やっぱり吸血鬼だからね
滅ぼしたデミトリアス聖王国の奴隷とされたエルフ達の処遇に困っていた梢。
クロウはそれに対して淡々と説明し、その説明を聞いて梢は動く。
ただエルフ達の多くは吸血鬼の梢をあまり良く思っていないようで──
「ところで私は何をすればいいですか?」
『料理とジュースか酒を提供してやれ。そうすれば一晩でエルフ達の瘴気──穢れは失せるだろう』
「了解でっす」
私は貯蔵庫に行き野菜を補充すると、そのまま鍋を持ってきて村の真ん中で煮炊きを始める。
ジャイアントディアーの肉を炒め、それから野菜、ジャガイモやニンジン、玉葱を入れて、塩などで味付けをして行く。
「うん。味も悪くない」
そう言いながら似ていると、小綺麗になったエルフ達がやって来た。
シルヴィーナとクロウが案内している。
「神様に言われたから食事作っておいたよー」
「ありがとうございますコズエ様」
『愛し子の料理なんだからちゃんと食べろよ』
『好き嫌いは構わないけど、ちゃんと食えよ』
妖精と精霊達がエルフを脅す。
「脅さないの!」
と、私は叱りつける。
シルヴィーナが椀にスープを掬い、提供し始める。
「お酒とジュースもあるからどうぞー」
と私は冷えたお酒とジュースをアイテムボックスから取り出す。
子どもは警戒しつつも、ジュースを手に取り飲んだ。
「美味しい! もっと頂戴!」
「いいよー、スープもちゃんと飲んでねー」
「コズエ、パンを焼いておきました」
「パンもどうぞ」
アインさんとティリオさんがパンを提供する。
皆パンとスープを交互に食して、味わっていた。
子ども達はジュースをおかわりし、大人達はスープとパンをおかわりしていた。
「では、寝る場所は来賓の館を使用してください」
そう言ってエルフ達をシルヴィーナが案内し、休ませた。
「明日になれば元気になっているといいのですが」
「なっている、神がそう言っているのだから」
「そうだねー。ティリオさんとアインさんはパン作りやってくれて有り難う」
「いいえ」
「お気になさらず」
「それと……」
すっと物陰から出て来た。
「ジャイアントディアー狩って来てくれて有り難うアルトリウスさん」
「気にするな」
やはり三人ともこういう所は似てるな。
「じゃあ、シルヴィーナは休んで、アインさんに、ティリオさんも。夜更かしは体に毒だし」
「そうさせていただきます」
「我はエルフ達を見晴らせて貰おう、何かしでかしたら連れてきた我の所為になるんでな」
「じゃあ、お願いねクロウ」
「うむ」
愛し子に何かするなんて自殺行為する……奴いるな、うん。
否定はできないから、今日は鍵閉めてねよう。
私はそう決めて家に戻った。
久々の針仕事をしてから、棺桶に入って眠る。
夕方目を覚ます。
「ふぁあ……」
目覚めの食事を取る。
実は昨日焼いたパンをこっそり貰って居た。
林檎ジュースと、ブルーベリージャム。
あったかいパンにジャムは正義。
扉を開けるとシルヴィーナさん達が居た。
「良かったー鍵をかけてあったから何かあったのか不安だったんです!」
「ごめんごめん、何か起きたらそれこそクロウの心労の種になるから、何も起きないように鍵かけて寝たんだよ」
「確かにエルフの一部で、愛し子様が本当に愛し子様か信用できていない者達もおりましたしね」
「で、そのエルフ達は?」
「エルフの里にお帰りいただきました」
「そっかぁ、それが良いよね」
「クロウ様がお送りに」
「ならいいか」
お礼などの見返りは求めていない。
ただ、彼らが無事に帰れただけでいい、そう思う事にした。
今の私は満たされているのだ、それなのに見返りを求めるなど強欲だ。
『おーい、戻ったぞー!』
クロウおじちゃんが帰って来た。
「お帰り」
『ただいま、梢。土産を持って行ってくれと言われたが匂いが吸血鬼が嫌うものじゃったから激昂して断った』
「ああ……」
吸血鬼ってこんな扱いが普通なんだね。
『呪ってやるー!』
『呪ってやるー!』
妖精と精霊達が激怒している。
「なら私と一緒に呪いましょうか? エルフすら呪った我が身、妖精と精霊の助力があれば確実に呪えましょう」
「いや、それはちょっと」
『ようし、呪おう「愛し子」!』
『愛し子様を傷つけようとした報いを受けてもらおう!』
「はいはい、止めなさい!」
私が止める。
「始祖の森に来るな、来たら森を燃やすし、来た連中も燃やすと脅しておいたから大丈夫だろう」
