異世界転生20年目の誕生日
梢がこの世界に来て20年目の誕生日。
その日、梢は音彩に起こされて村の中央の建物に向かうと、村人達が料理を並べて待っていた。
なんと料理はクロウが主導で作ったと聞き驚く梢。
そして梢はその料理を口にし──
「「「「「「「「「「コズエ様、お誕生日おめでとうございますー!」」」」」」」」」」
「ありがとう、みなさん」
夕暮れ時、音彩たちに起こされて着替えて外へでると村人さんたちがあつまってお祝いの言葉をくれました。
そのまま晃たちに案内され、村の中央にある建物の中に行くとご馳走の数々。
「わぁ! 凄い!」
驚き感心する私。
「これ、クロウ様が主導で作ったんですよ、全部」
「え?」
クロウが、だと?
「クロウが?」
「はい、クロウ様が率先して料理をなさいました」
シルヴィーナの言葉に私は信じられないものを見る目でクロウを見る。
いや、料理をできるのは知っていたがこう率先してするとは思わなかったのだ。
「お前が作るような菓子類は村人達では作れぬ、精々パイが限度だ」
「はぁ」
「ごちそうも、今は冬、時間が流れぬ保管庫で保管しているが、それでも美味いものを食わせたいという村人達の思いに応えて我が材料集めから、料理もした主導でな」
「あ、ありがとう」
「いつも菓子を貰って居る礼だ、遠慮せず食べろ」
そう促されて少しずつ取って食べる。
洋菓子類、和菓子類は後々。
柔らかい肉質、ジューシーな脂。
野菜は新鮮でドレッシングと合う。
肉を包んで食べると更に美味しい。
一通り食べて、今度は菓子に。
久しぶりのおはぎは甘さ控えめで美味しかった。
きなことごまも美味しい。
洋菓子はケーキがクリームの優しい甘さとシロップ漬けの果物と苺の相性が良くて美味しかった。
スポンジの部分も美味しい。
本当に一通り食べてふーと息を吐く。
「美味しい! みんなも食べて!」
みんな安堵の表情を浮かべ、食べ始めた。
「今年でこの森に来て20年目の冬かー……」
少し黄昏れると、私は心の中で年齢を数える。
25歳の夏にここに来て20足して45歳……?
わーお、あっちの世界なら高齢出産もいいとろだ。
でも私吸血鬼だから関係ない。
ついでにディーテ神様のお陰でお産はスムーズに行く、記憶がないけど。
なんで記憶ないのかなー?
とかいろいろ考えていた。
「どうした梢」
「なんでお産の時の記憶が曖昧になるんだろうって」
クロウが聞いてきたので答えると、クロウはしばし無言になってから口を開いた。
「……お産の時も、普段痛みになれたないお前がいたがっているから、記憶を曖昧にしたそうだ」
「え、痛かったの?」
「普通のお産より痛くないしスムーズとはいえ、辛いことは変わらん」
「な、なるほど」
そういう記憶を持たせるのが可哀想と思ったのかな、ディーテ神様は?
と、考えながらケーキを頬張った。
「まぁまー」
「まぁま!」
「まぁま」
てちてちと歩きながら光たちが抱きついてきた。
「はーい、どうしたんでちゅかー?」
と声をかけるとキャッキャと笑う。
冬の終わりが近づけばこの子達は一歳になる。
一年って本当早いなぁと思いながら抱っこする。
「お母様、どうしたの?」
「いや、一年経つのは早いなぁって」
「ええ、そうね!」
「音彩や、晃に肇も随分大きくなったし」
「えへん」
音彩は誇らしげにいう。
そこが可愛らしくてたまらない。
「カイル君との結婚式はとても素晴らしいものになるといいわね」
「ええ!」
「だから私達頑張るわね」
「ありがとうお母様!」
音彩は私に抱きついた。
「晃と肇は内緒にしてるから困るのよね」
「……あの二人は初心だから」
「そうなの?」
「ついでに親にあれこれ恋愛で言われたくないみたい、特にお母様」
「言わないけどなぁ」
「多分お祝いとかで張り切るから直前まで言わないと思うわ」
「ええー」
それはそれで困る。
「お父さん達は知ってるの」
「知ってるわ、そしてお母様には内緒にしてるの」
「ええー!」
私だけ知らないの、なんか阻害感!
「阻害感を感じるー!」
「でも、私達が一人前になればちゃんと紹介すると思うから待ってね?」
「そうするぅー……」
いろいろと不安だが仕方ない。
その日を待とう。
「子どもっていろいろありますねー」
「そうですな、愛し子様」
マリア様と持ってきたシードルを飲みながら駄弁る。
「ルキウス君はアレなのに、シャルル君は幼いながら立派すぎる……」
「シャルルはそうせざる得なかった、兄があまりにも問題児だった為」
「精霊と妖精の愛し子ってのもあって可哀想ですな」
「ええ、そうですね」
「ルキウス君の現状は?」
と、問いかけるとマリア様は苦く笑った。
「私達がこの森に行くとなると、荒れる」
「変わらないなぁ」
悪い意味で。
「しかも今回ルキウスを王太子にしたい連中がやらかした案件をアルフォンスに伝えねばならない」
「正妃も大変ですね……」
「いや、それで迷惑を被っている愛し子様の方が大変でいらっしゃるだろう」
「……私よかクロウとシルヴィーナなんですが、多分」
「しかもご息女を捕まえようとした、頭が上がらない」
「マリア様が指示したことじゃないんだし、気にしないでください」
「……愛し子様のお心遣いに感謝を」
そう言ってマリア様はシードルを飲み干した。
私も飲み干した。
「コズエ」
「アルトリウスさん」
呼ばれたのでリビングに行くとアルトリウスさん達三人が座っていた。
「どうしたの?」
尋ねるとアクセサリーを三種類貰った。
髪飾り、ブレスレット、ネックレス。
「綺麗……」
「特注品だ、デザインは私達がやった」
「素敵!」
「良かったら特別な日につけて貰いたいですね」
「……うん、ありがとう。子ども達が結婚する時とかに付けるわ」
「それなら嬉しいです」
三人は安心したように笑った。
ああ、なんて素敵な誕生日かな!
梢の誕生日です。
村人全員でお祝い、ドミナス王国とムーラン王国の王族と関係者も交じってのお祝いです。
梢は村人に祝われて純粋に喜んでいます。
ただ、マリアとの会話で、まだルキウスが悪い意味で変わってない事にげんなりしている様子。
そして子ども達の恋愛模様がちょっとだけちらり。
本当少しだけ。
で、夫達にプレゼントを貰う梢。
勿体ないから大切な時に使おうと決めています。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




