17年ぶりの誕生日会
梢がケーキ作りをしていると、音彩から自身の誕生日の事を聞かれる。
うろ覚えなのを話すと音彩はどこかへ行き──
「ねぇ、お母様」
「どうしたの?」
シュトレンをクラフトしながら音彩の言葉に反応する。
「お父様ともお話したけども、お母様の誕生日、お母様忘れちゃっているの?」
「あーうん、ぼんやりとしか覚えてないのよ」
「ぼんやり? いつごろ?」
「雪が降っている時期よ」
と私は答える。
「それだけ?」
「うん、それだけ」
「分かったわ、お母様、ありがとう」
そう言って音彩は家を出て行った。
梢と聞くと、何となく夏とかイメージしがちな気がするが、母は冬に樹木は耐えて春に花を咲かせるという事から梢と名付けられた。
どんなに苦しいことがあってもいつかは花を咲かせられるようにと。
まぁ、向こうの世界じゃ無理だったからこっちの世界で色々やってるんだけどね!
そこはお母さんにはすまぬとだけ言っておこう。
でも、そうじゃないと結婚できなかったし、子どもも産まなかっただろう。
今もたまに夢で会うお母さんは私に会うとうれしそうにしている。
でも、向こう世界では、少し辛そうらしいお祖母ちゃんが言うには。
向こうの世界では私は正真正銘死んじゃっているんだから、こっちの世界で生きているなんてのは妄想扱いされかねない。
だから誰にも言えない、言うことができない。
お祖母ちゃんだけは、知っているからお祖母ちゃんとだけ私の話で盛り上がるらしい。
だから、私がいなくなったらどうしようという話になった。
確かにお祖母ちゃんがいなくなったらお話できる相手がいない。
マジでどうしよう。
音彩に誕生日の話をしてからこの三日間よそよそしい扱いをされた。
村人達が集まっているところにいくと「なんでもありませんから!」と蜘蛛の子散らすように村人達が去って行く。
アルトリウスさん達もクロウの所で何か話している、音彩達も。
これはあれか?
誕生日祝ってくれるのか?
それとも、何かとんでもない事が起きるのか?
どっちだ?
そんな事を思って四日が過ぎた。
四日目の夕方いつもの服を着ようと起き上がると──
「お母様、ちょっと大事な用事が入ったからよそ行きの服を着て!」
と、可愛らしいドレスを着た音彩が言う。
私はうだうだしながら品のあるドレスとコートを羽織ると、村の中央へと案内された。
中央の場所には簡易的な屋根が着いている。
皆が集まっている。
「「「「「「「「「「「コズエ様、お誕生日おめでとうございます‼」」」」」」」」」」」
「え? え?」
中央には巨大なケーキが鎮座していた。
ど、どゆこと?
「我がデミトリアス神に聞いて誕生日を尋ねた、丁度音彩が聞いた一週間後だったから、急ぎで村の者達の手を借りて用意したのだ」
クロウが言う。
指さした先には豪華な料理が並べられていた。
「うわ、凄い」
「お前が作るものには劣るが村の者もよくやってくれた」
「ありがとう、みなさん!」
そう言うと皆照れくさそうに笑って頭を下げた。
「いつもコズエ様にはよくしていただいてますから」
「ええ、そのとおりです」
「私達が争うことなく暮らせているのもコズエ様のお陰です」
うれしくて目頭が熱くなる。
「そう言ってもらえると…うれしいです」
涙を拭いながら言う。
「さぁ、コズエ食べてくれ」
「ええ」
アルトリウスさん達に促されて食べ始める。
「良かったら一緒に食べましょう?」
「いや、ですが……?」
「私一人じゃ食べきれませんから」
本音だ。
我が子やクロウなら食える可能性はある、特にクロウ。
だが私は食えない。
なので、皆で楽しく話しながら料理を食べた。
「ああ、美味しい」
「それ、クロウ様が作った料理なんですよ」
「え?」
アインさんに言われ、私はすっとんきょうな声を出した。
「我が料理するのはおかしいか」
「……だっていつも飯たかってくるじゃん」
「ぐむ」
クロウ反論できない様子。
だよねー。
ケーキにしろ何にしろ、私にたかってくる。
特に甘味類には!
糖尿病にならないのかこのドラゴン?
「我は病気にならぬと言った気がするはずだ」
「心読まないでよ」
プライバシーの侵害だぞ。
「クロウおじ様、これはお母様へのみんなからのプレゼントの一つだから食べ過ぎないでくださいね?」
音彩が近づいて来て言う。
「梢がこの量を食えると思うか?」
「それは……」
音彩が口ごもる。
はいはい、食えませんよ。
だから出されているもの一品一品を口にしているんですよ。
「いいのよ、音彩。食べられないのは事実なんだし、だからみんなで食べましょうといったのよ」
「お母様……」
そうして食事が終わると、村のヒト達からプレゼントがあった。
アクセサリーと時計と花束だった。
加護を妖精と精霊とクロウにつけて貰って、デザインは全員で考えて作ったものだという。
綺麗なアクセサリーだ、かなり考えて作られたネックレスにブレスレットだ。
時計はクロウが作ったらしい、懐中時計。
何かしかけがあるらしく、私が無理してたら何かあるらしい。
余計なものもらった気がする。
花束は子ども達から。
妖精と精霊達に頼んで持ってきて貰ったもので作ったそうだ。
花瓶に入れて飾ろう。
「皆有り難う。うれしいです」
村人達はほっとしていた。
「どうしたんです?」
「いえ、アクセサリーのデザインはともかく加護はクロウ様のものが無ければ、劣化などを気にしてしまいますし……」
「酒じゃぁ儂等はかなわんのじゃ、コズエ様の酒には」
「そうじゃな……」
「冬だから手に入らないお花とかがいいと思ったんです」
「ふふ、うれしいわ」
「梢、その時計は毎日持って歩け、お前が無理しなくなったが、ふとした拍子に無理をしそうでな」
「余計なお世話! でも、持ってるわ」
「それで良いのだ」
クロウは笑った。
「愛し子様」
「マリア様」
「私からもプレゼントだ」
そう言って渡されたのは加工前の深い青い宝石。
「ブルーダイヤモンドと言ってな、中々手に入らぬ品物だ、我らドミナス王国とムーラン王国からの贈り物、好きなように加工して自分で身につけてくれ」
「有り難うございます」
私はマリア様に頭を下げた。
17年ぶりに誕生日を祝われたが私はうれしかった。
来年も祝われるか分からないけど、それでも今この瞬間がうれしかった。
ありがとうみんな。
梢の誕生日を祝う話です。
17年間梢自身も気にしてなかったので子ども達が気になるお年頃でした。
村の人からすると、誕生日というのはおぼろげなものですから季節でお祝いするか、年ごとにお祝いするかだったので、いつかお祝いしたいと思っていたでしょう。
ただ、毎年やるというのはいろいろと事情が混み合っているので梢がやらなくていいと言い出すこともあるかもしれません。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
反応、感想、誤字脱字報告等ありがとうございます。
次回も読んでくださるとうれしいです。




