暖かさのお裾分け
広場を作った梢、しかし冬の夜の寒さに体を凍えさせる。
そうしていると、暖かなものに包まれる感触に振り返るとアルトリウスが居て──
「おらよっと‼」
広場を村の奥にまた作る。
森の入り口からここまで結構長いからそっちに作るのもありかなと思ったけどやめておいた、何となく。
広場を囲うように、桜の木を置き、中央に桜の木を一本置く。
それから何度も咲く花の種を蒔き地面を整える。
「ようし、終わった……って寒!」
着込んできたつもりだったが、冬の夜は寒い。
そんな当たり前の事をすっかり忘れて作業に熱中していた。
馬鹿か、私。
そう思って居るとふわっと暖かい物がかけられる。
「アルトリウスさん……」
「クロウ様から聞いてな。『コズエが肌寒そうな格好で開墾に熱中している』と」
私が作ったマフラーじゃない、だってアルトリウスさんにあげたマフラーは黒いマフラーだったもの。
「……君のマフラーを見よう見まねで作ってみたんだ。大丈夫か?」
「いえ、凄いなと……あとこのコート……」
「それは俺のものだ。何ダンピールだから寒さには強い……しかし吸血鬼であるはずの君も寒さには強いはずだがどうしてだろう?」
「いや、寒さには強いんだけど、汗かいちゃって冷えちゃった……・」
「それなら仕方ない、早く家に戻るぞ」
「うん」
私は広場を後にした。
「お風呂は焚いてあるから入るだけ」
「不思議な家だな」
「マジそれね」
そう言いながら家に入ろうとすると、アルトリウスさんは入らない。
「どうしたの?」
「いや、流石に風呂に入っている間に家に入る勇気はないぞ」
「大丈夫だよ、脱衣所あるから」
「そういう問題じゃ無くて……」
「じゃ、お風呂入るからー」
私はそう言って浴室に向かう。
パジャマとコート、靴下を用意しておき、お風呂に入る。
「うっひゃー気持ちいいー! あったかーい!」
お風呂の中でぬくぬくと温まる。
「うーん、普通の吸血鬼じゃできないよねこんなこと」
首をかしげて考える。
「吸血鬼の皆さんはどうやって清潔を保ってるんだろ?」
ふと今更ながら気になった。
「私は流れてない水なら平気だ」
まだ外にいてくれたアルトリウスさんに聞くとそう答えが返ってきた。
「つまり、水で汲んで沸かしたお風呂なら平気で、温泉は駄目、と」
「その通りだ、まぁ吸血鬼は身を小綺麗にするとき、特殊なスライムを使うからな」
「スライム?」
「洗浄スライムだ、吸血鬼が開発したもので私の風呂場にそれがあるし、吸血鬼の家になら誰でもあるだろう、安いからな汚れが餌だし」
「へー」
「みてみるか?」
「うん!」
好奇心たっぷりの返事をすると、少しアルトリウスさんが額を抑えてた。
何でだろ?
