祭りとイザベラの思い~振り返って~
祭りをしたいと一二三たちが梢に許可を取りに来た。
梢は許可をだすが、クロウからの言づてで「梢が祭りで何かしようものならすぐに報告しろ」と言われていたことを知り頭を抱える梢だった──
夕方目を覚まし、一回に行くと五郎さんや一二三ちゃん達が居た。
「あれ、どうしたんですか?」
「いえ、そろそろ祭りをやりたくて、梢様に許可を取りに来たんです」
「お祭り! いいですね、是非!」
私は頷いた。
「ところでクロウの反応は?」
「クロウ様は『梢の許可があるなら文句はいわぬ』との事でして」
「クロウェ……」
クロウらしいっちゃらしいけどさぁ。
まぁいいや。
今私はお祭りがやりたくて仕方ないんだ。
「ただクロウ様は同時に『梢が祭りで何かしようものならすぐに報告しろ』とおっしゃられて……」
「クロウェ……!」
あんにゃろ、今も心配してるのか⁈
今の私は無理はしないぞ!
疲れるし、なんのメリットもないの分かってるからな!
エナドリがぶ飲みして無理していた社会人……元の世界にいた頃とは違うんだぞ!
まぁ、こうなるまで相当時間かかったけどさ……
でも今は違う!
違うんだよ、なんで分かってくれないのぉおおおお!
心の中で絶叫し頭を抱えるが分かっている。
その相当時間かかったことが原因だ。
そのかかった時間のせいで私はこんな感じで疑われる羽目になっている。
とほほ……
祭りは村の人達主導で進められた。
クロウとシルヴィーナが監督をしている。
私は残念ながらさっぱりそういうのは分からないので祭りの準備を眺めるだけ。
何せ、祭りの準備なんてしたこと無かったからね、元の世界で。
私は参加する側だったから。
こっち来ても足手まといだからみるだけと提案する位しかできない。
「コズエ様」
「イザベラ様」
祭り用の小屋を建てているのを眺めているとイザベラちゃんが声をかけて来た。
「お祭りをするんですよね?」
「はい」
「カナンも、マリーローザもとても楽しみにしています」
「それは良かった、と言っても私はたまにアドバイスとかするだけで村の人が主導でやり、監督がクロウとシルヴィーナなんですけどね」
「クロウ様とシルヴィーナさんですね」
「はい」
「二人とも、アイスやわたあめが食べたいと今からわくわくしている様子で……」
「ふふ、可愛らしいですね」
「ええ」
もう直ぐ7歳になる双子ちゃん。
まだまだ子ども盛り。
楽しい事はしたいし、美味しいものは食べたいだろう。
王宮では色々と窮屈なところもあるはずだ。
だから、王宮からでたここでは羽を伸ばしてほしい。
「コズエ様」
「何ですか、イザベラ様」
「ここに来る度に思うんです、コズエ様と出会えて良かったと」
いきなりどうしたんだろうと私は戸惑う。
イザベラちゃんは続ける。
「乳母に裏切られて、侍女達と一緒に奴隷として捕まってもうダメだと思いましたあの時は」
ああ、私がこの世界に転移したとき。
18年前の出来事か。
人なら充分過ぎる程長い年月だけど、私にとっては昨日のようだ。
何せ私は吸血鬼だからだ。
「ハイエルフ……レイヴン様達に助けられていましたが、生きた心地がしませんでした」
まぁ、そりゃそうだろうなぁ。
「そして連れてこられたのは人を拒むと言われる始祖の森、そこで暮らしていた吸血鬼に驚きましたが、最初は怖くもありました」
「あー吸血鬼ですからね、私」
その言葉にイザベラちゃんは頷いた。
「血を吸われるのかと思ったら、コズエ様は私達を奴隷から解放してくれて、お風呂にもいれてくれて、そして美味しいものを食べさせてくれて、綺麗な服も着せてくれました」
「子どもが酷い目に遭うのは見ているのは嫌なので」
私がそう言うと、イザベラちゃんははにかんだ。
「迎えが来るとお土産も持たせてくれて私はとてもうれしかったです」
「いやいや」
本当惨いことするもんだと当初は思ったよ。
で、主犯格の別の側妃と子ども達、そして一族は全員死亡。
悪いことはするもんじゃないね。
「ロラン様と結婚後の騒動の時もコズエ様は私達を受け入れてくださいました」
「イザベラ様を放ってはおけなかったんです」
「あの時森で受け入れてくださり感謝しかありません、母国に頼ったら確実にロラン様やカナンとマリーローザが産まれたら引き離されていたでしょう」
なるほど、それもあるな。
「だから、全てが終わるまで、そして解決に尽力してくださりありがとうございます」
「いや、私は受け入れただけで、解決はクロウがやったようなもんですから」
流石に神様は言わない。
それを言うと萎縮されそうだったから。
「でも、いつだってコズエ様は私の恩人ですわ」
「照れますね」
ちょっと照れる。
「「お母様ー⁈」」
「あら、二人が呼んでるわ、じゃあコズエ様。また後で」
「はい、イザベラ様」
カナン君達の所へ行くイザベラ様を見送り、私はクロウ達の元へ向かった。
祭りはいつ開催するかなどを把握する為に──
そしてお祭りがついに始まった。
色んな屋台が出ている。
「お母様、苺飴があります、買いましょう!」
「そうね」
果実飴屋の前で音彩がはしゃぎ、苺飴を人数分購入する。
家族仲良く苺飴を食べる。
といっても、巨大サイズなのでちびちびと囓る。
リンゴ飴はカットされて売られている。
そりゃそうだ、あのサイズのリンゴを割り箸に刺して売るのは面倒だ。
どのみちカットしないとダメだし。
葡萄飴も売られていた。
苺飴を食べ終えると、音彩は綿飴屋を指刺した。
この森では砂糖は高級品ではないのでこういうことができる。
子ども達は綿飴を食べて満足げ。
私はアルトリウスさん達と分け合いながら食べた。
私がちぎって三人に食べさせた。
不思議なことに、綿飴なのにべたつかない。
何故だろう。
周囲を見渡すと、王族のマリア様達やイザベラちゃん達も楽しんでいる。
「コズエ様!」
「一二三ちゃん」
一二三ちゃんがやって来た。
「今年のお祭りも良いものになりました!」
「ええ、そうね」
「来年も良いものにしましょう!」
「ええ」
私は微笑み返すと、一二三ちゃんも満面の笑みを浮かべた。
走って行く一二三ちゃんとお店に夢中になる子ども達を見つめる私。
「コズエ、君に終わりが来るまでともにたのしもう」
「コズエ、私達は貴方と共に」
「コズエ様、貴方の笑顔が私達の守りたいものです」
「うん……ありがとう、アルトリウスさん、アインさん、ティリオさん……」
私は微笑んで三人と笑い合った。
どうか、この幸せが末永く、終わるその時まで続きますように──
終わりのように見えてまだまだ続きますよ⁈
子ども達はまだ独り立ちしてませんし、いろいろとまだまだありますので!
さて、梢の社会人時代が垣間見えたと思いますが、彼女はエナドリ飲んで無理して仕事をしていたのでその癖が中々抜けなかったのです、怖いですね。
イザベラは梢との出会いを振り返り感謝しているようです、梢もイザベラと出会えたことが嬉しいようですし。
アルトリウス、アイン、ティリオは、改めて自分達は梢の側に居続けることを強調しています。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




