ブラッドワインと仮定住
ブラッドワインのおかわりをねだるアエトス家の子ども等。
我が子のブラッドワインの飲みっぷりに驚愕するヴェロニカ。
そこでリサ達がヴェロニカに色々尋ね始める──
「おかわり!」
「おかわりください!」
「フレアとミラが、おかわりだと⁈」
「だってこのブラッドワイン美味しいんだよ、母様!」
「いつも飲ませようとするブラッドワインは美味しくないの、なんかしなびた味がして」
「そうそう、しなびてて、栄養もかんじられなくて、酸っぱくてとてもじゃないけど飲みたくないよ!」
この子達、ある意味グルメだったのか?
「おかしいな、愛し子様のものを除いて最高級のブラッドワインのはずなのだが……」
ヴェロニカさんは首をかしげている。
「赤ん坊の頃、ブラッドフルーツの絞り汁を飲ませていましたか?」
リサさんが尋ねる。
「実は飲ませようとすると吐き出して飲んでくれないから夫から血を貰って居たんだ」
「可愛い我が子の為ですから、これ位は」
「しかし、飲まずの一族が人の血を飲むなどあってはならないと言われてな、困り果てていたところローレンスが愛し子の住む始祖の森に定住していると聞いてやって来たのだ」
「今は部屋が空いてるからいいですが、定住を考えているのですか?」
グレイスさんがヴェロニカさんに尋ねる。
「夜の都の付き合いにはほとほと疲れててな、祖父母や父母との折り合いにも疲れてしまってできれば定住したいのだ」
ヴェロニカさんは疲れたように笑った。
「子ども達は人の血を吸うとかありますか?」
「ない、夫の腕に傷をつけて流した血しか口にしたことがなくてな」
「これが証拠です」
アレックスさんが両腕の袖をまくった。
傷だらけだった。
うへぇ。
ちょっと見てて痛々しい感じが強い。
「ならば、子ども達はしばらく貴方達の監視下に置いてくれないでしょうか」
げんなりしている私の代わりにアルトリウスさんが言う。
「構わぬが、其方の名は?」
「アルトリウス・ミストリアと申します」
「ミストリア! 飲まずのミストリアの息子か!」
ヴェロニカさんが嬉しそうに言う。
「お母様、おかわりください!」
「おかわり、おかわり!」
「はいはい、おかわりですねークロウ、宜しく」
新しいブラッドワインの瓶をクロウに渡し、クロウはブラッドワインを二人のグラスに注いだ。
再びごくごくと飲み始める。
水を得た魚か?
いや違うな、砂漠でオアシス見つけた人かな?
「美味しい! もっとください!」
「ください!」
「お前達……そんな高級な代物をぐびぐびと飲んではしたないぞ」
「だって母様」
「ほんとうにおいしいの!」
「それは分かる、私とて、今まで飲んでいたものが安物と感じるほどの美味さを感じている」
「なら良かったじゃないかヴェロニカ。フレアとミラがこんなにも飲んでくれているんだ」
「夜の都で毎日のように買ってたら我が家は破産なのが確定な気がして少々めまいがしそうだがな」
やっぱそんなに高いんだ、おっそろしー。
「ところで、ここのブラッドフルーツはどのような代物で?」
ヴェロニカさんが私に尋ねてきたので、アイテムボックスから取り出した。
どん
「これが通常サイズで取れます、冬以外ほぼ毎日山のように」
「……」
ヴェロニカさん、唖然としてる。
「まぁ、そうなりますよね、ヴェロニカ様。私も初めて見た時はそうなりましたから」
とグレイスさんが苦笑する。
「なんだこれは、子どもの頭部と同じくらいの大きさじゃないか!」
「ちなみに、梢はブラッドワインを酒だと思い込み生で丸かじりしてたから、生でもいけるぞ」
「「はぁ⁈」」
クロウの言葉にヴェロニカさんとグレイスさんが驚愕する。
「ちょっと待ってください、ブラッドフルーツを生で食べたら濃厚すぎて咽せますよ?」
「えー私普通に丸かじりしてましたよ」
「母様、僕も丸かじりしてみたいです!」
「わたしも!」
「……私が試してからだ、いいな」
ヴェロニカさんがそう言ったのでナイフで慣れた手つきでブラッドフルーツを切り、皿にのせてヴェロニカさんに渡す。
ヴェロニカさんはじっと見つめてから手を伸ばし、頬張った。
「⁈」
目を見開く。
咀嚼音がし、飲み込む音が聞こえた。
「なんだこの濃厚なのに、濃厚すぎないブラッドフルーツは⁈ 一体どういう製造であのブラッドワインができる⁈ すっきりとした甘さもあれば果実のような感触もある!」
「ねーねーかあさま」
「食べて良い⁈」
「……ああ、いいとも」
「あのー私にもくれませんか?」
「俺にもくれないか?」
「はいはいー」
