秘密のワイン
梢がのんびりしていると、側妃クレア、ロッズ前公爵達が慌てて館から梢の元にやって来る。
内容は、梢のワインを王宮に卸して欲しいというものだった。
梢は深く考えず了承しようとするが、そこにクロウがやって来てそれを止めさせようとする──
「「「愛し子様‼」」」
「ん?」
館の方から顔色を変えてロッズさんやクレアさん達がやって来た。
「こ、このワインなのですが」
「はい?」
「小量でいいのでドミナス王国の王宮に送っていただけませんでしょうか⁈」
なんか血相変えてる、このワイン何か効果あったっけ?
鑑定できないから知らんけど。
「別に構いませんが……」
『駄目じゃぞ、梢』
「クロウおじちゃなんで駄目なの?」
『お前さんの加護は戦争を起こしかねない、そこも考えてエルフの連中は商売をしとるんじゃ』
クロウおじちゃんに考えがあるのだろう。
「分かった、クロウおじちゃんの言う通りにする」
『ほっほっほ、ソレで良いんじゃ』
「愛し子様」
「イリスさんですか、どうしたんですか?」
「聞きたいのですが、貴方の作るブラッドフルーツはどのような物なのですか?」
「えっとこんな感じです」
アイテムボックスに入れておいたブラッドフルーツを出す。
赤ん坊の顔くらいの大きさだ。
「なんておおきいの⁈ 私が精霊と妖精に頼んで育てたときはそんなに大きく育たなかったのに⁈」
『コズエは愛し子だからねー』
『そうだよー、コズエの力もあるよー』
そうなんか?
と首をかしげる私。
「愛し子様、それほど強い加護をお持ちなのですね」
『そういうことじゃよ』
なんかクロウおじちゃんがまとめてるし。
このときのクロウおじちゃんはいいんだけど、クロウの時は正直面倒くさいのよね、大変だし。
『そういうことで、儂にもワインをくれんかのう?』
「はいはい」
器にワインを注ぎ、地面に置く。
すると、器を舌で舐めるように飲み始めた。
『うむ、美味い!』
「やれやれ……」
「やはりワインの仕入れは無理ですか……」
『土産になら多少持ち帰っても構わんぞ、ただ内密にな』
悩むクレアに、クロウはそう告げた。
「いいのですか?」
『王族で病対策に飲むなら二月に一杯で十分じゃ、それくらいで我慢をして貰いたい。梢を争いの火種にはしたくないんじゃ』
「確かに、ブリークヒルト王国の王族達もこの森の扱いは慎重にといい、教会にも手出し不要と言っている」
『そういう訳じゃ、梢はそういう国のことなんざ全く知らんからの』
「極東から突如この地に来たから、とかですか?」
『まぁ、それが近いの』
ワインを飲み干したクロウは用意された肉に食らいつく。
『うむ、美味い』
そう言ってから、クロウは何か意味深に呟いた。
『風の者達が囁いておる、今現在ブリークヒルトの始祖の森に近い場所から神官と子ども達が歩いてやって来ていると、もうすぐ入り口にたどり着くと』
「一体どういうことです?」
『そのままじゃよ』
マルスの言葉にクロウは返した。
「むむっ、森の入り口に大人一人と子ども多数の気配あり」
飲んでいたジュースを置いて、私は立ち上がる。
「クロウ、シルヴィーナ。ちょっと森の入り口までついてきて!」
「はい!」
『しかたないのぉ』
クロウおじちゃんは人間の姿になる。
「さて、どのような要件で来たのだろうな」
「わかんない」
「取りあえず警戒はしましょう!」
そういうことで、宴から抜け出し森の入り口へ。
入り口につくと、以前見かけた神官さんが立っていた。
多数の子ども達を引き連れて。
「あ、大分前に来た神官さん」
「お久しぶりです、愛し子様。私の名はミカヤと申します、一応司教です」
「それで、司教様がどうして始祖の森に?」
「あの時の文章に関わらぬようにと書いてあったはずだが?」
クロウが言う。
「はい、仰る通りです。私一人なら別の国へと行く方法もありました、ですが子ども達を連れてですと、それは危険すぎてできないのです」
「子ども達って、何があったんですか?」
ミカヤさんは悲しそうに笑いながら説明を始めた。
胸くそ悪かった。
ドミナス王国のとある大司教が始祖の森に教会を建てさせろと始祖の森に近い場所に教会と孤児院を経営していた司教であるミカヤさんに命令。
ミカヤさんはあの場所にいた当事者なので断った。
がその後、その大司教が子ども達とミカヤさんを孤児院と教会から追い出し、両方を潰して自分の邸宅を建ててしまう。
しばらくは街に滞在して他の司教達に助けを求めたが大司教の息がかかっており、またはとばっちりを恐れて断られ、最終的に街も子ども達共々追い出されてしまったらしい。
何がデミトリアス教の大司教だよくたばれ!
