15年目の秋~音彩の婚約~
夏が終わり、マリア達とイザベラ達が帰国し、秋になる。
秋になり、梢はドミナス王国の事が気になり、クロウに相談すると──
今年も色々と騒動のある夏が終わりを告げる頃──
「もう帰らねばならんのか……」
|イザベラちゃんのお父様《アルフォンス様》がそうぼやく。
「次の夏までイザベラ達に会えないのか、辛すぎる!」
「むしろこうして頻繁に会う方が異常だろう、イザベラはムーラン王国に嫁いだのだぞ」
マリア様がたしなめて、アルフォンス様を馬車に引きずりこんだ。
「イザベラ、健康でいるのよ。カナン、マリーローザ、貴方達もよ」
「はい、お母様」
「はい、おばあさま」
「はい、おばあさま」
そう言って別々の馬車に乗り込んでいく。
「ルキウスが来られるようになればよいのだが」
「無理だろう、あの調子では、愛し子様のご息女を困らせてしまう」
馬車の出発前、アルフォンス様とマリア様がそんな、会話をしているのを聞いてしまった。
もしかして、ルキウス君、まだうちの娘にご執着していると言うこと?
ルキウス君……君たしかもう十歳なんだから王族として色々やらなきゃいけない年だぞ?
そう言えば、イザベラちゃんと出会ったのも、イザベラちゃんが十歳の時か。
苦難の中でもイザベラちゃんは年相応に見えて王族としての誇りがあったように見える。
奴隷として捕まえられて、乳母に裏切られたのに。
「コズエ様、また来年!」
「ええ、イザベラ様、また来年!」
そう言って私達は王族の方々の馬車を見送った。
そして数日が過ぎ、秋になった。
『秋ですよー』
『秋ですよー‼』
「うーん、ドミナス王国の内情が知りたい、特にルキウス君の事が」
私はクロウに相談した。
「む、珍しいなどうした?」
「ここ数年マルス王太子と妃の方々とお子さん達来てないでしょう? ルキウス君とかになにかあるのかなぁ、ってちゃんと知りたいの」
「それなら風の精霊と妖精に聞けばいい」
「そうなんだ……」
クロウは口笛を吹いた。
しばらくすると妖精と精霊達が入って来た。
見た感じ、ドミナス王国の馬車に着いてた子達だ。
『およびになりましたか!』
「ああ、ドミナス王国の内情を教えろ」
『かしこまりました!』
妖精と精霊達はペラペラと話し出した──
ちょっと頭が痛くなってきた。
まとめると──
ルキウス君は音彩を次期正妃として相応しい女性として見てる。
なので、他のご令嬢をあまりよく扱っていない。
それが王族内で問題になっている。
そんな中幸いなのか、正妃になるエリザ王太子妃が幸い男の子を再度出産した、この春。
名前はシャルル。
場合によってはシャルルを王太子にする方向も考えている。
カーリャちゃんはブリークヒルト王国の大公の子息と婚約、メルディちゃんはドミナス王国の公爵家の子息と婚約が決まった。
二人とも関係は良好。
問題になっているのはルキウス君の事のみ。
──と、言うことらしい。
これはいよいよルキウス君に現実を突きつけなければいけないのではないか?
この夏も、音彩とカイル君は仲良くしていた。
というか二人は特別に仲が良かった。
九歳になった音彩と十歳のカイル君。
村の一部ではお似合いと言われている。
さて、この事実を突きつけると……確実に荒れるな。
どうしよう。
「お母様!」
「あら、どうしたの音彩」
にこにこの笑顔で私に抱きつく音彩。
次の瞬間トンデモ発言をすると私は知らなかった。
「私、カイルさんと婚約する‼」
「ぶっふぉ⁈」
飲んでた水を拭きだした。
水で良かったと今は思う。
「お母様、いきなり吹き出すなんて失礼だわ」
「ち、違うのよ。ちょっと、いえ、かなり驚いたのよ。ティリオさんには報告したの?」
「これからする予定!」
「ちょっとまて音彩」
クロウが音彩の首根っこを掴んだ。
「話しが突飛しすぎて梢が混乱しているぞ、ちゃんと婚約した手順やら何やらを話せ」
「うん! 分かったわ、クロウおじ様!」
クロウに感謝。
何で婚約に至ったのか私が知りたい。
「私ね、カイルさんと結婚したいって思ったの」
「ほほぉ」
「それをカイルさんのお母様にお話したら『なら婚約して結婚の約束したらどうでしょう』って言われてね」
レベッカさーん!