ドラゴンから人間の姿に戻って、クロウは言った。
「では我はしばし休む」
「うん、お疲れ様」
家に入ったクロウを見てから私は息を吐いた。
「やっぱり吸血鬼って嫌われ者なんだなぁ」
「他の種族が忌避しているだけですが、彼らもまた夜の神ネロの祝福を受けている者達です」
「うん、フォローありがとう、ティリオさん」
「コズエ様は、それ以外の神々からも祝福を受けています、誇ってください!」
シルヴィーナが言う。
「祝福受けて愛し子でも、向こうからすれば忌むべき吸血鬼なんだろうね……」
「「「……」」」
シルヴィーナ達は悲しそうな顔をする。
「そんな顔しないでよ、まぁ吸血鬼になることを選んだ時点で忌避されるのを予想しなかった訳じゃ無いからね」
「しかし……」
「ですが……」
「だが……」
まぁ、そう言っても本人達は納得しないので──
「こうなりゃ宴会だ! 飲んで騒ぐぞー!」
と言った矢先に、誰かの気配を察知する。
「誰か、来た」
森の入り口に視線を懲らす。
模様は覚えている、デミトリアス教の模様だ、前ミカヤさんが馬車で来た時の。
「ごめんシルヴィーナ、クロウを起こして」
「はい!」
「ティリオさん達はミカヤさんを呼んで」
「分かりました」
「畏まりました」
少しするとクロウは不機嫌そうな顔で、ミカヤさんは慌ててやって来た。
「全く、この国の連中が今度は何の用だ?」
「それを聞くためにクロウとミカヤさんに同行してもらうの!」
「申し訳ございません、コズエ様」
「いいんですよ、じゃ、行きましょう」
森の入り口に向かう。
森の入り口に着くと、偉そうな人が居た。
あと包帯ぐるぐる巻きの人も、誰だ。
「ミカヤ司教、どうか戻って来てくださらないか?」
偉そうな雰囲気の人が言うとミカヤさんは首を振った。
「いいえ、ラファ枢機卿様。私は戻ることはいたしません。デミトリアス様からも、この森で子ども達と暮らし一生を終えることを望まれました」
「嘘をつくな‼ 司教の分際で‼」
包帯ぐるぐる巻きの人が怒鳴る。
「その声はグレッグ大司教?」
「あーミカヤさん追い出して邸宅建てたけど神様の怒りと妖精と精霊の怒り喰らった人?」
と私はついうっかり喋ってしまう。
「……やはりですか、グレッグ大司教」
「ち、違うのです! 其処の娘がデタラメを……!」
「愛し子がデタラメを喋る訳がないでしょう! ましてやエンシェントドラゴン様がいらっしゃるのです」
え、人の姿だけど分かるんこの人。
「ほほう、並みの信仰心と鍛錬を積んでいないな貴様」
クロウが感心しとる。
「分かりました、では子ども達と貴方を強引に追い出した分の賠償を、グレッグ殿から頂戴します。グレッグ殿、降格になるのは覚悟なさるように」
「そ、そんな……」
包帯ぐるぐるの人はがっくり項垂れているが正直ざまぁみろだ。
偉そうな人──ラファ枢機卿は袋を持ってきてミカヤさんに渡す。
ミカヤさんは中身を見て驚愕する。
「こんなに頂けませんよ⁈」
「もらってください、ちゃんとそれはグレッグ殿から徴収するので気になさらず」
「……分かりました、子ども達の幸せの為に使わせていただきます」
「それが良いでしょう」
ラファ枢機卿は部下達にグレッグを馬車に乗せるよう命じてから自分も馬車に乗り込み、その場を去って行った。
「いくら貰ったんだ?」
「白金貨30枚です」
「なんだそれっぽっちか」
「クロウ! 普通の人ならそれだけあれば働かなくていいくらいしばらく暮らせるっていったでしょ!」
「そう言えばそうだったな」
「まぁ、悪いこと無かったし、帰ろうか」
「そうですな」
「ああ」
私達は森の奥へと戻って行った。
移住ならず、お帰りいただきました。
ハイエルフのシルヴィーナ達は移住しましたが、エルフ達はシルヴィーナ達より愛し子<吸血鬼の方を重視した為、梢を良く思っていない用でした。
クロウが土産も持たずに帰って来たのがそれです。
また、ブリークヒルト王国のデミトリアス教の方々ですが、ミカヤと孤児達を追い出したグレッグ大司教はバッチリ呪われてます、包帯でぐるぐる巻きの下は神々に呪われた証があります。
それをひた隠していますが、色々と暴露された為地位も家も失うでしょうね。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。