「おじゃましまーす」
小声でミストリア家に入る。
「母が寝ているから静かにな」
「うん」
そう言って風呂場へと向かう。
「あれ、壺が置いてある」
「この中にスライムがいる」
「へー」
と思って居たら、アルトリウスさんは壺を傾けた。
するとでろでろと青いスライムが風呂一杯に満たされた。
「入れる時はこうだ」
「で、戻すときは?」
アルトリウスさんは袖をまくり、壺を沈めた。
「こうすれば戻る」
スライム達は壺の中に戻って行った。
「これ、いつ買ったの?」
「以前夜の都でブラッドワインを販売したときがあっただろう、オークションで。その時都でこっそり買っておいた」
「それまでは──」
「風呂に浸かってたな、あまり体には良くなかったがこのスライムを買えたから入浴が楽になった」
「それは良かった」
「では、そろそろ遅いし家に送ろう」
「うん」
家まで送って貰う。
「始祖の森とは言え、冬は冷える、吸血鬼であっても寒いのは変わらないのかもしれない」
「そうだね」
「だから体にはきをつけろ」
「うん、ありがとうアルトリウスさん。あ、マフラー」
「君の為に編んだものだ、使ってくれ」
「……うん!」
なんか嬉しかった。
その後、私は明け方までマフラーなどを編んだりし続けた。
「ふぁ……」
夜明けに棺桶に入ってから夕方目覚めた私は、昨晩編んだマフラー達を鞄に入れて着替えて外にでた。
相変わらず雪が降っている。
そしてハイエルフさん達の所へ向かう。
「はい、ネックウォーマーと、マフラーですーお好きに使ってくださいー」
「ありがとうございます、使わせていただきます」
「ああ、なんてあったかいの。さすが黄金羊の毛で作られてるだけありますわ」
黄金羊──ゴルド様々だね。
後で一杯ナデナデしようっと。
そしてローレンス家にも向かう。
「マフラーとネックウォーマーですーお好きに使ってくださいー!」
「おや、首が温かいな」
「そうだなイリス」
「サフィロ君には薄手の毛布を……」
「これは有り難い、普通のだと夜蹴飛ばして嫌がるんだよ」
イリスさんはサフィロ君に赤ん坊用に作った毛布を掛けた。
サフィロ君はおしゃぶりをちゅぱちゅぱさせながらそのまま眠りに落ちた。
「おやおや、最近ぐずって寝付いてくれなかったから寝てくれたね」
「疲れてたんですねー」
「これで今日はぐっすり寝られそうだ」
「そうだな、イリス」
「じゃあ、私はこれにてまだ、配らなきゃ行けない人がいるんで」
「ああ、アインとティリオか?」
ぎくり!
「孤児院の子ども達です!」
とごまかす。
「まぁ、それもあるだろうがな」
「では失礼!」
そう言って孤児院に直行する。
「と言うわけで、手袋とマフラー、ネックウォーマーを用意しました使ってください」
「有り難い、皆さん感謝して使いましょうね」
「「「「「「「「はーい‼」」」」」」」」
ミカヤさんが私を拝み、子ども達はわちゃわちゃと私に抱きつく。
「じゃあ、私行くところありますんで!」
「分かりました」
ミカヤさんは微笑んで、子ども達は元気よく送り出してくれた。
さて、最後の配達場所は……
アインさんとティリオさんの家。
ノックをする。
『はい、どうぞ』
「おじゃましまーす‼」
と入れば毛布で体を包んでいる二人がいた。
「ちょ、そんなに寒いんですか⁈」
「外で作業したらガチガチに冷えまして……」
「中々温かくならないんですよ……うう、寒い」
「ああ……」
扉を閉めて薄手の毛布を二人に掛ける。
「寒かったら不味いなと思って作りました」
「ああ、この布あったかいですね……」
「ええ……」
「宜しければコートとネックウォーマーを使ってください」
「ありがとうございます」
二人はコートに袖を通し、ネックウォーマーで首を温めた。
「最後にはい、手袋です」
「ありがとうございます」
「ありがたい」
「いえ、良いんですよ」
私は笑う。
「お礼をしなければならないですね」
「そうですね、ちょっと作った水飴があるので良ければどうぞ」
「わぁい! 水飴!」
瓶の中をみるとほの甘く香り、そしてスプーンをあげると透明な液体だっった。
悪いものではないのがわかる。
一口含むと優しい甘さが広がっていく。
「美味しい、ありがとうございます!」
「では私のお礼はこうしましょうか」
「?」
首をかしげると頬にキスされた。
顔が真っ赤になる。
「し、失礼しましたー!」
壺を持った二人の家から逃亡した。
中々、顔の熱は引いてはくれず、私はその日家にこもっていた──
ほのぼほ&ちょっと恋愛が前身しました。
梢は初心なのが分かるかと思います。
ちなみに嫌いな奴にやられたら拳が飛びます「セクハラ野郎くたばれ」と。
アインの事を好いているのが顔を真っ赤にするので表現しました。
あと吸血鬼達のお風呂事情も追加、洗浄スライムで体を洗っているというのが分かりました。
今回は冬の一幕、と思ってくだされば幸いです。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
ブクマ、イイネ、有り難うございます!




