色々ありすぎた
色々ありすぎた為深夜、運動公園のベンチで一人黄昏れていた梢。
そこにアルトリウスがやって来て会話をしていると、アインとティリオが訪ねて来て──
色々ありすぎて、深夜の時間帯になっていた。
いつもなら何かしているが、今の私は運動公園のベンチでぼーっと月を見上げていた。
昼夜逆転生活を始めて一年がとっくに経過し、色々トラブルに巻き込まれたなぁと思った。
「スローライフ、できてるのかなぁ」
「コズエ、どうした?」
「アルトリウスさん……」
アルトリウスさんが来てくれた、カップを渡してくれた。
渡してきたのはホットミルクだった。
「君がくれるミルクを温めたものだ、飲んでくれ」
「いただきます……」
温かいミルクの味にほっとする。
「どうして此処に?」
「うーん、一人黄昏れてた。この一年怒濤の一年だったなぁって……」
「そうか……」
「で、なんかぼーっとしたくなったの。今日も今日で怒濤の一日だったし、メンタルぼろぼろだよ」
「なら、少し立ち止まって休んでみると良い、立ち止まって自分がやって来たことを振り返ってみれば良い」
「振り返る、か……」
目を閉じて振り返る。
元の世界で死んで吸血鬼でスローライフをしたいと我が儘を言ってそうさせてもらった。
斧で木を切り開拓し、畑などを作っていたらシルヴィーナさんと遭遇した。
そして森にやって来たリサさんとアルトリウスさんを住人として迎え入れ、イブリス教を追っ払い、家を建てた。
その後、ドワーフのおじさん達がやって来て、住居を建てて住人として迎え入れた。
行商のエルフさんたちがやってきて、奴隷にされていたイザベラちゃん達やルフェン君を助けた。
イザベラちゃんが王女様と聞いて驚いたけど。
エンシェントドラゴンのクロウが来た、ドラゴン時と人の時の性格の変わりようには驚いたけど。
それで──
「……駄目だ、色々ありすぎてごちゃごちゃしてちゃんと思い返せない」
私は頭を抱える。
「……確かに色々あったな。俺はほとんど関わらず狩りをしていたが」
「そういや、そうだね。なんで?」
「吸血鬼同様ダンピールは忌避される存在だ、だから俺は人前には出ない」
「でも、村の皆は気にしてないでしょう? 吸血鬼の私がいるんだし」
「……確かにその通りだが」
何かアルトリウスさんは気にしているようだ。
「何を気にしてる──」
「ご機嫌よう、コズエ。お邪魔でしたかな?」
「コズエ様、ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、アインさん。ティリオさん」
そう答えてから私はふと思い、口に出す。
「お二人ともこんな夜更けに何のご用ですか?」
「いえ、コズエ。貴方と話したかったのですよ。私達は」
「私と?」
「貴方はここ最近忙しくしている。だからゆっくりと話したかったんですよ」
誰かとゆっくり話す、スローライフでいいかもしれない。
が、何故だろう。
アルトリウスさんの視線が痛い。
「アルトリウスさん……?」
「……何でも無い」
いや、視線が痛いんじゃない、アインさん達とアルトリウスが視線の火花をバチバチならしている‼
何を争っているんだ‼
『梢ーフェンリル達が話あるんじゃとー』
「クロウおじちゃん、あ、分かった」
私は三人を見る。
「ごめんね、じゃあ!」
私はその場を後にした。
『全くおぬし等の行為のアプローチはまどろっこしいんじゃよ』
梢が居なくなった後、クロウは三人に向かって呆れたように言った。
「クロウ様、いらぬお世話です」
「クロウ様、私達のアプローチでは彼女には全く伝わらないと」
『そうじゃよ、もっと露骨にやらんと、なんか変だなー程度で終わってしまうぞ梢は。あの娘っ子恋愛下手じゃがら』
「クロウ様何故そのような情報を?」
『儂神々の使徒じゃし? 神お告げだったり、お話をいただける立場じゃし?』
「では、聞きたいのです。コズエ様と仲良くするにはどうすれば⁈」
『アルトリウスにはできんが、お前らなら畑仕事を手伝えよう。アルトリウスは聖獣の世話くらいはできよう。シルヴィーナ以外聖獣の世話なぞ恐れ多くてできんと言ってるしの』
「それならできるかもしれん」
『梢ともっと交流することじゃ、アルトリウスは狩りに出てばかりじゃなくて一緒に食事するとかじゃぞ。アイン、ティリオ、お前さんも村人との交流もいいが狙いが梢なら梢とももっと話すんじゃ!』
「しかし、コズエが話したがらないとかありませんか?」
『それはあるの』
「やっぱりですか……」
アインは髪をかき上げた。
