愛し子についてと、お色直しのドレス
梢は愛し子について神様に尋ねる。
すると本来愛し子は転生を繰り返す存在であることが発覚。
前の愛し子は「また愛し子になって皆を救いたい」という気持ちがなくなってしまったことでそのサイクルがぷつりと途切れた事を知り──
自分の家に戻り、部屋にこもる。
そしてスマホで神様に連絡を取る。
「もしもし、神様」
『ほっほ、神様じゃよ。どうしたのかのぉ?』
神様が出る、いつも通りの口調だ。
「私がここに来るまで長い間『神の愛し子』は産まれなかったそうですね」
『そうじゃよ?』
「何でですか?」
『少々長くなるが良いかの?』
「ええ」
長くなるのか、それほど重要な話題なんだよねきっと。
『愛し子は本来代々生まれ変わりなんじゃ』
「じゃあ私は例外?」
『そうじゃよ』
「なるほど」
『愛し子が産まれると、儂等は愛し子が何処の家の誰かというのをきっちり教える、じゃないと偽の愛し子なんかが出てくるしの』
「でてきたことあるんですか?」
『最初は出たが、妖精と精霊、儂等神々の神罰が偽物とそれを祭り上げた者達に下り、それ以降起きることは無かった』
「でも、私の前の愛し子で事件が起きたんですよね」
『そうじゃ、しかもよりにもよって儂を信仰する者が愛し子を処刑してしまったもんじゃから儂等激怒』
「でしょうね」
『普通なら愛し子は幸福の中で大往生し「また愛し子となって皆を救いたい」と思う事で生まれ変わりのサイクルができておったんじゃが、それがぷつりと途切れてしまった』
「つまり前の愛し子さんはそう思わなかったと」
『そうじゃ「このように悲しいのならば愛し子として産まれなければ良かった」とその者は思った結果、そのサイクルがぷつりと途切れた』
「あー……」
『愛し子がそう思ったのも無理はない、自分が救ってきた民達でさえも自分を「魔女」と断罪したのだから』
「だから、カインド帝国の血が連なるものは呪われている?」
『その通りじゃ、他の国が処刑されるのを知り、止めようとしたのがもう既に処刑はされており、儂の雷で愛し子は天へと召された』
「んーじゃあ、何で私は愛し子の力があるんですか?」
『愛し子は天に召された時その力を全て儂に返上したんだよ』
「ほほぉ」
『で、梢。お前さんを間違って雷でドカーンとやってしまったから転生させる際に「ちょうどいいからこの娘に愛し子の力を渡そう、そうすれば吸血鬼でも問題が減るし、儂等の加護があっても問題無い」という訳じゃ』
「ちなみに、何年くらい愛し子はいなかったんですか?」
『六百年くらいかの』
「六百……!」
そんな年数も愛し子いなかったら瘴気とかで大変じゃないの⁈
『まぁ、梢や。お前さんが危惧しているとおり瘴気があちこちで出て神森が十分の一まで減ってしまった、世界樹もユグドラシル以外は全部枯れてしまったんじゃ』
「いやいやいや、かなりヤバいですよね⁈ 他の人に任せるとかしなかったんですか⁈」
『残念じゃが、愛し子の力はこの世界ではサイクル──つまりじゃ魂が同じじゃないと上手く定着しないんじゃ、別世界の魂を持ってきて定着させるなら簡単じゃが』
「で、私が愛し子にと」
『そういうことじゃ、まぁ愛し子にしたと言っても世界の命運を託すつもりは毛頭ないから安心しておくれ』
「いや、世界の命運既に託されてるような気しかしないんですが」
今までの行動からすると、世界の命運と関係するような出来事満載だよ本当。
『気のせいじゃよ』
「そんな馬鹿な」
ユグドラシルに世界樹の苗植えてきてくれとか頼まれたりしてるんだぞ?
