料理中、不安に思うこと
梢は料理をしながら、ルキウスの改善を願う。
しかし、頭ではルキウスが改善しないことがよく分かっていた。
そして、音彩のことを思う。
音彩は今はカイルと相思相愛で、このままで居てくれることを祈った──
「ルキウス君、これで少しはマシになるといいけど……」
畑の収穫をしながら、私は少しぼやく。
他人に利用されかける程、音彩にご執心なのだ。
クロウの言葉を聞いて改善するかかなり不安だ。
いくら、神の使いの言葉でも、自分の心を曲げるなんて結構無理難題な気がする。
音彩は私と違って、カイル君一筋だし、カイル君も音彩一筋だし。
それが今後どうなるかは分からないが、今はこの二人を祝福したい。
ただ、気になる事もある。
「晃、肇。貴方達は好きな人とかいい人いないの?」
「「内緒」」
……ものすごく気になる。
晃と肇は黙秘権を行使して話そうとしない。
まぁ、いずれ話してくれるだろう、多分。
気にはなるけどね。
「さて、目下の問題はマリア様達への対応だな。何せ冬に来た事ないんだから」
そう思いながらシチューを作る。
我が家の分と、マリア様達の分。
「コズエ様、何か手伝える事はないですか?」
シルヴィーナがやってきた。
なので。
「マリア様達用にパンを焼いて、これが焼く前のやつ」
そう言ってテーブルの上に板を置き、パンを並べる。
「お任せ下さい!」
シルヴィーナにこりと笑いながら嬉しそうに出て行った。
シチューができあがるころ、シルヴィーナはパンが焼けたと伝えてきた。
私はシチューの入った鍋も入れると来賓の館にシルヴィーナと向かった。
「みなさん、お腹は空いていらっしゃいませんか?」
「おなかすきました!」
「すきました!」
私は寸胴に入ったシチューをとりだした。
「シルヴィーナ、後はお願いできる?」
「勿論です!」
やたらと嬉しそうだな、何でだろう。
シルヴィーナは皆にシチューをよそっている。
マジックボックスからパンも渡している。
毒を入れられる心配がない。
安心できるはずだ。
私は美味しそうにパンを頬張り、シチューを口にするカーリャちゃんと、メルディちゃんを微笑ましそうに眺めてから家に戻った。
「コズエ、お帰り」
「コズエ様、お帰りなさいませ。焼きたてのパンが丁度できましたよ」
アルトリウスさんはシチューを温め直し、ティリオさんはパンを焼いていた。
「ありがとう、アルトリウスさん、ティリオさん。そう言えばアインさんは」
「もう直ぐ子ども達と帰って来るかと」
そんな話をしていると、晃達とアインさんが帰って来た。
「おかえりなさい」
「おかえり」
「おかえりなさいませ」
「「「お母様、お父様、ただいま‼」」」
「ただいま戻りましたよ」
アインさんと子ども達が帰って来た。
「今日はシチューですよ」
「「「シチュー!」」」
「だから、手を洗ってきてね」
「「「はい!」」」
ここまで返事などがそろうのは珍しいのだろうか。
取りあえず、今は素直な子に育っている。
が、反抗期がやはり怖い。
産まれたのは6年目の春。
今は15年目の冬。
春が来たら10歳になる。
そして5年位すれば、思春期真っ盛り。
やばい、怖いぞ。
「コズエ、今から分からない心配をするよりも食事にしましょう」
アインさんに見抜かれるように指摘され、アルトリウスさんとティリオさんもうんうんとうなづいている。
「お母様、シチュー食べましょう!」
「そうです!」
「シチュー美味しそう!」
「そうね、食べましょう」
皆と一緒に椅子に座って「いただきます」と言って食事をとる。
シチューはお肉が柔らかく、野菜もとろとろで、スープも濃厚で美味しかった。
パンは焼きたてから少し冷めているけど、ほかほかしていて美味しかった。
「ふぅ、ごちそうさま」
「「「ごちそうさま!」」」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまです」
「美味しかったです、ごちそうさまです」
さて。
「王室の人達のデザートとしてアップルパイを作るんだけど、晃達は食べたい?」
「「「食べたい‼」」」
元気よく返事をする三人
「じゃあ、家族の分も作るね」
「お母様大丈夫?」
「無理してない?」
「してないよ」
「うん、嘘ついてない」
子どもにも心配されるが、心配される頻度は減った。
多分、私が無理する数がかなりへったか、しなくなったかの二択だろう。
面倒なことはクロウやシルヴィーナに任せてしまう。
後レイヴンさん達に。
結構他人任せにするようになった気がする。
が、ここぞという時は自分がやる。
王族へ献上するデザートとかは他人に任せると不安感があるからだ。
そんなこんなでアップルパイが完成する。
「よしできた、じゃあ大きいのを持って行くから、先に食べてていいよ」
「いえ、待ちますとも」
「「「はい、待ちます!」」」
ティリオさんの声に同意するように子ども達が言うので、なるべく早く戻ってこようと決めた。
アップルパイをマジックボックスに入れて、来賓の館にいって出すと、カーリャちゃんとメルディちゃんが嬉しそうに笑った。
「いとしごさま、なにのぱい?」
「リンゴのパイですよ」
「リンゴ! わたしリンゴ大好き!」
「わたしも!」
きゃっきゃとはしゃぐ二人を微笑ましくその場にいるヒト達が眺めた。
「じゃあ、シルヴィーナ、これもお願いできる?」
「勿論です!」
シルヴィーナにパイを渡し、私はその場を立ち去った。
そして家に戻ると、切り分けられたパイがテーブルの中央にあった。
「お帰りなさいませ、切り分けておきましたよ」
「先に食べててもよかったのに」
「いや、皆で食べよう」
「「「はい!」」」
そう言って、私が椅子に座ると取り分けられ、パイが置かれる。
パイを食べると甘酸っぱい味が広がりパイのサクサク感と相性抜群で美味しかった。
流石はクラフト能力。
パイを食べて、おしゃべりをしているとクロウが家にやって来た。
かなり疲れている様子。
「クロウ、大丈夫?」
「あそこまで頑固者だとは思わんかった」
「ルキウス君」
「ああ、心底嫌われているのにまだ好かれる余地があると信じている」
「そういうところが私嫌いなのに!」
音彩がブーイングする。
私はその間にアップルパイを作り、クロウに提供する。
「甘味がなければやってられんわ!」
「ははは、そんなに……」
クロウが其処まで言うならば、音彩には会わせられない。
確かに、マルス王太子──マルス様は英断だったのだろう。
私達の為に、我が子をある意味切り捨てる事も覚悟しているのだから。
私にはそんな覚悟ないよ──
料理を提供しながら王室の方々と色々とお話をする梢。
また、料理中に晃と肇の恋模様を聞くが、二人は黙秘権を使う。
なので分からないままですが、多分上手くやっているか何か考えがあるのでしょう。
王族の方々に料理を振る舞い、家族にも料理を振る舞う。
でも、梢は無理をしていません、ちゃんと休んでます。
そんな梢の不安はルキウスだけではなく、思春期になった子どもたちの反応が怖い様子、まだ先のことなのですが。
ルキウスのことはどうしようもないとおもわれます、クロウが匙を投げるもとい甘味なしではやってられないとやけ食いするレベルですから。
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