ドミナス王国の事情
梢は村に戻り、イザベラがどうしているか思いをはせる。
イザベラは国に無事帰還し、兄共々父たる国王アルフォンスが出迎える。
そこで梢からもらったジャムとワインを見せ、母の元に行く。
病に伏せているらしいイザベラの母側妃クリスにジャムを食べさせると──
「コズエ様……‼ その血は⁈ まさかお怪我を⁈」
村にシルヴィーナが血相を買えて駆け寄ってきた。
「いや、キメラの首にがぶっとやったら血が勢いよくぶしゃーっと出たから汚れただけ、洗濯すれば落ちるから」
「そうでしたか……」
「ところでさぁ、イブリス教って何処にでもある訳⁇」
「イブリス聖王国が国教にしてますが、その他の国にもちらほらあります」
「そっかぁ」
私は遠い目をする。
「どうしたんですか?」
「イザベラちゃん達、大丈夫かな?」
と、しばらく前に帰ったイザベラちゃん達を今頃心配する私だった。
時は遡り──
「父上、ただいま帰還しました!」
「マルスよ、戻ったぞ」
「お父様、戻りました‼」
「おお、よく無事で帰ってきた‼ 最近イブリス教徒が暴徒と化していると聞いて心配だったのだよ」
王宮に戻ってきた三人を国王であるアルフォンスは出迎えた。
「確か、日の下を歩けぬ罰をイブリス神から受けて自棄になっている、だったな」
「そうだ、それで日の下を歩ける奴隷を誰でも良いから確保しようとしているそうだ」
「イブリス聖王国も、イブリス教も落ちたものだな。人間が独占したのがまずいかんのだ」
正妃マリアは呆れたように言った。
「そうだな、ところでイザベラ。それは?」
「愛し子様からもらったジャムとワインです。お母様の病気はこれできっと良くなります」
「ジャムとワインで?」
「はい!」
嬉々として言うイザベラに、首をかしげるアルフォンス。
そんなアルフォンスに、マリアはそっと耳打ちをした。
「王宮の鑑定士に鑑定させたらひっくり返る程の効能が両方にあった、クレアも治るだろう」
「本当か⁈」
思わず声を上げたアルフォンスに、マリアは静かに頷いた。
「では、イザベラ。持って行ってあげなさい」
「はい!」
イザベラは嬉々として自分の母がいる部屋へと向かった。
「しかし、妙だと思わないか?」
「何がです?」
「クレアの体調不良が長引いていることだ、イザベラを産んで二年後から急に体調を崩すようになり、今は床についている」
「確かに」
「ちょっと見に行ってこよう」
三人は側妃クレアの寝室へと向かった。
「お母様、食べてくださいな」
「ええ……」
側妃クレアはジャムをスプーンで掬ったものを口にした。
すると咳き込み、口から黒い結晶が出て来た。
「何かしら、これ……⁇ あら、体がとても軽いわ」
「お母様?」
クレアは起き上がり、イザベラの頭を撫でた。
血色の悪かった頬は、ほんのりと色づいていた。
「お母様!」
イザベラは満面の笑みで抱きついた。
「クレア!」
「アルフォンス……ええ、久しぶりに体がとても軽いですわ……あと、何か変なものが口から出て来ましたの」
とテーブルに黒い結晶を置いた。
「魔術班を呼べ、この物体の解析を!」
「お母様、しばらくはこのジャムとワインをどうぞ!」
「ええ、有り難う」
イザベラから二つを渡され、クレアは棚にしまった。
その後、魔術班の調査から毒素の塊だという事が発覚。
体中にたまっていた毒素が出て来たのではないかと思い、実験をしてみると実験動物でも似たような結果が出た。
では、毒素はどこから?
