19年目の冬来たりて~王族来訪~
19年目の冬が来て王族の方々が来訪する中、梢は安全第一に扱われる。
そんな中、アシュトンの妻、レベッカが男児を出産する。
それを聞いた梢は──
冬が訪れた。
森の前に気配がある、普通に入ってくる。
「シルヴィーナ、クロウ、出迎えお願いできる?」
「はい、コズエ様!」
「勿論だ、梢」
私は自室でお腹を撫でる。
前妊娠したときよりも、お腹が大きくなるのが早い気がして少し心配ではある。
ディーテ神様のお陰でつわりなどの妊娠時の苦しみはほとんどないのが救いだ。
「でも、お腹が重いのは変わらないんだよねぇ」
そうぼやいてホットミルクを飲むと、チャイムが鳴った。
「お母様、そこに居てね」
本日の監視係の音彩が玄関に向かう。
そしてマリア様と、イザベラちゃんを連れてきた。
「マリア様、イザベラ様」
「愛し子様、妊娠おめでとうございます、そしてお元気のようで何よりです」
「コズエ様、ごきげんよう。わぁ、お腹が大きい……撫でていいですか?」
「いいですよ、イザベラ様」
イザベラちゃんはおそるおそるお腹を撫でる。
すると丁度、お腹が動いた。
「あ、動きました!」
「本当ですね」
そんな話をしていると、アシュトンさんが入った来た。
「失礼します、コズエ様!」
「どうしたの、アシュトンさん?」
「妻のレベッカが産気づき、無事出産が終わったのを報告に……!」
「本当? 良かった……男の子? 女の子?」
「元気な男の子です! 名前はルカと名付けました」
ああ、カインさんの生まれ変わりか。
お腹をとんとんと蹴る音がした。
会いたいのね、リサさん。
「良い名前ですね……会いに行ってはダメかしら?」
「……お母様、足元には充分気をつけてください、私が即座に対応しますけど……」
「ごめんね、音彩」
私は足元に気をつけながら、アシュトンさんの屋敷に向かった。
「コズエ様!」
「コズエ様、大丈夫ですか? 音彩さん、まだコズエ様は出産は先?」
スピカちゃんとカイル君が出迎えてきた。
「一応まだっぽいから行きたいってここに来たんです」
「そうですか……」
「コズエ様、妻はこちらに」
アシュトンさんがそう言って案内してくれたので、私は寝室に入る。
レベッカさんが、大きな赤ちゃんを抱っこしていた。
「出産は驚くくらい早かったですよ、それに母胎への影響も少なそうで」
「それはよかったです」
私は椅子に座り、レベッカさんの抱いてる赤ちゃんに触る。
「ルカ君、産まれてきてくれて、有り難う」
「あら、どうしてコズエ様が名前を」
「ここに来る前にアシュトンさんが教えてくださったんです」
「アシュトン、ありがとう」
「いや、レベッカ。君も無事、そして子どもも無事ということが嬉しいことこの上ないよ」
そうしていると、赤ちゃん──ルカ君が手をのばして私のお腹を触った。
すると、お腹を蹴る感触が伝わった。
「コズエ様の生まれてくる赤ちゃんに興味があるのかしら」
「かもしれませんね」
本当の事は言えないので言葉を濁す。
だって、貴方の子どもが私の生まれてくる子の前世の夫だとか言えないでしょう!
私は言えない。
無事家に戻り、ホットミルクで一息つく。
「コズエ様、無理しないでくださいね」
「イザベラ様、ありがとうございます」
「安定しているとはいえ、出産は近いのだろう? 無理はしないほうがいい」
「マリア様ありがとう」
今年の冬はシルヴィーナとクロウ達に頼るしかないな、と私は心の中で呟いた。
用事がある王族の方は私の家へとやって来て話をする。
シャルル君もちょくちょく婚約者のお嬢さん達と一緒にやって来るのだが、やはり大きなお腹に目が行くようだ。
「さわってもいいですか」
「いいですよ」
恐る恐る触るシャルル君、ちょうどタイミングがいいのか悪いのか胎児がお腹を中から蹴る。
「わ、うごきました」
「みんな、生まれてくる前はこうなんですよ」
「そうなんですか?」
「そうなんでしゅか?」
「でしゅか?」
「いもうとがおなかにいるときそうだったからそうですわ」
シャルル君よりも、大人びているレスティちゃんが言うと、皆納得したような顔をして頷く。
「いつごろおうまれに?」
「クロウが言うには冬の間には生まれるだろうと」
「えんしぇんとどらごんさまがいうならたしかです」
「そうですね」
「えんしぇんとどりゃごんしゃまはどきょにいりゅのでしゅか?」
「どこでしゅか?」
「村の中央の屋敷よ、隣に村役場があるわ」
「いってみましょうか?」
「「「はい!」」」
子ども達はとっとこと、と家を出て行った。
ちゃんと出る時お辞儀をして。
「♪~」
お腹を撫でながら、歌を歌う。
子守歌を。
かつての故郷の歌を。
今はこの場所が故郷だから。
「コズエ、体調はどうだ?」
「お腹が空いてしかたない以外は特にないわ」
「分かりました、今料理します」
「ありがとう、アインさん」
「私も手伝います」
「私もやろう」
夫達は帰って来ると料理をし始めた。
私が料理をしていてもいいのだが、お腹が大きくなっているので、軽い運動以外は家族達はガルガルモードで禁止してしまう。
それくらい、妊婦の私を気づかっているのだ。
「お母様、今日は大丈夫?」
「軽く外に出て歩いて、家の中を歩き回っただけだから大丈夫よ」
「本当?」
「「本当ですか?」」
「本当よ」
私は苦笑した。
「コズエ、出産が終わってもしばらくは無理せず私達家族に任せてくれ」
「そうは甘えてられないわ、私も親なんだから」
「しかし、出産は……」
「知ってるわ、体に凄い負担がかかるんだって、でもディーテ神様のお陰で私達は出産も産後も安全でいられるんだから」
「ぐむ……」
「「……」」
三人とも、黙り込んでしまった。
私は笑って言う。
「安心して、無理はしないから」
「ならいいんだ」
「うん、いつもありがとう、みんな」
私はお腹を撫でながら笑った。
元気に生まれておいで、私たちの子どもたち。
王族の事はほとんど任せつつ、産まれてきたレベッカの子どもルカ──もといアルトリウスの母であるリサの夫カインの生まれ変わりを見に行く梢。
赤ん坊何となくですが、お腹の中に約束した大切な人がいるのが分かって触っています。
そして、シャルルの婚約者たちは、梢のお腹を触りながら命に触れます。
エンシェントドラゴンもといクロウは多分あの後わちゃわちゃされるのかも知れませんね。
産まれてくるであろう子ども達を梢は祝福し待っています。
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