私は心の中で中指を立てた。
「その大司教の名前は」
「グレッグ・ルズタード大司教です」
『やっちゃう?』
『やっちゃうやっちゃう?』
妖精達が囁く。
「私が許す、やって」
『ひゃっほーい!』
『ついでに同じ派閥の連中も軽く呪っておくぞー』
『おー!』
「……仕方ありませんね、村への案内をシルヴィーナ、お願いします」
「コズエ様とクロウ様は?」
「ちょっと先に戻って受け入れる準備を」
私とクロウは顔を見合わせて猛スピードで村へと戻った。
「どっせい!」
斧で木を切り倒し、開墾し、広い空間を作る、周囲は桜の木で囲う。
資材で小さな教会と、孤児院を建てた。
「あ゛ーづがれ゛だ」
「お疲れ様だな」
クロウが水を持ってきてくれ、私は水を飲み干す。
「うーん、疲労回復しない、ブラッドフルーツ食うか」
アイテムボックスからブラッドフルーツをカットしたものを取りだし、齧りつく。
「うん、美味い」
ブラッドフルーツを食べ終える頃にシルヴィーナさんがやって来た。
「いらっしゃーい、建物建てておいたよー」
「これはなんと……⁈」
「子ども達がいっぱいだから孤児院の方大きくしちゃいました」
「いえいえ、有り難い限りです」
十数人の子ども達が孤児院の中に入って行く。
「べっどふかふかー」
「ほんとうだー」
「赤ちゃん用の揺り籠もあるわ」
子ども達は全員入った。
「司教様の部屋もちゃんとありますんで、ベッドも其処に置きました」
「何から何まですみません……」
ミカヤさんは私に頭を下げた。
教会の企みに乗ったのは癪だが、善人と幼子達を放置できるような心はない。
『愛し子様ー』
『愛し子様、神様が先に天罰を与えていました』
『関係者達は真っ黒焦げで呪われましたー』
『だから邸宅とかは木で覆い尽くしてやりましたー』
「ありがとう」
神様もちゃんと仕事してくれて助かりますよ。
と心の中で思うのだった。
ワインの効果が莫大だったから王宮でも欲しがる訳です。
ちなみにレイヴン達行商勢はこのワインを巧みに売っています、なので争いの火種になってません。
理由は内緒。
クロウもクロウで、欲しがる理由も分かるので土産くらいなら許可を出してます。
そしてミカヤ司教と子ども達。
この土地に移り住むしか考えが浮かばなかったのでしょう、他の場所でも拒否されたら子ども達の身が心配ですから。
だから、ミカヤ司教は苦渋の決断でここに来たのです、それも分かってるから梢達も許可してます。
梢のクラフト能力は便利ですね。
また、神様達もお仕事してくれていたようで(天罰を与えてくれたようで)何よりです。
ここまで読んでくださり有り難うございました!
次回も読んでくださると嬉しいです。




