18年という歳月~死と触れる~
この世界に来て18年が経過して、梢は物思いにふける。
そしてクロウと色々なと話しをする──
「はぁ」
私はため息をついた。
「18年かぁ」
あと二年で、20年になる。
最初に出会った子ども達もそこそこいい年になっている。
それでも、私の中ではあの子たちはあの子たちのままだ。
「一応なんとか、年相応にあつかってるけど、大丈夫かなぁ」
と、愚痴をこぼす。
ぐいっとシードルを飲み干す。
畑仕事と家畜の世話は終わったので、休んでいる最中だ。
「ふへぇ」
「梢どうした」
クロウがやって来た。
「いや、ちょっと考え事。あ、デザートなら右の冷蔵庫の中にフルーツゼリーがの特大サイズあるよ」
「ゼリーは貰うが話は聞くぞ」
だよねー。
ここでゼリー貰わなかったらクロウなんかおかしいもの。
クロウは冷蔵庫から特大サイズのフルーツゼリーをとりだし、スプーンで食べていた。
どこに持ってたそのスプーン。
まぁ、いいや。
「それで、何を気にしてる」
「私がここに来て18年、あと2年で20年。随分長いようで短い時間が過ぎた」
「確かにそうだな」
「でね、ここに来て初めて会った子どもたちとかが未だ子ども、って意識が抜けきらないのよ……」
疲れたように私はテーブルに突っ伏す。
「それは仕方あるまい、吸血鬼やダンピールなら普通の感覚だ。我もな」
「あ、そうなの?」
少し安心する。
「だが、子ども扱いはしてないのだろう?」
「うん、もう大人だし、ね」
大人になったから「さん」づけして呼んだら、呼び捨てか今までみたいでいいですよと全員に言われた。
「──てなことはあったけど」
と、説明する。
「お前はもう一人の親のような存在だ、だから甘えたい感情があるのだろう」
「なるほどー」
ちょっとうれしい。
「実の親などと喧嘩したりしたならお前は受け入れてやってくれ」
「そうするよ」
まぁ、そんな事ないだろうけど。
18年か──……
皆年を取ってるなぁ。
子ども達は12才。
あと、4年で16才。
あと、8年で20才。
……本当に早いなぁ。
「子どもの成長って早いね、クロウ」
「そうだな」
「ルフェン君達はこれから年を取って、やがて老いて、老人になる」
「ああ、それが自然の摂理だ」
「でも私は年を取らずに生き続ける」
「それも神々が決めた事であり、摂理だ」
「う゛ー」
テーブルに再度突っ伏す。
何か納得できるんだけど、いまいち納得したくない気分。
「お前の作ったもののお陰で老人たちが長生きしているが、それでもやがて寿命はくる」
「うー」
「それを直視したくないのだろう」
「……かもしれない」
お祖母ちゃんがあちらの世界で死んだとき、最初はなんとも無かったけど、あとで、悲しい気持ちがぶわっと来た。
ぐっとこらえて泣かなかった。
だって、周りの人は知らないんだもの。
大声をだして、泣きたかったけど、見られたり、泣きはらした目を見られたら大変だから。
「お前は苦労性だな梢」
「へいへい」
私はそーですよーと言わんばかりの態度を取る。
「誰かが死んだとき、お前は涙を堪える必要はない、泣け」
クロウはスプーンを洗って仕舞った。
「馳走になった、ではな」
そう言って帰って行った。
私はふぅとため息をつく。
それができたら苦労しないと。
私はその日も畑に出ていた。
すると慌ててルフェン君がやって来た。
「ルフェン、どうしたの?」
「コズエ様、大変です! ラルグの爺様が!」
「え?」
畑仕事を放り投げて、私はルフェン君の後を追う。
ラルグさんの家に入ると、獣人の村人の皆さんがそろっていた。
ラルグさんは、目を覚まさない。
「……」
どうするのがいいの?
混乱する私の側にクロウがやって来た。
「寿命だな」
「そんな昨日までは元気だったのに⁈」
ルフェン君が驚いた声を上げる。
「昨日まで元気でも、今日も元気とは限らん、それがこれだ」
クロウは調べる仕草をした。
「……脈も心臓も止まっている」
獣人の人達は泣き出した。
私も気がつけば泣いていた。
呆然と涙を流していた。
「たまに息を吹き返すことがある、見張りを」
「……はいっ」
クロウの言葉に皆が動く。
息を吹き返す場合、普通に蘇る場合とアンデッドの場合がある。
だから男衆が確実に死亡を確認できるまで見張るのだ。
それから三日後。
ラルグさんは、目覚めることなく、安らかなままだった。
アンデットとして生き返らせない為に、クロウが死体を燃やし、埋める。
其処に墓石をおいた。
「あんた、あんたはもう逝っちゃったけど、わたしはまだまだ長生きするからね」
ルズさんが墓石を撫でていう。
「だって産婆は少ないからね。あんたは向こうでゆっくりしてちょうだいな」
ルズさんはのんびりした口調でいった。
寂しくないだろう、悲しくないだろう、でもルズさんは泣かずそう言ったのだ。
たぶん、人前で泣けないのだろう。
私はそっとしておいた。
予想通り、墓地で泣くルズさんをティリオさんが見たらしいが、すぐその場を立ち去ったらしい。
大切な人の死を受け止めきれないと、うまく泣けないよね。
死を受け止めるということを私はこれからたくさんしていくのだろう。
そう思った──
ラルグは実は結構なお年を既に召してました。
なので、もし梢の村に来てなかったら二、三年で亡くなっていました。
ですが梢の作物やお酒のお陰で倍以上の年齢を生きる事ができました。
ルズとは年の差があるので、ルズはまだまだ逝くのは後になるでしょう。
アンデッドと吸血鬼はこの世界では完全に別物です、アンデッドはゾンビとかそういう類いのものです。
穢れがある場所にいると死体がそうなりますが、火や聖魔法などで浄化することでただの死体に戻ります。
始祖の森ではアンデッドは出ないでしょうが運良く息を吹き返すことのほうをクロウは見ていたようです、でもそうはなりませんでしたが。
それと、18年経過で色んな事を梢は経験してきましたが、これからも色々な経験や死を看取る側になるのを梢なりに覚悟しているようです。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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次回も読んでくださるとうれしいです。




