る──





 ヴェロニカさんと約束したのだが、ヴェロニカさんが「嫌われるの怖い」と言って村人との交流から逃げ出すすったもんだの騒ぎが二日続いて、グレイスさんがとっ捕まえて「ヴェロニカ様、いい加減になさい」とひょいっと村人達の中に放り込むことで強制的に交流がスタートした。

 案外ヴェロニカさんって体裁とか人からの評価を結構気にする?

 貴族ってそういうものかな?

「ヴェロニカさんと旦那さんは何処で知り合ったのですか?」

「あ、えっと……そのだな。とある春の夜、都の外に出た私と夜の見廻りをしていたアレックスと出会った……そう、出会った」

「旦那さんの反応は?」

「『夜の都の方ですね、いつもブラッドフルーツを買って下さり有り難うございます』だった……おびえることも敵意を向けることもしてこなかった」

「凄い男性じゃないですか」

「ああ、そうだ。二度目に会った時も『お久しぶりです、良い夜ですね』と向こうから会話を持ちかけてきた……」

「そこから交際に発展したんですね!」

「ああ……祖父母と父母達、一族には反対されなかったが……アレックスの両親達には大反対されてな、そこでアレックスは家族ではなく私を選んだ」

「ええ、吸血鬼の方と結婚する時は人間は親に縁切りされる場合が多いですから……」

 リサさんが悲しそうに言う。

「私はこちらから縁切りしたつもりが、向こうが探し回っていたというオチだったがな、まぁおかげで結婚も認められたし」

 イリスさんが言う。

「イリスさんのは特例ですよ、しかもアレ認めたというか認めるしか無かった表情でしたよ」

「似たようなものだろう」

 いや、全然別物ですよ、イリスさん。

「嫌気がさしたら孫連れて帰ってこいいってる時点であれですよ」

「嫌気はささんから帰らぬ」

 言い切るイリスさんつぇえ……

「夫婦生活は順調なのですか?」

「ああ、夫婦仲は良好なのだが……ここに来るまで息子と娘がブラッドフルーツから作るブラッドワインが不味いと飲みたがらず、仕方なく夫が血を少し切って分けてあげていたのだ」

「でも、ここに来たらブラッドワインを飲めるようになったんでしょう?」

「ああ、ブラッドティーと、菓子もな。普通の食事も楽しめるようになった」

「ならよかったじゃないですか」

 ミゼラさんが微笑む。

「そうですよ、ここの作物はどれも超一級品だと行商さんも言ってますし」

 レネさんが楽しげに言う。

「ところで、どうやってこの場所まで?」

「ああ、闇の精霊と妖精に馬車馬の御者をやってもらって連れてきて貰ったのだ」

「そんな妖精と精霊の使い方あるんですか?」

「我が一族は闇の精霊と妖精と仲が良いからな、こういうことができた。日中は夫が御者をやってくれるしな」

「あの、お聞きしたいことがあるんです」

 レネさんが神妙な顔をした。

「何だ?」

「血を吸いたいと思ったことは?」

「無い。生まれてこの方血を吸ったのは夜の都に侵入しようとしてきたイブリス教の連中とデミトリアス教の連中位だ、食事というより、敵意で吸ったからな。吸血鬼にならず全員ミイラ化だ。吸わずの吸血鬼の吸わずは敵対者のみ例外だ」

