結婚後初日
結婚式後の夕方、梢が目を覚ますとイザベラ達はもう既に帰路についていた。
王都に来ることがあればと書状などを渡される。
夕ご飯を食べようとすると、アルトリウス達が既に準備しており、梢はそれを食べてから仕事に向かう。
仕事が終わり、広場に向かうと桜が綺麗だったのでつい花見をしたくなった梢は酒と菓子を取り出す──
「ふぁーあ」
私は目を覚ました。
夕暮れ時。
「梢か」
「おわ⁈ クロウ? どうしたの?」
何故かクロウがいた。
「ドミナス王国の者達は帰ったぞ、春休みは短いらしいから長居できないそうだ。だから、夏にまた来ると」
「なるほどー」
「もし、王都、王宮に来ることがあればこれを出せば良いと紹介の書状も貰った」
クロウは箱を手渡す。
箱を開けると書状が入っており、書状には王家の捺印と思われるものと文章が書かれていた。
「まぁ、そんなもの使わなくとも我が行けば入れるだろうがな」
「物騒なことは止めてよ」
私は呆れたように言う。
「そうだ、夕ご飯食べないと」
そう言って下の階に降りると──
「お早う、コズエ」
「お早うございます、コズエ」
「お早うございます、コズエ様」
アルトリウスさんに、アインさんに、ティリオさんが食事をしていた。
スープに、ステーキ、それからパンにミルクだった。
「貯蔵庫の野菜と、アルトリウスさんが狩って来たフォレストブルの肉を使いました、パンも貯蔵庫から。ミルクもです」
「有り難う」
「ですから、ちゃんと食べて畑仕事を」
「うん」
そう言えば、こういう形で食事を取るのは久しぶりだな。
「あれ、リサさんは?」
「母上なら、今裁縫に熱中している用だから、後で出す」
「そっか」
「大丈夫だ、私がちゃんと食べさせるから」
「うん」
リサさんが心配だけど、息子のアルトリウスさんが居るから大丈夫でしょう。
「うん、スープも野菜と塩と胡椒の味つけが本当にいい、お肉もジューシーだし美味しい、パンも温かくて柔らかい、美味しい。ミルクはいつ飲んでもいいね」
食事を堪能し、ジャージに着替えて家を出る。
畑仕事と、果樹園の手入れと、茶畑の手入れと、家畜の手入れを終えて広場に向かう。
桜が咲いていて、綺麗だった。
街灯と、魔道具の灯りで桜がライトアップされて綺麗だった。
私はアイテムバックから梅酒を取り出し、紙コップを出して、キンキンに冷えた炭酸で割る。
梅酒サワーのできあがり。
「あー美味しい」
そう言いながら、おつまみに作ったポテトチップスの塩味を食べる。
「うーん、贅沢」
しかし、なんかちょっと寂しい。
とか思って居たらアルトリウスさん達がやって来た。
「村中探してもいないからどこかと思ったらここに居たのか」
アルトリウスさんが安心したように言う。
「うん、お仕事終わっちゃったし、のんびりお酒飲みつつお菓子食べたかったの」
「せめて一言言ってください、中々帰ってこないので心配しましたよ」
ティリオさんが少しだけ怒ったように言う。
「ごめん、今まで一人で暮らしてたから癖が抜けなくて」
「まぁ、仕方ないでしょう。コズエは今まで一人で暮らし、一人で村を発展させてきたのですから」
アインさんが納得したように言う。
「それにしてもこんな広場を作っているなんて」
「村の集会場もいいけどこう言う広い場所でのんびりしたい気分もあったの。皆が良ければ皆でお花見しながら宴をするってのも良さそうだし」
「……ここは君だけの場所にするのがいいだろう」
「そう?」
「君だって一人になりたい時があるはずだ」
「……確かに」
アルトリウスさんの発言に頷く。
「ただ、今は一人がちょっと寂しいんだよね。一緒にお酒飲んでくれる」
と言って、スマホの売買アプリで購入した紙コップを取り出す。
「それならいつでも」
「ええ」
「勿論だ」
私はアインさんとティリオさんの分に梅酒サワーを作って渡し、アルトリウスさんにはブラッドワインを渡した。
「酒は一応飲めるぞ」
「でもお酒より、ブラッドワインの方が好きでしょう?」
「……まぁ、そうだな」
なんかしょんぼりしてる、あれ?