『身の上話は禁句中の禁句。どうして始祖の森で開拓を始めたのかも聞いても答えてくれんかもしれんぞ』
「「「……」」」
『その反応聞こうと思っとったんじゃろ』
「だって、私達は梢の何もしらない」
『しらないのが何が悪い』
「なんか真逆の事を仰ってませんか?」
ティリオが困ったように聞く。
『言っておるつもりはないぞ』
「はぁ」
『だた寄り添えば良い、梢は寄り添ってくれる相手を求めておる。本人は意識しとらんがな』
クロウは微笑んで言う。
クロウは神から聞いていた。
梢はこの世界の者ではなく別世界から来た者だと。
神雷に当たって死んだからお詫びにこの世界で生活する上で、梢は「すろーらいふ」なるものを実行することと「吸血鬼」になることを選んだ。
何故始祖の森を開拓の場所に選ばせたか、それは梢が生きづらさを抱えているからだと聞いた。
元いた世界の巨大な「社会」という「構造」では梢は生きるのが辛いから、少数で暮らしていけるような場所として、迷いの森にもなる始祖の森を選んだと。
クロウは神からそう聞いていた。
だが、言わない。
梢に知っているとも言わない。
それが最善だと知っているからだ。
「どうしたの」
『コズエ様、お願いがございます』
少し大きくなった子フェンリル二匹がちょこんと座っていた。
石榴のとなりに。
「石榴どったの⁇」
『我が子達に名前をつけてほしいのです。そうすれば自覚というものも芽生えるでしょう、コズエ様を守るという従魔としても』
「じゅうま?」
『コズエ様が私達に行った名前を与え、私達がその名を受け入れるという行為は契約の証、貴方様を主として仕える証です』
「え゛」
『……もしかして知らなかったのですか?』
「し、知らない知らない‼ 神様もそんな事教えてくれなかったし‼ 白亜も強い力となるしか言わなかったもの‼」
私は慌てる。
『……まぁ父上が言っていたことも事実です。力の強い者の従魔になればその分力も増します。父上に勝てるフェンリルの群れ長はいないでしょう』
「んー? それって私が力が強いってこと」
『その通りです』
「でも、まだちっちゃいのに力が強まったら大変じゃ無い」
『小さいうちは力は発現しません、大人になってからです』
「はぁ」
『寧ろ重要なのはコズエ様に敬意を持たせることにあります』
「なんだかなー……まぁ、良いかそろそろ畑掘り返されるの嫌気さしてきたところだったし」
『まだやっていたのお前達⁈』
石榴が二匹を怒る。
「きゅ~~ん……」
「くぅ~~ん……」
『土から良い匂いがしたから掘りたくなった⁈ それは作物を妖精と精霊が育ててるからです、このおバカ‼』
石榴が二匹を叱りつける姿が、悪いことをした子どもを叱る親の姿だなぁとちょっと黄昏れた。
「あのー名前つけていい?」
『あ、はい。勿論です』
「こっちの子が萌黄、こっちの子が白虹」
そう名付けると、二匹は光って少し大きくなった。
『こずえしゃま!』
『こずえしゃま!』
「アレ⁇ 二人の言葉が聞こえるぞ?」
『本来はフェンリルは大人にならない限り会話はできません、が従魔契約をした者は子どもでもしゃべれるようになります』
「なるほど……いい、二人とも畑は掘っちゃいけません! はい復唱!」
『ふくしょう?』
『同じ言葉を言うんですよ、畑は掘っちゃいけません、と』
『はたけはほっちゃいけません!』
『はたけはほっちゃいけません‼』
「掘ったら次こそ毛を刈ります」
『『ほったらつぎこそけをかります!』』
と言ってから二匹は顔を見合わせた。
「今までは石榴のお子さんだったからって我慢してたけど、私の従魔になったなら我慢しません、毛を刈ります」
きゅ~~ん、きゅ~~んと泣き出す二匹。
『分かったのなら畑は掘り返さないこといいですね』
石榴が萌黄と白虹を静かにたしなめる。
これで懲りてくれたらいいんだが、と思って居る私だった。
まぁ、効果抜群だったらしく、それ以降畑が掘り返されることはないのだが、その時の私はそこまで知るよしも無かった。
クロウがアルトリウスとアインとティリオの三人に「まどろっこしいんじゃお前ら」と言うものと、クロウが実は梢の身の上を知っていて黙っているのが明かされました。
そして未だにたまーに掘ってる石榴達の子どもに名前がつけられました。
女の子の方が萌黄で、男の子が白虹です。ここで補足します。
ちなみに、梢はガチで次やったら毛を刈る元いサマーカットにするつもりでした。
フェンリルがサマーカットされるというのはちょっと可哀想ですよね。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。