私は四人分カットして皿にのせて渡した。
口にすると三人とも目を丸くした。
「あのブラッドワインを果実にしてより果実感と満腹感が増すようだよ!」
「おいしいおいしい!」
「これ美味い!」
「フレア! 美味しい、だろう」
あ、このお母さん結構教育熱心だわ。
「……これなら普通に食べられる。どうりで君がブラッドワインを飲まない訳だ、こちらの方が瑞々しい」
「いや、そういう訳で飲まなかった訳じゃ無いんだけども……」
アルトリウスさんの発言に目をそらす。
「分かってる」
「では、しばらく滞在という事で」
私がそう言うと、ヴェロニカさんが。
「そうだな、屋敷を建てる費用も持ってきたが時間がかかるだろうし、何より子ども達がこの村の子等に危害を加えないというのを証明しないといけないな」
色々と考えてるんだなヴェロニカさん。
大変そう。
子どもの事とか一族内での軋轢とか色々あったんだろうなぁ。
「僕ら、人から直接吸わないよ母様」
「すったことないの」
「それでもだ、いいな」
「お父様、母様がいじめる!」
「いじめる!」
と、フレア君とミラちゃんはお父さんであるアレックスさんに抱きついた。
「ヴェロニカ。二人はまだ子どもなんだからもう少し口調を柔らかく、ね」
「む……だが、私は母上にこのように育てられた」
「君は君、この子達はこの子達だよ」
「むぅ……」
お父さんであるアレックスさんの方が子ども等の信頼を得てるのかな?
「母様怒ってる?」
「怒ってる?」
「母さんは怒ってないよ、フレアとミラが大人になったとき困らないようにしっかりとしたダンピールになれるように、吸血鬼の母さんと人間の父さんから生まれた事を誇れるようにね」
「難しいよ……」
「うん」
「それは今後の課題だからね。母さんは言い方が厳しいけど、君達を愛しているよ」
「うん!」
「うん!」
子ども達の頭を撫でるアレックスさんをヴェロニカさんは見つめている。
「……夫の子育ての仕方にはどうも負ける」
「夫さんはどういう家庭で育ったのですか」
「夜の都の周囲の村の大家族だ、ブラッドフルーツの栽培で生計を立てている村だ」
「そうなんですか……」
「まぁ、私と結婚したことで家族の縁を切られてしまったがな……」
「……」
「私はこっちから切ってやったが、向こうが探し続けていたな」
イリスさんが言う。
「私も家族と縁を切られましたね、夫と……」
「そう言えばカイン殿は何処だ?」
「……イブリス教徒の集団から私と息子を逃がすため犠牲になりました……」
「それは……だが、イブリス教は壊滅したと聞いたぞ」
「はい、おかげでこれ以上犠牲者がでないことに安堵しています」
リサさんは少々痛々しい笑みを浮かべた。
「リサ殿……」
しんみりした空気になる。
「イブリス教徒もデミトリアス聖王国のデミトリアス教も梢に手を出したおかげで壊滅じゃ、神々の怒りを買ってな」
「愛し子様、何をなさったのです⁈」
ヴェロニカさんが驚愕の声を上げる。
「いやぁ、森に侵入しようとしてきたり、私怪我させられたりまぁ、色々ありました……」
本当色々ね!
「……愛し子様」
「まぁ、結果神々のお怒りを連中は買ったのでお気になさらず、それに森の中にも今後連中は入れないでしょうし」
「ああ、世界樹のある神森だからより一層迷いの森と化すだろう」
「ユグドラシルは?」
「あー今世代交代してまして……まだ苗木です」
「通りで、あの巨木が見えなかったわけだ」
「他の残った神森のおかげでなんとか新しいユグドラシルが芽吹いたので私はそのお世話をしてます」
「そうか……なら良かった」
ヴェロニカさんは安心したような顔をした。
「取りあえず荷物を運び入れましょう」
「分かった」
棺桶が三つ運ばれていた、あとの物はマジックバックに入れているらしい。
「愛し子様、どうか私共を見定めて欲しい」
「──分かりました」
結構責任重大で緊張する。
私はこの責務を果たせるのかな?
いや待て、こんな重要な事──
「無理ー!」
と絶叫してそこからぷつりと意識が途切れた。
フレア君とミラちゃんが悪い訳では無いのです、生まれつき味覚が肥えて生まれてそのままだったのです。
結果、梢のブラッドフルーツから作ったブラッドワインを美味しいと感じるのです。
また、色々と厄介事があったことを話した梢、本当巻き込まれ体質です。
最期には責任重大だと思い込み倒れてしまいました、どうなるのでしょう。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、誤字報告等有り難うございます。