「つまり……」

「大切な夫の血は吸いたくないんだ、大切だから。いずれ別れが来るとしても」

「……私の夫もそうでした。大切だから私の血は決して吸わないと」

 リサさんは同意するように言う。

「だから、仲良くしたいから貴方達の血も吸いたくないのだ」

 そう言うと、皆微笑んだ。

「ただ、息子と娘はまだ小さいし、父親から血を貰って育っていたから血を欲せずに居られるかが心配なのだ」

「大丈夫ですよ、コズエ様のブラッドワインを飲んでいれば自然と血を吸いたいと思わなくなると思いますから」

「そうだな。まだ息子は赤ん坊だがそう思うよ」

「そうだろうか……」


 和やかに話していると、何かにぶつかる音が運動公園から聞こえた。


「おい! フレア、大丈夫か⁈」

「方向転換失敗しただけだよ……あいたた、あ、あれ? 木が枯れて……ない⁈」

「どうしたの?」

 私がルフェン君達に尋ねる。

「追いかけっこしてたんだ、そしたら、フレアが逃げる方向間違えて木に激突したんだ」

 ぶつかった木は桜がまだちらほら咲いている。

「大丈夫? 痛くない?」

「少し痛いですけど……この木なんで枯れないんですか?」

「さぁ……」

 私も知らん。

「梢が植えた木だ、吸血鬼が触っても枯れることはない。その上ここは神森、吸血鬼に激突された程度では木は折れん」

 クロウがやって来て説明してくれた。

「フレア、大丈夫か?」

「大丈夫です母様」

「しかし、木も枯れず息子も大怪我をせずよかった……」

「もうちょっと運動公園広げたほうがいいかな?」

「別にいらんだろう」

 私の案を一蹴するクロウ。

「ところでミラは?」

「ミラなら女の子たちとおままごとをしてます」

 そう言って公園の端っこで村の女児達が集まっておままごとをしていた。

「我が子達が馴染んでるようでほっとしたよ」

「言っただろう杞憂だと」

「え、クロウそんな事いったの」

「ああ、あまりにもその女が心配するのでな」

「エンシェントドラゴン様、仕方ないじゃありませんか。吸血鬼は他の種族から拒否される存在なのです……」

「確かに私達も最初は吸血鬼を怖いものだと思ってましたが、コズエ様を見てると怖いというか安心するんですよ」

「ええ、この方が居れば安泰だ、と」

「そう思うと吸血鬼という存在に不安は無くなっていきましたね」

「……愛し子様の影響は強いと言う訳か」

「あはは……」

「まぁ、事実梢の影響は強いだろう」

 クロウがきっぱりと言い切る。

 私自身は納得していないが、クロウがいうならそうなのだろう。

「梢は神々の加護も貰って居る愛し子だ、今までの愛し子以上に。吸血鬼というのもあるが」

 そうなんだよねー。

 吸血鬼だからこその愛し子要素と、神々の加護なんだよなー。


 吸血鬼でスローライフやりたいなんて無茶振りした私の結果が今に至るんだよなぁ。

 いやはや、この世界の吸血鬼の現状を知ればますます分かる無茶振りだわ。


 神様達、お疲れ様です。

 いや本当。


「……ならば私達は愛し子様が築き上げた信用を損なわない行動をするよう善処するべきだな」

 ヴェロニカさんが言った。

「その言い方、何か隠しているな」

「さすがエンシェントドラゴン様、お話しましょう」

 クロウが言い方に何かを感じたから尋ねると、ヴェロニカさんは言い始めた。


 夜の都以外に住む飲まずの吸血鬼達が旧デミトリアス聖王国のデミトリアス教のもの達に命を狙われ居場所を転々としているらしい。

 吸う吸血鬼ならともかく、飲まずの吸血鬼が、同胞が命をむやみに奪われる現状を変えたい。


 という内容だった。

「飲まずの吸血鬼はどれくらいいる?」

「私の知り合いでは三家族です」

「他は?」

「あまりにも多すぎて分かりません」

「なるほど、でどうする梢?」

「え⁈」

 急に話をふられ私は混乱する。

「三家族程度なら、受け入れられるだろう?」

「それはそうですけど……村の人達の意見も聞かないと……」

「コズエ様、あたしゃ達はコズエ様の意見に従いますだ」

「ナズナさん……」

「その通りです、コズエ様。コズエ様のおかげで我我は暮らしているのですから、飢えることもなく、寒さに震える事も無く、魔物におびえることもなく、奴隷商人に気をはる事もなく過ごせるのですから」

「アルスさん……」

「はい、コズエ様。コズエ様のおかげで私はとても幸せですし、ハイエルフの皆も里でどんよりと暮らすより生き生きと過ごしています!」

「シルヴィーナ……」

「儂等もじゃ。美味い酒が飲め、仕事に没頭できる、美味い飯も食えるこんないい場所は他には無い!」

「ロドノフさん……」

「私共はまだ日が浅いですが、それでも良くして貰っております。一二三や子ども達ものびのびとすごせてますし」

「はい!」

「奈緒さん、一二三ちゃん……」

「コズエ、君はあの時迷う事無く私達母子を受け入れてくれた、そして私の思いも受け入れてくれた、だから君の意思に従おう」

「アルトリウスさん……」

「コズエ、貴方は帝国から逃げてきた私とティリオを受け入れ、そして呪いまで治療してくれた恩人です。ですから貴方の意思にしたがおうと思います」

「アインさん……」

「コズエ様、貴方はアイン様を救い私も救ってくださった、そして私達の思いを受け入れてくれた。だから日々が楽しいのです。私はそんな貴方の意思に従いたいと思います」

「ティリオさん……」

「死した私を救い、また家族で暮らせるようになったのは貴方のおかげだ愛し子様。だから自分の心のままに」

「イリスさん……」

「ほれ、誰も彼もがお前を信頼している。何を恐れる事がある?」

 クロウが言う。

 よし、取りあえずやってみてからだ、話はそこからだ。

 うまくいくか失敗するか分からないけど──

「ヴェロニカさん、その三人と連絡を取って始祖の森に来るようにお伝えしてくださいませんか?」

「いいのか⁈」

「勿論」

 そう言うとヴェロニカさんは涙を流して頭を下げた。

「すまない、愛し子様。ありがとう、ありがとう……!」


『よかったね「愛し子」』

『ここに来れば飲まずの子等は助かるよ!』


 新たな移住者が来ることが決まったのと、ヴェロニカさん家族の定住が決まった瞬間だった。







ヴェロニカとアレックスの馴れ初め話が出ました。

そして吸血鬼はやはりどうあれ忌避されるのだと言うことも、そうじゃない人は異端者であると。

アレックスやイリス、リサはその異端者に相当すると。


そしてまた吸血鬼の家族が今度は三家族増える話が出て来ました。

どんな吸血鬼のファミリーなのでしょうか。


ここまで読んでくださり有り難うございました。

次回も読んでくださると嬉しいです。

イイネ、ブクマ、誤字報告等有り難うございます。

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