「こう言う時は同じものを飲みたかったんですよ、アルトリウスも」
「あ、そうなの。ごめんなさい」
「いや、これを飲んでから飲ませてくれ」
「うん、良いよ」
私はポテトチップスを口に放りこんで咀嚼すると、飲みきったアルトリウスさんの紙コップを仕舞い、新しい紙コップを出して梅酒サワーを作った。
「はいどうぞ」
「有り難う」
「では、乾杯といきましょうか」
「「「乾杯」」」
紙コップを掲げてそう言うと皆で飲み始める。
梅酒の甘さと炭酸のすっきりとしたのがなんとも言えない、あとこのシュワシュワ感も。
「こんな飲みやすいお酒があるんですね」
ティリオさんは驚いたようにいった。
「コズエの作った酒はどれも飲みやすいですが、これは特別飲みやすい」
「あー……そうなんだ、私ワインもビールもあんまり飲まないからさ」
「では何で作っているのです?」
アインさんは首をかしげた。
「……村人とドワーフ用、シードルと梅酒は飲むんだけど」
「シードルというのはリンゴなる赤い果実から作られたお酒ですよね、ウメシュはウメなる実からつくった酒、であってますか」
「うんそう。梅酒は私の自家製でね、氷砂糖と梅を交互に入れてお酒を注いで造ってるんだ」
梅の実は自家製、氷砂糖とお酒、ホワイトリカーはスマホのアプリで購入している。
「氷、砂糖? 普通の砂糖とは違うのですか?」
「氷みたな形の砂糖だよ、ちょっと作り方が特殊だから私しか手に入れられないの」
「そう言えば塩と胡椒もたくさんどこからか購入してますよね」
「神様からのご褒美って奴かな? 神様にお供えしてるから、そのご褒美に色々貰うの」
まぁ、嘘だけど、ある意味嘘じゃ無い。
スマホも、スマホのアプリも神様が私が生活しやすいように手に入れたもの。
「なるほど……どうやって神様にお供えを?」
「それは内緒、お供えの方法も私ができる方法だし」
「……秘密が多いな」
「ごめんね」
罪悪感が湧くが、仕方ないことだ。
「いや、いい。クロウ様に相談していたときから知っていたことだ『コズエは秘密にしなければならないことを多く持っている、夫であっても喋らないだろう』とな」
「クロウ……」
クロウは神様から私のこと色々聞いてるのかな?
とか思っちゃう。
クロウは神々の使いだから、お告げで何か聞いているんだろう。
「ところで少しだけ聞きたいのですが」
アインさんが何か尋ねたそうにしていた。
「何?」
「エンシェントドラゴン様とも結婚したかったとか?」
ぶふーっと梅酒サワーが飲み終わって飲んでいた水を吹きだした。
「げふげほ、ひーひー」
咽せて、腹が痛くて笑いたいのやら咽せたいのやらで訳が分からない状態だった。
「こ、コズエ様」
「無い無い! クロウとは絶対無い! ていうかクロウにもそれ聞いたの⁇」
笑っている私に唖然としているアインさんと、動揺しているティリオさん、何か達観しているアルトリウスさんがいた。
「それは以前私が聞いた」
アルトリウスさんが言った。
「クロウはなんて?」
「大爆笑した後で『我はコズエのことは孫のように受け止めている、それに神々からの神託もあってコズエは庇護対象だ、恋愛感情なんぞとうの昔に風化してるから持てるわけが無い』と言われたな」
「クロウ、爆笑せんでもええやん」
いや、向こうも私も恋愛感情は絶対持たないからお互い様か。
私も笑ったし。
クロウとは……じじ孫か私との関係は。
まぁ、普段のクロウはおじいちゃんだしね。
人型とマジの時はそうじゃないけど。
「やはり此処にいたか」
クロウがやって来た。
「クロウどうしたの?」
「村のもの達がお前の姿が見えないと騒いでいて、村から出ることはないだろうからと思ってな。ん、この匂いは酒か。我のも飲ませよ」
「はいはい」
紙コップの中に梅酒サワーを作って、クロウに渡す。
クロウはそれをじっくりと味わって飲んだ。
「うむ、美味い」
「ところで、用事って何?」
「ああ、ローレンス夫妻の息子サフィロが母乳だけではぐずるようになったらしくてな、だからブラッドフルーツを搾ったものが欲しいそうだ」
「それ早く言ってよ」
と哺乳瓶を受け取り家に戻って煮沸消毒している間に、ブラッドフルーツを搾る。
そして絞ったものを、煮沸してからしばらくして触れるようになったなった哺乳瓶に入れて、ローレンス夫妻の屋敷にダッシュで向かう。
「お待たせしやしたー」
と屋敷の扉をノックしてから開けると、サフィロ君が屋敷のホールで泣いていた。
グレイスさんが必死にあやしている。
「ああ、コズエ様、すみません」
「いえ、良いんですよ」
私はグレイスさんに哺乳瓶を渡すと、サフィロ君はんくんくと飲み干し、そしてゲップをしてからすやすやと眠った。
私はそれを見てから、屋敷を後にした。
結婚したとしても、私のやることは変わらないんだ。
いや、寧ろ増えた?
と首をかしげる私であった。
今回は急ぎなので梢はイザベラとお別れの挨拶ができませんでした。
代わりに、クロウが対応した様子。
また、アルトリウス達との生活も始まりますが出だしは好調?
とも取れます。
ただ、梢が最後に言ったように、仕事が寧ろ増えたというのは事実でもあります。
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