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幻の蘇生薬

梢はグレイスからイリスとの馴れ初めとここに来た理由を教えて貰う。

そこで梢は神と対話ができることがクロウの口より遠回しで伝えられる。

そしてイリスの父ロッズからイリスを神に頼み蘇生させて欲しいと無理難題を言われるが──





 無言の時間が続いたので私は埒が明かないと思い、グレイスさんに尋ねてみることにした。

「グレイスさん、イリスさんとはどういう馴れ初めで?」

「イリスとは、人に害をなす吸血鬼の討伐時に意気投合したのだ、それからも危険な魔物の狩りなどを一緒に行っていたが……話を聞くと、ドミナス王国の正妃候補というじゃないか。だから私は『君は正妃となって国王を補佐しなければならない』と言って別れを告げた次の日の夜、巨大なマジックバック片手に私の元に来たのだ」

「それで?」

「『惚れた男と添い遂げるのがいいと母は言っていた! だから私は貴方と添い遂げる! 正妃ならばマリアがいる! マリアに勝てる者は居ない!』と言った」

「なるほど、イリスが『マリアすまん、正妃の座をお前に譲る』と言ってきたのはそういうことか」

「え、正妃って強いんですか?」

「色んな意味で強く無ければ正妃にはなれんぞ、ドミナス王国の正妃は」

 マリア様は懐かしそうにそう仰った。

「それから私の屋敷に付いてきて、畑を耕したりしながら共に暮らしていた。イリスは精霊や妖精と仲が良かったから、彼女が困ることは無かった。私も彼女のおかげで助かった。それが20年近く続いた」

「ずいぶん、長いですね」

「ああ、20年経つ頃漸く子どもに恵まれた、それがサフィロだ」

「ふむ」

「だが、サフィロが産まれた頃、イブリス教の信者が私達の屋敷の近くを彷徨くようになり安全を求めて、旅に出た」

「ほう」

「場所はこの始祖の地。吸血鬼の身の愛し子がいるとイリスが妖精と精霊達から聞いた。だからこの地を目指した」

「そこで、何故イリスが居ない!」

「……この地に近づいた途端イブリス教の信者に馬車を襲われたのだ。だからイリスとサフィロを馬に乗せ逃がし、私は囮になり、イブリス教の愚者共を殺してた。朝が近くなり、私は馬車の棺桶に身を潜めた」

 イブリス教の信者を警戒してたんだろうな。

「そして夜になった時、急いでこの地の入り口にたどり着くと我が子サフィロを抱いている者達と遭遇し、我を忘れて襲いかかった、イリスを殺した連中と思って」

「い、イリスは亡くなったのか?」

「それを我が説明しよう」

 クロウが口を開いた。

「此奴が来る前の夜、森の入り口に女はたどり着いたが、入り口まで追ってきたイブリス教の連中から我が子を守りながら戦っていた、だが多勢に無勢、女は命を落とし、愛し子はそれを見て激昂した、それに恐れをなしてイブリス教の信者は逃げ、イブリス教の連中は今度は夜の神ネロからも呪われて家から出ることができなくなった」

「な、何故そうなったのだ?」

「愛し子が、神にイブリス教の愚行を許さない事を伝えた結果だ」

「い、愛し子様は神と対話できるのですか⁈」

「あー……まぁ一応」

 ロッズさんは土下座をした。

「どうか、どうか主神デミトリアスに頼んでいただきたいのです! イリスを蘇らせてほしいと!」

「ええー! 死人を蘇らせるなんてできませんよ!」

 できる訳ないじゃん!

 死者の蘇生なんてゲームじゃあるまいし!

「二日経っていないならできるぞ。アイテムボックスに入れておいたから今日出せば一日目になり明日の朝までが期限だ」

 マジで⁈

「どうやって⁈」

 クロウの言葉に、私は耳を疑う。

「世界樹の葉っぱと世界樹の花の蜜を混ぜた薬を口に注げばいい」

「……世界樹と交渉してきまーす」

 私はそう言って世界樹の根元まで猛ダッシュした。

 責任重大だからだ。

「ユグドラシルさん‼」

『なんですか愛し子様』

「貴女の花を下さいな!」

『でしたら頂上まで登ってきてください、花は頂上にしか咲きません』

「うおおおおおおおお!」

 私は猛スピードで垂直と思われるユグドラシルの木を走った、重力を無視して。


 ぼふっ!


