過去を語る、未来を語る、今を語る
豊作で保管庫も足りなくなる始末。
梢は急遽収穫祭をやることを提案する。
シルヴィーナとクロウは同意し、シルヴィーナは嬉々として動き出す。
それを疑問に思う梢にクロウは──
秋になり、実るものがたくさん。
年々収穫量も増加しており、保管庫も作っても作り足りないほど。
「よし、収穫祭しよう!」
「それは良い考えです!」
私の言葉にシルヴィーナが賛同する。
「私は指示する役と、私しかできない奴やるから他のは任せていい?」
「はい、勿論です! 私達にお任せ下さい!」
シルヴィーナはうれしそうに言う。
何でうれしそうに言うのかなぁ?
「お前が自分で何でもやろうとしないからだ」
「あ、そういうこと」
クロウに言われて納得。
以前の私なら何でもかんでも自分でやろうとしただろう。
でも、私がやらなくてもいいことは他人に任せるようになった。
面倒、というか疲れるのを理解したから。
疲れる感覚が麻痺っていたころとは大分違う。
今は疲れるがよく分かる。
「まぁ、いいよ」
自分の悪い点だったのは今ならよく分かる。
しかし、情状酌量の余地はあると思う。
元の世界では無理をするのが当たり前の世界だったんだから。
生き辛かったし。
今は生き辛いこともなく、楽しい。
そして無理をすることも必要なくなった。
というか無理すると怒られる。
家族とかに。
だから無理はもうしていない。
……と、思う、多分ね。
前の世界では嫌な事が沢山あった。
辛いことが沢山あった。
生きているのがしんどかった。
お母さんに言えなくてお祖母ちゃんに愚痴っていた。
だから私はここにいる。
お祖母ちゃんがお願いしてくれたから。
元の世界には未練はほとんど無いけど、お母さんがたまに心配になる。
兄妹で女は私一人だったからね。
待望の女の子だったらしいから。
だから余計死んだ時ダメージがでかかったんだと思う。
たまに今でも、夢を通して合っている。
けど、いつまでも若い私とは違い、お母さんは年老いて言ってる。
いつか、別れの日がくるのだろう、その時は──
神様、どうかお母さんの側にいさせてください、幻でも良いのです。
「豚汁と、コーンポタージュと、ジャガイモのポタージュと、ブラッドワインスープの四つですね」
「材料を切るのとかは任せた!」
「はい!」
やることは大分少ない。
それでいい。
無理はしないんだから。
「大分改善しているな」
「クロウ様」
「はい、クロウ様。コズエは無理をしなくなっています」
「あれほど無理をしたのには理由があるのでしょう……」
「そうだな、だが今改善したなら構わん」
何かクロウとアルトリウスさん達が話してるし。
悪かったな、中々改善しなくて!
心の中でぷんすこと怒っている。
「お母様!」
「母さん!」
「母様!」
「うわっと!」
三つ子に抱きつかれ、思わず体勢を崩しそうになる。
「危ないでしょう?」
軽く叱る。
「「「ごめんなさい……」」」
しょんぼりとしょげる子ども達。
私は頭を撫でて上げる。
「次からは気をつけてね」
「「「はい!」」」
「お母様、手伝うことはありませんか?」
「じゃあ、シルヴィーナに聞いて手伝ってほしいところを手伝ってあげて?」
「「「はい!」」」
三つ子達はとっとこと、シルヴィーナの元へ行った。
「あーあ、つくづく私は人の上に立つには向いてないわ」
とぼやく。
実際そうだし。
書類仕事はクロウ達が。
私は畑仕事や畜産などをやるだけ。
村長とは名ばかり。
「はぁ」
「何をぬかしている」
「うわ⁈」
クロウがいつの間にか近づいていた。
そうやって音もなく近づくのはやめーや!
心臓に悪い!
「村長に向いてない、まぁそうだろうな」
「でしょう? 今からでもいいからクロウが村長なったら?」
「お前が死んだらそうしておく」
「随分気が遠くなる話ね」
私はため息をついた。
「名ばかり村長? 良いではないか」
「いいんかい」
思わずツッコむ。
「お前がいなくてはここはこうならなかった、森の中に村はできなかった」
「まぁ、そうですけど」
「お前は多くを受け入れ、善を成した」
「受け入れたけど、善を成したって何?」
いや、本当。
「梢、お前はお人好しだ」
「かもしれないね」
「その『お人好し』が多くを救った。その善性が多くを救った」
「身近な人の不幸を願わず、幸福を願っただけよ」
「そう、それこそがお前の良き所だ」
「何?」
どういうこと?
「ヒトは身近な者であっても、自分より幸福であれば、不幸を望みうる存在だ」
「……」
「だが、お前はそれがない。自分より幸福であった場合はそれを喜び、不幸であった場合はソレを嘆きどうにかせんと動く」
「……」
「だからこそ、神々は愛し子としてお前を愛し続け、我もお前を守り続ける。」
「……そう」
「お前は今のまま、善性であれ」
「うん」
長く生きても変わらないようにしよう。
今まで通り、大切なヒト達の不幸を嘆き、どうにかするよう動きたがるように。
幸福をより喜べるように。
それがきっと私の良い所なんでしょう、クロウ。
だから、それを変わらないように、私を見続けてね。
お願いよ、皆。
私はそう祈った──
梢のことがメインの話です。
梢が始祖の森で暮らして18年目ですが、かなり時間をかけてクロウ達は梢の悪癖を改善していたのです。
梢が自覚ない分タチが悪いのですが。
そして梢はいつかくる母との別れなども考えています、だからタイトルの順番が過去→未来→今という風になっています。
今は、梢の善性を信じている皆にたいして、自分がそのままであることを見定め続けて欲しいという梢の祈りが込められています。
クロウは梢の善性が歪むことがないと信じています、理由は梢が悩み続けているからです。
常に悩むことを忘れないから梢のことをクロウは信頼しています。
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