春待ちて~梢の花嫁衣装~
アルトリウスはアインの行動をクロウの家で咎めていた。
そこにティリオが仲裁に入る。
一方、頭の冷えた梢の元にシルヴィーナが訪れ、温室の果物の収穫を梢はシルヴィーナにお願いする。
収穫した果物の味見を二人は行う──
『やれやれ、梢の様子がおかしかったのはそれが原因じゃったか』
「抜け駆けをして」
「口にしてないのですから良いでしょう」
「そういう問題じゃない」
クロウの家でアルトリウスとアインは睨み合う。
「アイン様も、アルトリウスさんもいがみ合うのは止めましょう? 三人でコズエ様を愛し合うと決めたのですから……」
ティリオが困ったように言うと、二人は睨み合うのを止めた。
「分かりましたよ、次はお二人がどうぞ」
「分かっている」
「いや、でも頬にキスするだけであんなに真っ赤になってるんですよ? 大丈夫ですかね……」
『やれやれ、梢は男慣れしとらんの。まぁそこが良いんじゃが!』
クロウはそう言ってかっかっかと笑った。
「あー漸く冷静になれた」
頭突きをしたり、お風呂に沈んだりして色々気分転換して冷静になった。
取りあえず、これでアインさんの顔を見ても安心だ。
「コズエ様ー」
「シルヴィーナどうしたの?」
「温室の作物には手を出してないんですが、ちょっとみさせて貰いました収穫どうしますー?」
「あーマンゴーは完熟すると自動落下するから網で包んでいるから、落ちてる奴だけ収穫して、黄色いのはバナナだから黄色くなってたら収穫お願い、あととげとげした奴はパイナップルだからこれも黄色くなってたら収穫を」
「はーい」
シルヴィーナは温室に手を出させてなかった。
温室で育成すると言う環境があるかどうか不安だったしね。
「それにしても、このバナナという果実、栄養豊富なんですか?」
「うん、確かそうなはず。まぁ、妖精と精霊が育ててるから栄養豊富なのはどの果実も間違いないでしょ」
「確かにそうですね」
私とシルヴィーナは笑い合う。
「それと、本来バナナは夏の果物だけど、体調悪くしたりしたら嫌だから育ててたの」
私は収穫したマンゴーとバナナをアイテムボックスにしまう。
「まぁ、今日はマンゴーを食べようきっと美味しいと思うから」
「はい!」
そう言って私の家に向かい、マンゴーを切って分ける。
そして口にする。
「ん~~! 甘くてジューシー! 凄い!」
「甘くてジューシーで、食べたことのない味です! 美味しい!」
「香りもいいし、作って良かったー!」
とマンゴーを満喫する私とシルヴィーナ。
「次にパイナップルを食べたいんだけど……」
「何か問題でも?」
「そのまま食べると舌が痛くなるの、だからちょっと加工するわ」
「はい!」
パイナップルの皮と芯をクラフトで取り、煮て、缶詰ならぬ瓶詰めを作る。
「よし、でーきたっと」
「丸く穴が空いてますね」
「加工したからね、じゃあ食べよう?」
「はい!」
二人でパイナップルを食べる。
「マンゴーとはまた違う甘さがあります! 美味しいです」
「缶詰、いや瓶詰めパインはこの味よねぇ」
とパイナップルを食べていく。
「収穫したパインは全部瓶詰めにして皆に分けようかな」
「良い考えです!」
そう言ってパインを加工して瓶詰めにして行く、シルヴィーナはマジックバックにそれをしまい込んでいく。
「では私配ってきますね」
「行ってらっしゃい」
「はい!」
私はクラフトで疲れたので、仮眠用のベッドに横になる。
「あー疲れた」
弾力のあるベッドにふかふか毛布、夏場になれば涼しい布。
ただ、こちらは仮眠だ。
どうやっても、棺桶には勝てない。
ベッドで熟睡しようとすると、寝起きが辛い。
だから棺桶で寝るしかない。
まぁ、棺桶の中は今はふかふかで寝心地がいいから問題無いね!