貴方何言ってんのー⁈
と頭を抱える。
「ほほぉ、それで?」
「カイルさん、顔を真っ赤にして慌てふためいてたけど『私は、音彩さん、貴方と将来結婚したいです』って言ってくれたの!」
カイル君やるなぁ。
「でカイルさんのお母様が『ではコズエ様達にご報告をお願いします』って」
「……私は構わないけど……」
寧ろ応援していたから、嬉しい。
だが、問題はティリオさんだ。
大丈夫かなぁ……
家に帰って音彩と一緒に婚約の話をティリオさんにした、すると──
「え、ヴァンダーデ家の長男のカイル君と婚約? コズエ様と、音彩が納得しているなら私は構いませんよ」
予想外の反応にぽかんとする、だって反対すると思ってたから。
「どうしたんです、コズエ様」
「いや、てっきり反対すると……」
「音彩とカイル君の事なら良く知ってますので、将来結婚してくれれば嬉しいなと思ったので婚約はありがたいですよ」
「そ、そう?」
「王族と婚約するなら大反対ですが」
「ああ……」
ルキウス君の事言ってるな、これ。
「邪魔するぞ」
「クロウどうしたの?」
「音彩とカイルの婚約は成立、で良いのだな?」
「ええ」
「うん」
クロウは頷いた。
「ヴァンダーデ家にも聞いてきたが、あちらは大喜びだったぞ」
「ははは……」
「ということで、ドミナス王国と、ムーラン王国に知らせの手紙を書く」
「ん?」
「イザベラとマリアには知らせねばなるまい。何せ神々の愛し子のご息女の婚約だからな」
「クロウ」
「言うな、荒れるのは分かっているが、これ位せんとな」
「ええ……」
そう言ってクロウは出て行った。
「しかし、音彩とカイル君の婚約かー、まだ若いのに」
「そうですねぇ……」
「私、貴族じゃないから知らないけど貴族とかってこれ位若い年齢で婚約するの?」
「だいたいそうかと」
「なるほど……」
ティリオはキャッキャと喜ぶ音彩を抱っこする。
「さて、晃と肇、アルトリウスにアイン様にもご報告しなければ。家族ですものね」
「うんそうだね」
その後、帰って来た四人に色々と説明した。
納得している晃と肇。
驚いてるアルトリウスさんにアインさん。
と反応が違った。
アルトリウスさんとアインさんはティリオさんに「本当に大丈夫か」どうか聞いてティリオさんが問題点を潰していき、それでようやく納得してくれた。
その後、村中の人達がお祝いの言葉をかけに我が家にやっていた。
言葉だけなのは、自分達が作ったものは私の作った物に劣るからだそうで。
かわりに、次の宴会盛り上げますと言ってくれた。
それは嬉しいけど、ドミナス王国大丈夫かな?
荒れそうで怖い。
一歩大人になった音彩であった。
いつの間にか好きな相手との婚約にこぎ着け、母親である梢を驚かせる行動力は確実に梢のものではないと思われます、実際そうですし。
ですが、梢と夫達が育てた結果この行動力が産まれました。
さて、村は音彩とカイルの婚約で賑わっていますが、クロウが報告しに行ったドミナス王国とムーラン王国はどうなるでしょうか。
梢が言う通り、ドミナス王国は荒れそうですが…
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