16年目の春の終わりと、17年目の夏の始まり
春の陽気の中で畑仕事をしている梢。
そんな梢は森に入ろうとする悪意を察知し、クロウに報告する。
クロウも察知しているらしく、シルヴィーナと共に森の入り口に向かう。
色々あってドミナス王国へ向かったクロウが戻って来て話した内容は──
春の陽気の中で畑仕事をしていると、森の入り口で入ろうとしている悪意をもった者達がいることに気付いた。
「クロウー」
木の上で果実をかじっている、クロウに声をかける。
「分かっておる、シルヴィーナと共に行ってくるからお前はここで待っておれ」
「はーい」
クロウとシルヴィーナが森の入り口に向かっていくのが見えた。
しばらくしてその存在がいなくなったのに気付いた。
でも、帰って来たのはシルヴィーナだけだった。
「ねぇ、シルヴィーナ、クロウは?」
「ドミナス王国に不法侵入しようとした者達をドミナス王国に連れて向かいました」
「そっかードミナス王国からきたのかー」
何でドミナス王国から来たのに森に拒絶されたんだろう?
偏見持ちの貴族さん達だったんだろうね、きっと。
とか、そんな事を考えていた。
そして帰って来たクロウは怒り心頭だった。
「なんでそんなに怒っているの?」
「奴らの目的は音彩だったからだ」
「え゛」
予想外の言葉に硬直する。
「ルキウスを傀儡にする為にルキウスが執着している音彩を攫い、飼い殺しにしてルキウスに自分達に都合のよい政治をさせようと目論んでいた」
「……」
ふざけんじゃねーぞ!
「梢、お前は手出しするな、親としてのお前は自制が効かぬ」
「でも」
確かに自制ができない、大切な子どものことだから、親として。
「それを企んだ者は処刑した、また出るようなら処刑すればよい」
「……」
音彩に森の外に行っちゃダメって言わないとなぁ、今まで出た事無いけど。
「──と、言う事で音彩は森の外に出ようとしちゃダメよ」
「はい、分かりました。お母様」
音彩は素直に聞いてくれた。
ただ、まだ子どもだからだ。
思春期になって複雑になるとどうなるか分からない。
「晃と肇もよ、危ないから」
「はい、母様」
「はい、母様」
うん、素直。
「お母様もめったにでないのだもの」
「そうだね、母様が出ないなら私達も出る必要はないよ」
「うん、そうだね」
理解力というか聞き分けが良くて助かっているから、どうか悪い方向に行かないでほしい。
「それにしてもこのままだとドミナス王国とのやりとり下手すると考え直さなきゃいけない事態になるぞ、私としては嫌なんだが」
私たちはマリア様やクレア様達を嫌っている訳では無いし。
カーリャちゃんとメルディちゃんは音彩になついているし。
「それは、嫌です……」
音彩も同意見のようだ。
「取りあえずクロウに相談してくるね」
私は家を出てクロウの屋敷に向かった。
「クロウー私にできることない?」
「音彩達を外に出ない様にさせてくれ」
「それならもう音彩達に言った」
「後、レイヴン以外の村人達にも伝えておけ、レイヴン達以外は村から出入りしないように伝えろ」
「はーい」
私はクロウの屋敷を出て、村の人みんなに伝えた。
元々ここに移住してから外に出ているのはレイヴンさん達行商もといエルヴン商会関係者だけだから、皆普通に受け入れてくれた。
それから数日後レイヴンさんたち商会のメンバーはドミナス王国に向かった。
心配なので護衛に白亜と琥珀をつけた。
クロウも何かつけたみたい。
無事帰って来る事を祈りながら私は畑仕事や畜産、果樹、などの作物等を収穫していた。
一回クロウが出掛けて帰って来たが、その時は理由を教えてくれなかった。
で、無事にレイヴンさん達が帰ってくると、ルキウス王子を王太子にする派閥とシャルル王子を王太子にする派閥に完全に別れてしまったことが発覚。
ルキウス王子派は、なんとか音彩を手に入れようと必死になっているので、名乗った者達はクロウが天罰を喰らわしたとのこと。
