ルキウスの事と、子どもたちの様子
梢が畑仕事を終え、村を歩いているとクロウの屋敷からただならぬ空気を感じる。
気になり屋敷に入ると、マリアとマルス達、ドミナス王国の王族の大人たちとクロウが話合っているようだった、その内容はルキウスのことで──
畑仕事を終えて、一人村を歩いていると、クロウの屋敷からなんとも言えない空気が漂ってきた。
気になってノックし「入れ」の言葉に家の中に入ると、いつもと変わらずのクロウと、マリア様とマルス君達が居た。
子ども達は居ない。
「どうしたんです?」
「ルキウスの道をそろそろ考えなければならぬのでな」
「ああ……」
マリア様の言葉に、額を抑える。
「森に来ることは許されぬ」
「でしょうね」
「そもそも音彩が拒否しているのを森が知覚しているから森が拒否をする」
「ダヨネー」
クロウの言葉に思わず遠い目をする。
じゃなきゃ抜け出してこっちに来ることができている。
森に拒否されていることを告げているから、ルキウス君は音彩が森から出るのを待っている。
多分音彩はルキウス君がここに来られないのを確定するまで森からは出ないだろう。
あの子は好奇心旺盛だが、警戒心も強い。
だから外に自分からは出ようとしない。
出たのはあの、ルキウス君の本性を拒否する言葉を言った時くらいか?
「……」
「ルキウスは今も変わらずか?」
「はい、その通りです」
「救いようがないな」
「ええ、だから次期王太子は弟のシャルルの方向で進められています」
「シャルル様……」
シャルル君の事を思う。
精霊と妖精の愛し子なのは凄いが、それでもまだまだ幼子だ。
それなのに、もう国の事を考えている。
遊びたい盛りだろうに。
「シャルルはもうあの年で自分の立場を理解している」
「……」
はい、分かっています、マリア様。
だから辛いんです。
あんな幼い子が自分の立場に縛られている事が。
「ルキウスは理解する気配はない、そのような王子を王太子には選べん」
「マリア様……」
「それに、ルキウスが国王になったら我が国はこの始祖の森と断交せざる得ない」
「ああ……」
「それは国として莫大な損失だ、それだけは避けなければならぬ」
「マリア様……」
私は政治や国の状況に詳しくない。
私はこの森でただ畑仕事をしているだけの吸血鬼。
神々の愛し子だけども、国を回らず引きこもり生活を続けている。
出たいとは思わない。
外の世界を知りたいとは思わない。
それはきっと、勿体ないことなんだろうけど。
でも、私は外の世界が怖い。
吸血鬼というだけで差別する世界が怖い。
そんな世界で子どもたちが傷つくのはもっと嫌。
でも、もしかしたら。
子どもたちはいつか私の願いを超えて外の世界に出て行くのかもしれない。
その時私はどんな顔をして見送るのだろう──
あの後、ルキウス君の内容はあまりまとまらなかった。
何せこの森で決めるような内容ではないからだ。
王国に持ち帰ってかなり神経質になって考えなければならない。
ルキウス君がこの森に干渉しない方法を考えなくてはならない。
その上で、ある程度地位を与えるか、そうじゃないかを決める。
ルキウス君は問題児ではある。
だが、音彩関係の事を除けば優秀だとマリア様は言う。
しかし、必ず音彩の事が関わってくる。
王太子になるなら、最低限一人は正妃となる王太子妃が必要になる。
其処の所を、ルキウス君は他の音彩以外の女性は嫌だと反抗的になっている。
そして女性達、貴族の令嬢を下に見ている。
マリア様がおっしゃるには「そんなのが国王になってみろ、貴族達から反感を買う」とのこと。
言われればそうだろうと思う。
あれからルキウス君とは会っていない。
ルキウス君は来ることはない。
だから音彩は安心して他の王族の子どもたちと交流できるのだ。
ルキウス君が来たら交流なんて夢のまた夢だ。
音彩は多分棺桶に引きこもる。
そしてルキウス君が起きてこない夜中にだけ起きる。
そんな生活になるだろう。
それにカイル君が心配だ。
ルキウス君が危害を加えないと言い切れない。
カイル君がいなければ──そんな考えを持っていそうだからだ。
「お母様!」
「わわっ⁈」
考え込んでいると、音彩が声をかけて来て驚いてしまった。
「どうしたの?」
「うーん、音彩は聞かないほうがいいわ」
「どうして?」
「……ルキウ「分かった聞かないわ」
判断がはやい。
そこまで、ルキウス君の事が嫌いか。
うん、嫌いだよね。
「……私アイツ嫌い」
名指しどころかアイツ呼びか。
でも、仕方ないね……
だってアイツ呼びする程に、ルキウス君に嫌な目に遭わされたし。
「嫌な事は忘れてカイル君のところにでも遊びにいっておいで、ブラッドフルーツで作ったゼリーがあるから一緒に持って行って」
「わぁ、お母様、ありがとう!」
私は頷く。
音彩は籠に冷却の加護をつけた布でカップのゼリーを覆い、楽しそうに持って行った。
「音彩にはルキウス君の話は厳禁ね」
「当然ですよ、母さん」
「そうですよ、母様」
「わわ⁈」
肇と晃が声をかけてきた。
「二人は何してたの?」
「アルトリウス父さんに頼んで狩りに行ってきました」
「はい、父様と共に狩りを」
「何か取れた?」
そう言うと、二人は笑った。
「フォレストボア、しかも太ったのを三匹!」
「それは凄いわ!」
「解体が終わったので、母様を呼んできてくれと」
「分かったわ」
私は解体場に向かう。
すると、台の上に肉の塊がのっていた。
「すごいわ!」
私は驚き声を上げる。
「ああ、梢か。子ども達も中々狩りの腕が上達してきたし、解体速度も上がってきた」
アルトリウスさんの言葉に二人は誇らしそうにする。
「が、内蔵をを取り出す作業の時だけは嫌そうな顔をするのは何とかしないとな、傷ついたら肉が台無しになるのが分かっているからそうなのだろうが」
そうアルトリウスさんがいうと晃と肇はしょんぼりとする。
「でも、ちゃんとできてるんでしょう、凄いわ」
「ああ、そうだな」
そう言ってから私は首をかしげる。
「何を作ろうかしら」
「お母様、フォレストボアでラーメン作れませんか?」
「え⁈ できない事は、ないけど……」
「じゃあ、お願いします!」
子ども達がそう言うので、ラーメンを作ることになった。
フォレストボアのラーメンは味が濃厚で肉も美味かった。
それに味をしめた子ども達が、また作ってと騒ぎだし、また今度ね、と何とか納得して貰ったが、フォレストボア取る度にラーメン作るのはキツいぞ?
とは言えない、あの笑顔を見ちゃうと。
子どもたちの笑顔が、幸せが、私の幸せでもあるのだから──
ルキウスの事でかなり神経質になっています。
何せ王太子にできない第一王子の処遇ですからね、かなり頭を痛めて考えることになるでしょう。
そして音彩は即答するレベルでルキウスの事を嫌っています。
ルキウスの性根が性根なので仕方ないのですが…
そして、そんな中でも子どもたちは成長していってます。
晃と肇は自分たちで動物を解体することができるようになっております。
まだ未熟なところはありますが。
同時に子どもらしいところもあります。
色気より食い気。
ラーメンの虜です、子どもたち。
でも、そういうささやかな幸せが梢にとって嬉しいものでもあるのです。
子どもたちの幸せが梢にとって幸せですから。
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