「あ、これですか!」

『そう、それです』

 小さな花たちが咲いていた。

「蘇生薬には何個ぐらい?」

『一つで十分ですよ』

「じゃあ、三つ貰います」

『はい』

 私はアイテムボックスに入れると、垂直に落下し、着地してから再度猛スピードで戻って来た。

 葉っぱもついでに新鮮なのを摘んできた。

「クロウ! これでどうだ‼」

「うむ、よくやった。十分だ、後はお前のクラフト能力とやらで作れば良い」

「マジかー」

 私はそう言ってから

「クラフト!」

 と叫ぶと、蘇生薬の画面が出た。

 どこからか調合する材料が出て来てクラフトを開始。

 そして──

「できたどー! で、肝心の死体!」

「こんなこともあろうかと、未だに保存しておいてある」

 とクロウがアイテムボックスに手を入れる、アイテムボックスから手を出すと女性を抱きかかえていた。

「イリス!」

「イリス!」

「お姉様!」

 クロウはベッドに寝かせたので、私は口の中に薬を注いだ。

 一時間後、凄く長く感じた。


 胸の傷が綺麗に消え、肌に血色が戻る。

「う……あ……」

「イリス!」

「イリス!」

「お姉様!」

「……ああ、グレイス……何で父上とクレアが居るの?」

「うう……この馬鹿者‼ 親にここまで心配させおって‼ この親不孝者‼」

 ロッズさんは号泣し始めた。

「……サフィロ、サフィロ!」

 イリスさんは飛び起きた。

「あいたたた……それより、サフィロは⁈ 私とグレイスの可愛い赤ちゃん‼」

「ここですよ」

 リサさんがサフィロ君を、イリスさんに抱っこさせた。

「ああ、サフィロ。無事で良かった……‼ ん? ちょっと待て私死んだんじゃ?」

「死んだぞ、確かに。死体だったからアイテムボックスに保管して時間経過を止めていてその間に愛し子──梢がお前の為の蘇生薬を作ってくれたのだ、感謝せよ」

「クロウ、蘇生薬あるならもっと早く言って」

「仕方なかろう、蘇生薬をお前が作れるか分からんかったのだから」

「じゃあ、クラフト能力でってのは?」

「賭けだな」

「うわー!」

 この時のクロウ嫌い!

 無責任すぎる!

 責任を私に押しつけないで!

「愛し子様、有り難う、イリスを蘇らせてくれて」

「儂からも礼を言わせてくれ……! 有り難う、娘を救ってくれて……」

 二人から握手をされる。

 感謝されるのは悪い気はしないが、結構しんどいぞ‼

 もし、失敗してたらとか考えるとぞっとする!

「我がこの時の為に保存しアイテムボックスに入れていたのだぞ」

「それもっと早く言って」

「誰も蘇生させてくれと言わなかったからな」

「普通死んだ人生き返らせれると思わないでしょう!」

「儂もすがる思いで言ったから、本当に蘇生できるとは思っておらんのです」

「ほーらー!」

「仕方ないだろう、神が蘇生の秘薬の作り方をこの世界から消し去ったのだから、覚えてるのは我くらいだぞ」

「神様ー⁈」

 と絶叫すると、スマホが鳴る。


「もしもし神様⁈」

『そーなんじゃよ。蘇生薬というものを作れていた時代、金持ちや貴族、王族、神官は世界樹達を独占し、蘇生薬を独占し続けていた。それに我慢の限界が来た儂等は蘇生薬を無くし、蘇生薬を作る方法を忘れさせたのだ、全ての人々から。エンシェントドラゴンを除いてな』

「まじかー!」

『おぬしが使う分は大丈夫じゃろうて、おぬしはそんな薬売るとか考えないじゃろうしな』

「当たり前ですよ!」

『まぁ、おぬしが作るものも相当ヤバい代物に仕上がっているからどっちもどっちじゃがの、ほっほっほ』

「はぁ?」

 どういうことだ神様⁇

『それじゃあの』

 通話が終わった。

「……」

 私はぼそりと呟いた。

「神様なんなん……」

 と。





 まぁ、イリスさんが生き返ったのは良かった。

 が、ここからが大変だった。

 二十年ぶりに話をしたいロッズさんと、話したくないイリスさん。

 さっさと我が子の世話をしたいイリスさんに、もう少し体を休めてほしいグレイスさん。


 とまぁ、意見が分かれ口論になりかけたのを、側妃クレア様が一喝。

 イリスさんの意見を尊重しつつ、ロッズさんはイリスさんに無理をしないように言った。


 娘とは言え、今は側妃。

 立場が上なのでクレア様には敵わないロッズさんであった。







クロウが彼のアイテムボックス(時間経過のない無制限の入れ物)にイリスさんの亡骸を入れていた理由が明らかになりました。

蘇生薬を作る前提で保管していたのです。

説明をしないクロウ、意地悪というか厄介ですね、梢も叫びたくなります。


また、母は強し、妃は強しを体現するクリス。病気から回復したからここまでしっかりしてるんですね。


ここまで読んでくださり有り難うございました。

次回も読んでくださると嬉しいです。

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