という話になり、城中を調査した結果、側妃クレアの食事に微量の毒が混ざられているのが発覚した。
しかもそれは元側妃メリーウェザーの指示によるものだった。
未だに影響力を持つ、元側妃をどうするかと決めたところ、実家であるミスト侯爵家は取り潰し、メリーウェザーは国家転覆罪で処刑、娘のメリーは最果ての修道院送り、そして息子のアッシュ王子は王位継承権剥奪となった。
「父上、何故母上を処刑するのです‼」
メリーウェザーの実家に戻っていたアッシュ王子が王室に戻り父であるアルフォンスに問いかける。
「お前の母がクレアに毒を盛るよう指示を出し、イザベラを誘拐し奴隷として売り飛ばすように指示をだしていた。そのような妃は処刑せねばなるまい、王家の問題だ」
「だからといって……」
「メリーウェザーの計画では次にマルスを亡き者にしてお前を王太子にするつもりだったそうだが、そうは行かぬ。お前は王位継承権剥奪の上、塔に生涯軟禁させてもらう」
「そんな……!」
「連れて行け」
わめくアッシュ王子は連れて行かれ、部屋に静寂が戻る。
「ミスト侯爵め、自分の血筋を王族に残すために娘にそういう指示を出して私と結婚させたとは」
「全く、つくづく度しがたい。そして愛し子であるコズエ殿には感謝せねばな」
「む?」
「あの贈り物がなかったら今回の事に気づくのが遅れてマルスが亡き者にされたかもしれん」
「そうだな……」
「さて、ブリークヒルト王国に連絡でもするか」
「レイラと連絡を取るのか⁇」
「ああ、次期王妃である我が娘に、愛し子の話はどう伝わっているのか聞かねば」
「そうだな」
二人は謁見の間を後にした。
とある円卓がある部屋に入ると、椅子に座り、何かの魔導器を作動させる。
しばらくすると──
『アルフォンス国王陛下、何かご用ですか』
『お父様、お母様、どうなさいましたの』
椅子に二人の男女が座っているのが映った。
声も出ている。
「レイズ王子、レイラ。少し聞きたい事があってな」
『なんでしょうか?』
「始祖の森の愛し子について聞き覚えは無いか?」
マリアの言葉に、二人は驚いた表情を浮かべた。
『始祖の森にドミナス王国の馬車が入っていくのが見たという者達がいたけど、お父様達はどこまで知っているの?』
「うむ、実はな──」
アルフォンスは二人に今までの出来事を説明し始めた。
『イザベラが誘拐されていたなんて……しかも側妃メリーウェザーが主犯?』
「ああ」
『その上、クレアお義母様に毒を盛り、マルスを亡き者にしようとだなんて……やはりあの側妃腐ってましたわ』
「お前はそう判断していたか」
『確証はなかったので進言できなかったのですが……』
「処刑は既に行われた、国を転覆させようとした悪女として名を残したぞ」
『子ども等は?』
「メリーは最果ての修道院で一生暮らす。アッシュは王位継承権剥奪となり、塔に幽閉だ」
『仕方ない事ね』
「クレアは愛し子の作った物のおかげでイザベラが生まれてくる頃以前位の体調になったぞ」
『本当! クレアお義母様が体調を崩したって聞いた時は耳を疑った位だもの』
「クレアの食事に混ぜられた毒も、メリーウェザーが用意したものだった」
『あの女許しませんわ』
「もう死んでる」
「で、始祖の森の愛し子について知ってる事を教えてほしい」
『私が知っているのは、愛し子は太陽神イブリス、夜の神ネロ、創造神デミトリアスの加護を受けあの始祖の森で開拓することを許されている極東から来た吸血鬼という位です』
「なるほど……」
『その証明となる書類は王家で保存しております』
「そうか……」
『ですので、王家でも、始祖の森に余計なこと不要と伝達しております』
「……だが、デミトリアス教が黙っているか?」
『それが黙らせるのに苦労しましたよ、父上と母上、私共も』
『創造神の加護があるならデミトリアス教の教会は必須! とね』
『教皇と、実際に行った者がいなければ大変なことになりかねませんでしたよ』
「そこまでか……」
『ただ、諦めていないようなので、いつまで黙ってくれるものか……』
「その時は私も力を貸そう」
『お母様、物理で黙らせるのは止めてくださいまし』
「むっ」
「マリアは物理だからな……」
「失敬な」
『ところでお母様、お母様は始祖の森の奥へ入られたのでしょう? どうでしたか?』
「うむ、小さいながらも豊かな村だ、これで獣人に人、ドワーフ、色んな民が暮らしていた。それでいて争いがない」
『素敵』
「イザベラの姉でもあるんだお前は、お前位なら行っても大丈夫ではないか?」
『いいえ、私は今は王太子妃。勝手な行動はできませんわ』
「むぅ、そうか」
『とにかく、危険性がないのも分かりました、有り難うございます』
「うむではな」
アルフォンスが魔導器を操作すると、二人は消えた。
「王家として礼をしたいが、はてさて、何がいいか」
「また近々行くのだ、じっくり考えればいい」
そう言って二人はその場を後にした。
イザベラ元いドミナス王国で起こった出来事の回となりました。
元側妃メリーウェザーは処刑、子ども等は王籍から除籍され、幽閉といっていい状態です。
そして始祖の神森があるブリークヒルト王国へアルフォンス国王と正妃マリアが連絡を取り、自分の娘と王子と対話します。
始祖の神森の話の中で、教会がまだ何かしようとしているというの事実なのかもしれません。
内容によっては梢が対処するでしょうが。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。




