ニンニクと不安要素
梢はマリアと吸血鬼も平気なニンニクについて話していた。
話していると神様が梢の頭の中に語りかけてきて──
「吸血鬼も平気なニンニクか!」
「私が作るの限定ですが……」
マリア様が目を煌めかせている。
私は少し引きながら、視線をそらして言う。
今は私しか育てられないが、大きくなったら子ども達が育てられるようになるかもしれない。
『そうじゃよー』
オウフ⁈
神様、いきなり脳内に語りかけないでくださいな!
『すまんのー』
反省してなさげだけど、仕方ない神様だもの。
「また料理の幅が広がるでしょうな!」
「ええ、それは」
ニンニク解禁で色んな料理が作れるのだ、ありがたい。
それでも問題は山のようにある。
吸血鬼の方々はやはりニンニクには忌避感を抱いているからか自分から食べようとは絶対しない。
それも仕方ないだろう。
普通のニンニクは体に毒なのだから。
そこはおいおい、クロウと解決して行けばいい。
「何かニンニクを使った簡単な料理はないか?」
クロウが私に問いかける。
「ガレオ包みは?」
「あれは手間がかかる」
「ああ」
となるとアレか。
私は来賓の館のキッチンに立ち、オリーブオイル、ニンニク、唐辛子等の香辛料と、パスタを使って、料理を作り始めた。
そう、ペペロンチーノだ。
「はい、お待ちどうさまです!」
マリア様に出す。
「ああ、これは食欲をそそりますね」
マリア様はにこやかに微笑まれる。
そして口にし、頷く。
「うむ、最低限なのに、この美味さ、良いではないですか」
「お褒めいただき光栄です」
私は頭を下げる。
「お母様ーお父様たちがご飯作ったから戻って来て欲しいってー」
「もうそんな時間? マリア様、失礼します」
「うむ……愛し子様」
「なんです?」
マリア様が私を呼び止めた気がした。
「貴方様は家族を大事にしてくださいな」
「……勿論です」
私は微笑み返した。
マリア様の微笑みはどこか寂しそうなものだった。
きっとルキウス君の事が大きいんだろう。
少し哀れとは思うが、ルキウス君の本性が問題なのだから仕方ない。
このまま国王になったらドミナス王国は破滅まっしぐらだ。
だから、もうルキウス君のことは諦めたのだろう。
ちょっとだけ思う。
もしルキウス君と音彩が出会わなければ。
とか。
でも、出会わなくても、きっと一人の女性に執着して台無しにするだろう。
それが音彩でないだけで──
夕食を終え、私は一人、畑仕事などに精を出す。
「ふぅ」
「お母様」
「どうしたの音彩……あら、晃と肇も?」
「お母様、無理してない?」
「あはは、もう無理はしてないわよ!」
事実なので笑う。
そして頭を撫でると、音彩は不安そうに言った。
「シャルル君が頻繁にこっちに休暇とかで来てるの、クロウおじ様が命を狙われているからだって言ってたの」
「……そう」
「ルキウスが悪いのにどうしてシャルル君がそんな目に遭わないといけないの?」
「そうね……」
私は鍬を置く。
「……傀儡の王様が欲しい輩が一杯いるのよきっと」
「傀儡の王様?」
肇が首をかしげる。
「やることは自分達に任せて判子を押すだけの、都合の良い王様」
「都合良くないです!」
晃が反論する。
「そういう人達がドミナス王国の貴族にいるって話しよ」
「「「……」」」
子ども達は深刻そう。
「もしこの森にそういう人達がきたらどうなりますか?」
晃が問いかけてきた。
「クロウとシルヴィーナがどうにかするでしょうね、私は出させて貰えない」
「……どうして?」
「多分、グロい処刑とかやってそうだから」
「ああ……」
子ども達も納得した様子。
「今はいないけど、もしそうなったらドミナス王国と敵対するの?」
「しないわよ、クロウが文句を言いに行くけど、繋がりは続ける、悪いのはそういう連中なんだから」
「そうよね!」
音彩はやっと明るい表情になった。
「これで私、大きくなったら安心してカイルさんと結婚できるわ!」
「ふふ、楽しみにしてる」
そしてふと思って、尋ねてみる。
「晃、肇、貴方達は──」
二人はお口をチャックするジェスチャーをして──
「「ノーコメントで」」
どうやら言いたくない様子。
「仕方ないわね、でも結婚が決まったら言ってちょうだい」
と言うと、二人は静かにうなづいた。
子どもによるよね、こういうのは。
と一人納得。
「……色々考えたらお腹減っちゃったわ、お母様、ラーメン食べたい」
「私も!」
「私も‼」
三人そろってラーメンを食べたいとコール。
「仕方ないわね」
私は苦笑して小屋に向かう。
そして醤油ラーメンを提供すると、子ども達は満面の笑みでラーメンを啜り、チャーシューを食べ、スープを飲み干した。
ドンブリ、大人サイズだったんだけど、そういや大食いだったわねと思い返す私だった──
ニンニク料理の話から、家族の話に発展しました。
ルキウスはどうであれ、そういう性根だったから、音彩に会わなかったら別の女の子でそう言うことになっていた可能性があります。
それではいけないのがドミナス王国なので、分別がついているシャルルが次の王太子になることが確定し、ルキウスはおそらく王族ではなくなることへの悲しみからマリアは複雑な心境なのでしょう。
直接血のつながった孫ではないにしろ、ルキウスもマリアからすると孫のような存在ですから。
音彩は変わらずルキウスを嫌ってますが。
シャルルに関しては音彩は同情的です、何せ礼儀正しいですから。
小さいながらも、立派なシャルルに音彩は敬意も持っております。
晃と肇も同様です。
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