「ただベッドよりも狭いのが難点」
そう、ベッドよりは狭い、これは仕方ない。
しゃーなし。
「コズエ様ー配り終えましたー!」
「うん、ありがとー!」
そう言って起き上がる。
下の階におりるとシルヴィーナがいた。
「他に何します?」
「そうだねぇ」
少し考えてみるが思いつかない。
「思いつかないや」
「では、私の家に来ていただけますか」
「ん?」
私はよく分からないがシルヴィーナの家に向かった。
「コズエ様、よく来て下さいました」
『おお、梢。来たか』
「あれ、クロウおじちゃんもどうしているの?」
何故かクロウも小さなドラゴンの姿でいた
「コズエ様、こちらです」
ルフェン君達のお母さん達が私を奥の部屋に案内する。
其処は春色に染まったドレスとヴェールがあった。
露出は低めの上品なドレス。
「布は私達でコズエ様からいただいた黄金羊と銀蚕の毛や糸を作りました」
「それをシルヴィーナ様や、リサ様がドレスに仕立て上げたのです」
「わぁー……綺麗」
綺麗なドレスに私は目を輝かせる。
が、すぐ首をかしげる。
「でも何で?」
『コズエ、お前さんあの三人と付き合い始めたじゃろ』
「あのー村の皆もしかして」
『知っとるぞ』
「NOOOOOO‼」
絶叫し、頭を抱える私。
まだ付き合ってそんなに経っていないのにどうしてじゃ!
とわめきたくなる今日この頃。
「春には村総出で式を挙げますので」
「イザベラ様にも手紙を出しましたので」
「NOOOOOOOOO‼」
更に絶叫。
何故私の居ないところで進んでいる。
「私式あげるとか言ってないのになんでぇ⁈」
『デミトリアス様曰く、梢の事だから結婚式もなぁなぁですますか面倒くさいのでしませんと言いそうだから先に逃げ出せないように囲っとけ、とのことじゃ』
「神様ー!」
頭を抱えて絶叫し続ける私。
だが、事実、否定はできない。
付き合いも、距離を置いて付き合っている。
三人に愛されるいうのは、私には驚きの事態だから。
なのに神様ー!
するとスマホが鳴る。
「ちょ、ちょっと失礼‼」
慌ててシルヴィーナの家の外へ出る。
「もしもしちょっと神様⁈」
『はぁい、梢ちゃん』
「どちら様⁈」
艶っぽい女性の声に私は素っ頓狂な声を上げる。
『私は恋愛の神様。そちらの世界ではディーテ神と呼ばれているわ、愛と豊穣と出産の女神』
「はぁ……」
『まぁ、若い女の子達から人気の神様って訳』
「その恋愛の神様が一体私に何でしょうか?」
『貴方せっかく三人もの美青年に愛されてるのよ、しかも外見だけじゃなく中身で』
「はぁ」
『せっかく若いままなのだから彼らが若いうちに結婚式くらい上げなさいな!』
「嫌でもまだ付き合い始めたばっかりで……」
『あの三人は早く結婚生活送りたいみたいよ』
「え゛」
『村人にその件も相談して、村人やシルヴィーナだったかしらハイエルフ達もせっせとウェディングドレスを作ったのよ、まぁウェディングドレスとはこちらでは言わないけど』
「なんていうんです?」
『婚姻の花嫁衣装と呼ばれるわ、勿論場所によってデザインとかも違うけどあのハイエルフは自分達のでやったみたい。村人も綺麗なドレスだからそれで応じたみたいよ』
「マジかぁ」
『獣人族は春に花を一杯つけた衣を纏うんですって、人間は──国によって違うから分からないわ』
「はぁ……」
『良いから、貴方も覚悟しなさい』
「覚悟できないんですがー⁈」
『貴方はね、愛されるのが慣れてないのが丸わかりなの』
「うぐ」
『だから彼らに大人しく愛されなさい、あの三人のこと、嫌いじゃないんでしょう?』
「ま、まぁそうですが……考えちゃうと意識しちゃって顔赤くなる程度には……」
『女だわ完全に』
「むー……」
余計なお世話です。
『取りあえず、村人達には感謝しなさい、その上で結婚予定が想定外だったと伝えなさい』
「はーい」
『それじゃあね』
通話は切れた。
私ははぁと息を吐き出し、シルヴィーナの家に入った──
梢が魔性の女ではなく初心で恥ずかしがり屋な女性であることをクロウは良いことだと評価しています。
純粋さを、評価しているんですよね、実際は。
アルトリウス達は早く距離を縮めたい、でも梢はまだちょっと距離を取りつつ交流したい。
利害が一致してませんね。
果物は村の各家に配りました、シルヴィーナが。
そしてドレスとヴェール。ハイエルフの結婚式のもので作っています。サイズはこの間シルヴィーナが測ったものです。
これから手直しが待っているでしょう。
後恋愛の女神様の登場、ズバズバ言われて梢は何も返せません。
他にも色々ありそうです。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
ブクマ、イイネ、評価等有り難うございます!




