シャルル達の行動と、音彩の行動
夕方、目を覚ました梢はいつも通りクワなどを持って、畑仕事に勤しんでいた。
するとそこへ、小さな客人と保護者たちがやって来て──
夕方、目を覚まして畑仕事に勤しもうとクワを持つと、とっとこ、と走る人影と、わたわたと後を追う影が複数。
「ここがいとしごさまのはたけなんですね!」
「「しゃるるしゃみゃみゃって!」」
「しゃるるさま、まって!」
「シャルル、どうしたの。愛し子様の畑が見たいといいだして。確かに愛し子様の畑は他の畑と大きく異なるのは分かるわ……」
「シャルル、まだ許可を取っていない、勝手に畑に入ったら怒られるぞ」
えーと、シャルル君と、ミレアちゃんとルミアちゃんと、レスティちゃんと、エリザさんとマルス君かな?
「其処まで厳しくないですよ、見ていっていいですよ?」
私は苦笑しながら、声をかける。
「ありがとうございます、いとしごさま!」
シャルル君は丁寧にお辞儀をする。
ミレアちゃんとルミアちゃん、レスティちゃんもお辞儀をする。
エリザさんとマルス君は申し訳なさそうに頭を下げた。
「しゃるるしゃみゃ、あれおいししょー!」
「ほんとう! おいししょー!」
「つやつやしてておいしそう……」
子ども達が指刺しているのは葡萄。
しかも某マスカットだ、私の世界では価値の高いあの。
なのだが──
私が育てた結果どうしてか、光を吸収し淡く輝きツヤツヤと光る名前通りの物体へと変化した。
最初育てた時は「何これ怖い」だったが、味はマジで美味しいし、葡萄酒の材料にするとドワーフさんたちが作っても極上の代物ができるのだ。
私が作ると更に上をいくやべー物体になるが。
まぁ、神様に「これを新しいネクタルの一種にするかのぉ」と言われた時はビビった。
その上収穫しても、二日に一度は収穫できるので困ることはない。
困ることと言えば消費方法くらいだ。
消費量を生産量が大きく上回ってしまうのだ。
時間が止まる保管庫のお陰で腐らせずにすんでいるが、消費方法をもっと増やしたい。
なので遠慮なく食べていただきたい。
「食べますか?」
「いいんですか?」
「はい」
私は慣れた手つきで一房収穫する。
「はいみんなでどうぞ」
「しゃるるさまからどうぞ」
レスティちゃんがそういうと、双子ちゃんもといミレアちゃんとルミアちゃんが頷く。
「じゃあ……」
シャルル君が一粒食べる。
「⁈ あまい! すごくあまくてのうこうです! それでいてくどくない! おいしいです!」
「! しゃるるしゃま、あたちも!」
「あたちも!」
「わたしも……」
子ども達はマスカットを口にしていく。
その間護衛の方がマスカットの房を持ってた。
「! おいしいです!」
「おいひい!」
「おいひぃ……!」
喜んで食べ、頬を押さえる可愛らしい仕草に私の頬も緊張も緩む。
「よかったら、マルス様とエリザ様も食べませんか?」
「いいのですか?」
「はい」
そう言ってもう一房収穫し、護衛の方に渡す。
そしてお二人がマスカットを口にする。
「ああ、コレはいかん、手が止まらなくなる!」
「本当に美味しいわ!」
そう言ってパクパクと食べている間にマスカットを全部収穫してしまう。
そしてシャルル君やマルス君に渡したマスカットを小さな籠に詰める。
「これを来賓の館とイザベラ様のところにもっていってください。私はまだ収穫があるので」
「いいのですか?」
「シャルル様達だけが美味しいものを食べたとなると後でマリア様から色々言われそうですから」
嘘は言っていない。
マリア様は「あまり孫とマルス達を甘やかすとなぁ」と言われるので先手を打っておく、これで大丈夫。
だと思いたい。
そう言って畑から館へ戻る王族の方々と護衛の人達を見送って私は畑仕事──収穫作業などを開始する。
「お母様」
「どうしたの、音彩」
畑仕事を終えると、音彩が浮かない顔をして近寄ってきた。
「何かあったの? カイル君?」
「……も含むかも」
「含む……ルキウス君の事?」
音彩はこくりと頷いた。
「アレが来なくても、息がかかった奴らが来てカイルさんに何かするかもしれないと思うと不安で……」
アレとな。
もう口にも出したくないのだな。
いや、気持ちは分かるが。
「ちょっと、クロウと相談してくるね。安心できるような答えを出すから」
「ん……」
音彩は不安そうなまま頷いた。
「──と言う訳で念の為相談しに来た」
クロウは呆れた顔をした。
「念の為というと、お前は解を得ているのか?」
「多分だけど、ルキウス君の息がかかっている連中は森が拒絶する」
「分かってるではないか」
「一応確認の為に聞きに来たの!」
私は少し怒る。
娘の不安を少しでも減らしたい親心を分かってくれよと思う。
「分かっておる、お前が音彩の不安を減らしたいからここに来た事ぐらいはな」
「もう」
クロウは私が作ったマスカットタルトを食べながら言う。
「この森は、森に住む者達に害意を及ぼすものは通さない」
「やっぱりね」
私は頷く。
「例外はある?」
「お前が招き入れればありうるが、森が拒否したものをお前が入れる道理は無かろう」
「まぁ、そうだね」
「だから、言ってやれ音彩に」
「分かった、有り難う」
私はお礼を述べてそのまま自宅へ向かっていった。
「音彩」
「お母様」
私の顔を見た音彩は少し安心したようだ。
「クロウと話したけど、この森はこの森に住む誰か一人でも危害を加えようと企んでいたら拒絶するの、だからルキウス君にカイル君を傷つけるよう命じられている時点で入れないの」
「本当?」
「クロウも言ってたけど本当、もし入る方法があるなら私が招き入れること──でも森が拒絶した人を私がいれる道理はないから大丈夫よ」
「うん!」
明るい表情になる音彩。
「私カイルさんのところにいってくる!」
「気をつけてね」
と見送る私。
「アインさんも、ティリオさんも寝てて良かったんですよ?」
「いえ、音彩が不安がってるのに寝るのはと……でも解決したみたいなので寝ますね」
「ええ」
起きて居たアインさんとティリオさんは寝室に向かった。
様子見していた晃と肇も外へ出て行った。
アルトリウスさんは静かにブラッドワインを飲んでいた。
いつもの日常が戻って来た、そう感じた。
王族の方々がいるけどね、と思いながら私もブラッドワインを飲むことにした──
梢は善良な人にはかなり甘い女性です。
ちっちゃい善良なかわいい子どもたちには激甘です。
なので、某輝く名前のマスカットを食べさせます、まぁ梢の加護の力とか精霊と妖精たちの補助でとんでもないものに変質してますが、そのマスカット。
シャルルは正妃の婚約者と、側妃の婚約者たちとなかよくやっています。
側妃の双子は年相応ですが……マルスとエリザは梢の性質を理解しているからちょっと申し訳なくおもってます。
それと、音彩が悩むルキウスの件。
嫌いというかもう生理的に受け付けないからこそ色々と不安になるのです。
自分の大切な人が傷つけられるのではないかと。
梢はそんなこと心配しなくても大丈夫ではなく、森を知り尽くしているクロウに敢えて聞き、確認して、その内容を音彩に伝えることで安心させています。
ティリオとアインは子どもたちが不安がっているので夜更かししてましたが、それが終わったのですぐゴーベッドしました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
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