あとイブリス教壊滅に私めっちゃ関わってるし。
デミトリアス聖王国の崩壊にもめっちゃ関わってるし。
『そうじゃなー、お主は巻き込まれ体質なんじゃよ』
「へーってそんなんで納得できるかー!」
『まぁ、お前さんはスローライフ満喫しつつ、クロウに火の粉をはらって貰えばいいんじゃよ。それに春には結婚式を挙げるんじゃろ』
「この神様他人事のように」
『まぁ、そうじゃしの、ほっほっほ』
「この爺様は」
『ほっほっほ、春が楽しみじゃのう』
「ぐむむむ」
脳天気に言ってくれやがって。
『儂も盛大に祝福するから楽しみにしとくんじゃよー』
「どういう事⁈」
『それじゃあの!』
通話が終わる。
「だー! あの爺さん!」
頭をかきむしるように、髪の毛をぼさぼさにする。
「あーもーやってらんねー!」
と言いながら暇つぶしの編み物と裁縫に熱中する。
「……二次会のドレスというかお色直しのドレスは自分で作ってみようかな」
そんな事を思いながら足こぎミシンをガタガタ動かすのであった。
「え、二次会のドレスは自分で作りたい⁈」
翌日の夕方、シルヴィーナにそう言うと驚かれた。
「やっぱり駄目かな……?」
「いえ、二次会のドレスを作るという考えがすっかり抜けていました! 以前私の時は作って下さったのに!」
「だったら、作ってもいいかな」
「勿論です! あ、できたら私達には見せてくださいね!」
「うん」
言質取ったぞ。
と言うわけで型紙とかを使用してドレス作りを開始。
春色のドレスだったから、空色のドレスを着たい。
何せ私は吸血鬼、太陽を見ることも青空を見ることもできない。
まぁ、しようと思えばできるけど、眠いからやれない。
夜更かしならぬ朝更かしは天敵だもんね。
ドレスを作り始めて十日ほど経って一応完成した。
空色で、白い花柄の模様が入ったドレス。
露出は少ないままだが、ふんわりとしていて、何重にも層にになっている服。
「よし、これで完成。シルヴィーナに見せてこよう」
アイテムボックスに仕舞い、シルヴィーナの家に向かう。
「シルヴィーナ、ちょっといい?」
「はーい」
ノックして声をかけるとシルヴィーナが出て来た。
家の中には女性陣が一杯。
「あれ、レームさんは?」
そう言えばここ最近レームさんの姿を見てないと首をかしげると、シルヴィーナは苦笑した。
「レームはおしゃべりな所がありますから、兄に預かって貰ってます」
「ああ、なるほど」
「それで、どんな衣装を?」
「これなんだけど……」
「うわぁ、凄い綺麗! 花のアクセントも綺麗ですけど、スカートの部分が何層にもなってて凄いです!」
「本当だわ!」
「凄いですわ!」
「じゃあ、仕舞う──」
「梢様、着て見せてください」
「あ、うん」
私は頷いた。
「わぁー! 着てみるとまた凄いですね!」
「ええ、そうですね!」
「本当お綺麗!」
「なんかむず痒いので脱いでいいですか」
「ええ!」
私はドレスを脱いでアイテムボックスに入れた。
「さて、そろそろ帰りますね」
「はい! 男性陣の衣装も楽しみにしていてください!」
「ははは、勿論」
私は苦笑していうが、内心あの美形三人が着たら何を着ても映えるだろう。
見栄えが良いだろう。
「それで、どうだった? コズエの花嫁衣装は?」
集会場に集まったアルトリウスがそう口を開いた。
「ええ、ええ、素敵でしたわとっても!」
シルヴィーナがそう言うと、アインが口を触りながら言う。
「まだ見られないのが残念ですね」
「そうですね、アイン様」
ティリオも同意する。
「ふふふ、春が待ち遠しいですね」
「ああ、そうだな」
「ええ、そうですね」
「はい、そうですね」
シルヴィーナの言葉に三人は頷いた。
春の足音はもうすぐ其処まで来ていた──
「神の愛し子」が産まれるサイクルとそれを継続させていたものの理由を知る梢。
梢は愛し子の力を与えられて今を過ごしているが、なにげに色んな事に巻き込まれている事に不平を漏らします、実際そうですし。
そして結婚式、二次会のドレスは梢が作ることに。
夕方に起き、夜明けに眠る梢は青空を見ることが無くなっているからこそのドレスです。
なんだかんだで、梢も結婚式が待ち遠しいのでしょう。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、誤字報告等ありがとうございます。