シャルル王子派は、いくら愛し子の子とはいえ、ダンピール、しかも貴族社会をしらない子どもと婚姻関係を結ぶのはデメリットが多すぎる。
婚約者は、アルフォンス国王や正妃マリアの意思を理解し受け継ぐ者を選び、神々の愛し子と、その子等とは良き付き合いをして行きたい。
という、割とまともな意見の派閥だった。
これでヤバかったらどうしようかと思った。
シャルル君は物心ついたら婚約者が決まるまで夏場は王宮に待機。
マルス王子と、エリザさんも。
他の側妃の方々と、娘ちゃん達は婚約者と今後森にくる方針になったらしい。
色々と大変だなぁ。
クロウから神様の呪いを受けた方々、ドンマイ。
ルキウス君が改善の余地がないからこうなんだ。
私も自衛をしなければならぬ。
我が子達を守るためにな。
今回王室は、明確にシャルル君を王太子にする方向に舵取りをし始めた。
ルキウス君がどうしようもないとわかったんだろうね。
音彩への執着心は凄くて、それで妹達を泣かせることも多いそうだ。
今回は冬が終わって帰った時、カーリャちゃんとメルディちゃん達は相当しつこく音彩の情報を引き出そうとされたらしく、マルス王太子がルキウス君を激怒する程だったとか。
もう、うち音彩はカイル君という婚約者がいるんだ、だからもう諦めてくれよマジで。
そして春の終わりが近づいてくると、手紙が来た。
ドミナス王国とムーラン王国から。
内容はマルス王子とエリザさん、国王様以外はこっちに来たいと。
カーリャとメルディの婚約者も同伴すると。
その許可を頂きたいと。
ムーラン王国はイザベラちゃん達家族が行きたいので許可を求めるもの。
否定することはないので私はいいですよーという内容の手紙をクロウに託した。
そして夏が訪れた。
『夏ですよー』
『夏ですー!』
夏になっても、私のやることは変わらない。
が、出迎え位はしないと。
「愛し子様、お心遣いに感謝を」
「マリア様、ようこそいらっしゃいました」
マリア様といつも通りの挨拶をすると、見慣れない男の子二人が。
「は、はじめまして愛し子様。ブリークヒルト王国のレグリスヒルト大公の長男アレス・レグリスヒルトです。カーリャ王女の婚約者です」
「は、初めまして愛し子様、ドミナス王国のミトリア公爵の長男レオ・ミトリアです。メルディ王女の婚約者です」
「ようこそ、いらっしゃいました。ゆっくりしていってくださいね」
「アレス様、ここの果物美味しいのよ」
「レオ様、食べに行きましょう」
二人は挨拶した直後メルディちゃんとカーリャちゃんに引きずられて来賓の館へ向かった。
シルヴィーナが果物を用意してるだろうしな。
「ルキウス様のことは残念です、矯正が不可能と聞きまして」
「愛し子様、貴方は気にしなくて言い。何度も周囲から言われても改善しなかったルキウスが悪いのだから」
「……そうですか」
クレア様、悲しそう。
ルキウス君祖母不幸者だな、まったく。
「シャルルはしばらくは来られないからお土産とお話は沢山もっていってあげたいの」
「それならこの村でできる事をしますのでぜひ」
「ありがとう、愛し子様」
ドミナス王国とはイザベラちゃんが縁で生まれた付き合い。
ムーラン王国も同様。
だから、新しくできた縁を大事にしていきたいなぁと、私は思うのです。
ドミナス王国、ルキウス派とシャルル派で割れています、シャルル派の方が多いですが、ルキウス派は強硬手段を使っているので安心できません。
王室内でも色々とあるでしょう。
ルキウス派は野心を持っているので、音彩を捕まえるのに必死、なのでクロウは音彩に外にでないよう梢に言うようにしたのです。
梢は子ども達全員にいいました、村人にも。
そして色々あって夏、ドミナス王国の王族と、カーリャ、メルディの婚約者達、ムーラン王国の王族が来ました。
クレアはルキウスの事で心を痛めている様子。
梢はそんなクレアが痛々しく見えてます。
梢の言うように祖母不幸者ですね、ルキウスは。
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