イザベラと語る
梢はドミナス王国が大変な事態になっていることと、それをどうにかしている国王たちが凄いと思う。
クロウとのその会話を終えると、イザベラたちがやって来て──
「しかし、私が知らん間にドミナス王国も大変な事態になってるなぁ」
「まぁ、そこは現国王と正妃と側妃の腕が物を言っている」
「なるほど」
クロウと会話をする。
「おそらく、ルキウスの件で監視などを決めたのは国王だ、その証拠に今は来ていない」
「そいえば」
そう言えば正妃のマリア様と側妃のクレア様は来ているというのに国王様はいない。
きっとシャルル君とルキウス君の事をマルス様だけでなく、他のことも一任すると国が回らなくなると判断したのだろう。
王族も大変だなぁ。
「コズエ様!」
「コズエさま!」
「コズエさま!」
イザベラちゃんともう直ぐ六歳になる予定……のカナン君とマリーローザちゃんが駆け寄ってきた。
「コズエ様、ロラン様が貿易に関して話をしたいと」
「とうさまが!」
「おとうさまが!」
「あー……私作るの専門、貿易についてはレイヴンさんとかクロウに話を通してくれるとうれしいなぁ」
「分かりましたわ!」
「わかりました!」
「わかりましたわ!」
母親の言葉を真似しながらとてとてと双子ちゃん達はイザベラちゃんの後をついて行く。
ロラン君に報告だろう。
実際、貿易に私は関わってはいない。
関わっているのはレイヴンさんとクロウだ。
面倒くさいあれこれをやるのは私には向かないとクロウは言ったし、私も向かないことだと思っている。
だから今日も畑仕事と畜産、果樹園などに精を出している。
それにしても──
「貿易したいってことは私達の作物が欲しいって事だよね、ムーラン王国にそれだけのお金か、何かがあるのかな?」
と、首をかしげる。
まぁ、いいか難しいことはクロウに任せよう。
十歳になった我が子達は元気よくお手伝いの真っ最中。
遊んでおいでと言っても「お手伝いが終わってから」の一言でスルーされる。
いい子に育っているから反抗期が怖い。
何度も思うが反抗期は怖い。
「じゃあ、私イザベラ様達の所行ってきます」
「私と肇はクロウおじさんの所に行って訓練して貰います」
手伝いが終わるとそう言って向かっていった。
音彩は小さい子が好きらしい、保護的な意味合いで。
保育士のように遊び相手をしてあげている。
晃と肇はストイック、何がそうさせるのか分からないが強さを求めている。
音彩と違って大人びているというか……
しばらくするとクロウがやって来た。
「あれ、クロウ。訓練は?」
「終わった、後は自由にさせている」
「何で肇と晃はストイックで女の子の影がないのかしら?」
「そうか、お前達にはそう見えるか」
意味深な言葉を呟いたクロウ。
「ちょっとどういうこと?」
「おっと忘れろ、本人達から口止めされているのでな」
「……」
「詮索はするなよ?」
「はいはい!」
ちょっと自棄になって言う。
どうやら晃と肇にも気になる子はいるようだ。
だが問題がある。
親の私達に言いたくないということは、何か気にしているのだろう。
まぁ、取りあえず本人達の口から出るまで聞かないでおこう。
クロウが言ってたしね。
それがベストだろう。
「え、貿易することが決まった?」
「はい!」
翌日、うれしそうに言うイザベラちゃんと、きゃいきゃいと音彩と遊んでいるカナン君とマリーローザちゃん達を交互にみつつ言った。
「出せるお金は母国より少なかったのですが、クロウ様が『イザベラ達はコズエが可愛がっているしな』の一声で決まりました」
「まぁ、確かにそうですね……」
イザベラちゃんは出会った時から可愛い女の子で、今は立派な母親になったとしても私から見るとあの頃のままだ。
可愛いくて、頑張り屋なイザベラちゃん。
素敵な王女様、今は王太子妃だけど。
「クロウ様が『年々作物の量が増えて食い切れなくなってる上に保管庫の数も増える一方だから助かった』ともおっしゃっていました」
あはははは!
ごめんね!
私が原因だよ確実に!
でも仕方ないじゃん!
作物収穫楽しいんだから!
畑仕事とか楽しいんだもの!
「コズエ様……もしかして働きすぎでは?」
「それは無いですよ、むしろ以前より働いてないですから」
心配するイザベラちゃんの言葉を私は否定する。
「無理して働いたら棺桶に強制的に入れられますから」
「そういう話聞くと、コズエ様は吸血鬼らしいなって思います、普段は全然そんな風に見えないですから」
「そうですねー」
確かに。
畑仕事なんて吸血鬼はしない。
だから、私は吸血鬼らしくないのだろう。
でも、ベッドで寝るより棺桶の方が休まるし、ブラッドフルーツでできたブラッドワイン飲んだほうが疲れが取れる。
食事は楽しめるけど、やっぱり色々違うんだろうな、私は。
普通でない吸血鬼だけど、吸血鬼であることは変わらないから。
「私初めてあった吸血鬼がコズエ様で良かった」
「やっぱり吸血鬼は怖いものって思ってたから?」
「いえ、夜の都に住み、人と馴染まない存在、だと思って居たからですでも──」
イザベラちゃんは前を見る。
「側妃メリーウェザーの罠で奴隷にされた私達を救ってくれた、食べ物を分けてくれた、住居を提供してくれた、綺麗な服を着せてくれた、温かいお風呂に入れてくれた」
イザベラちゃんはにっこり笑う。
「とても優しい吸血鬼だと思ったのです、それから交流して吸血鬼は私達が思うようなものではないことも知りましただから──」
「これらも、末永く交流させてください、コズエ様」
「──勿論です、イザベラ様」
うれしいの一言だった。
自分がやって来た事が無駄じゃなかったんだと思った。
そして、自分の思いが人に託されてきているのも分かった。
だから、これからもこの縁を大事にしよう。
「かーさま!」
「かーさま!」
カナン君とマリーローザちゃんがイザベラちゃんに抱きつく。
「いとしごしゃまとのおはなし、おわった?」
「おわった?」
「まだまだ話したいけど、貴方達をコズエ様のご息女のネイロ様に任せっきりはダメだものね」
「いえいえ、楽しかったですよ」
「たのしかった!」
「たのしかった!」
「ふふ、そう、それは良かった。じゃあそろそろ屋敷に戻りましょう、ご飯の時間だから」
「はーい!」
「はい!」
てとてとと手を繋いでイザベラちゃん達は以前作った屋敷に向かっていった。
「どうしたの、お母様?」
「いや、今まで頑張った甲斐があったなぁって」
「お母様、無理はしないでくださいね」
「しないわよ、だって今やったら怒られるだけじゃすまないもの」
「確かに」
そう言って音彩と笑い合った。
今年の夏はいつもより楽しくなりそうだ──
梢は無自覚に年々作物の収穫量を増やしています。
無自覚というか、何故か増えていっている感じです、梢的には。
増えることはしてないのですが、そこは梢が神々の愛し子だからそうなってしまいます。
また、イザベラは梢との出会いを幸福と感じて居るようです。
今の幸せが梢たちのおかげということを知っているからだと思っているからです。
吸血鬼への偏見もある意味なくなったのもあります。
梢が吸血鬼で神々の愛し子であることが嬉しいからです。
色んな出会いがありましたが、イザベラと梢の出会いは二人にとって良かったものだったと言うものですね。
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