ガネーシア王国からの一騒動
ファルスの兄アンドリューが新たに村の一員となり、子ども達の面倒をみるようになっていた。
ただ、ファルスは兄が来た事に驚いていた。
それから少しして、ガネーシア王国関連の馬車が森に入ろうとして入れずにいるのを梢たちが感知し──
「兄上⁈ 何故ここに⁈」
「……教皇様から聖女様を連れ戻せぬなら帰って来るなと言われたのだ……そしたらエンシェントドラゴン様に、だったら帰らなくていいと言われてしまい……」
「ああ……」
ファルスさん同情的な視線。
そんなファルスさんにべったりとくっ付いているフィリアちゃん。
「……」
「その女性が聖女か?」
「ええ、そうです」
「ファルスさま、このひとわたしとファルスさまひきはなそうとかんがえてる?」
「考えてないと思うよー、もし考えてたら森に入れないし、そもそもクロウが許さないよ、たぶん黒焦げになるか呪われるかの二択で済めばいい方」
私はフィリアちゃんの頭を撫でながら言うと、フィリアちゃんは安心した。
代わりにアンドリューさんは顔面蒼白になっていた。
うちのクロウ、村人達には甘いから危害加えたり無理矢理連れ出そうとすると雷落ちるかもね、物理で。
死んだ方がマシな目に遭うかもしれないしね。
まぁ、私達の目の前でやらないから大丈夫でしょう。
アンドリューさんは、ミカヤさんと共に子ども達の教育係になった。
算数や、文字を教えている、ミカヤさんと同じく。
宗派は少し違うけど、両方ともデミトリアス神を信仰してるんだってさ。
妖精と精霊は神の加護を受けているからその愛し子は聖女や聖人になるってのがアンドリューさんのところ。
ミカヤさん所は神が直接加護を下す聖女と聖人、精霊と妖精の愛し子は別物、なんだってさ。
だけど、共通するのは「神々の愛し子」は神々から文字通り直接寵愛を受け、加護を授かっている存在だから比べものにならないらしい。
私からするとへーそうなんだ。
程度だけどね。
まぁ、そうこうしていると、一週間後、森に馬車がやって来た。
ただし入れない。
「クロウー、何か森に入れない馬車結構来てるけどなぁに?」
「ガネーシア王国の王族と教会の馬車だな。ちょっとアンドリューに聞いてみるか」
「そだねー」
そうしてアンドリューさんの所へ行く。
「ええ、手紙を出しました。『聖女様はもう国には戻られない、エンシェントドラゴン様の庇護もある、なので私は聖女様のおそばで骨を埋めるつもりです』と」
「あ、そうなの?」
「書いたのはそれだけか?」
「はい、それだけです」
「分かった、梢。一応シルヴィーナと一緒に来い、用がなくなったら速攻で村に戻っていいから」
「了解」
クロウは先に森の入り口に向かい、私はシルヴィーナと合流して向かった。
「聖女を引き渡せと申しているであろう!」
「断る」
あ、このしゃべり方。
まだクロウ自分がエンシェントドラゴンだってバラしてないな。
そう思いながら到着してクロウに声をかける。
「クロウ、どう?」
「石頭共ばかりで嫌気がさす」
「クロウ様、ならば風穴、開けましょうか?」
「それは最終手段の手前だ」
手前なんだ、最終手段なんだろう?
「エルフはともかく吸血鬼が出てくるとは忌々しい!」
あ、やっぱりこう言う国か。
「見る目が無いな貴様ら」
『そうだぞー』
『見る目無いー』
『なら見えなくしてやろうかー』
「やめなさい」
私はため息をついて静止する言葉を言う。
けれどもクロウの言葉に同意するように、精霊と妖精が私の周囲を舞う。
「な⁈」
「紹介がまだだったな、この娘は梢。吸血鬼だが──神々の愛し子だ」
「そんな馬鹿な⁈」
「吸血鬼が神々の愛し子などありえぬ!」
うるせーなー。
文句あっかー。
「クロウ様、クロウ様も名乗り上げられたらどうですか⁇」
シルヴィーナが提案する。
「そうだな、我は──」
バキバキと体を変形させ、巨大なドラゴンになる。
『神々の使い、エンシェントドラゴンなり』
「「え、エンシェントドラゴン⁈」」
「で、ではそこの娘が神々の愛し子⁈」
『そう言っているであろう、この間抜け共が』
クロウ、地味に毒を吐いてる。
でも、多分私がここにいるからこの程度で済んでいるんだろうなぁ。
「な、ならば聖女より神々の愛し子の方が価値がある、連れて──ぎゃあ!」
私に手を伸ばし近づいて来た男のその手をシルヴィーナの矢が射貫く。
「その薄汚い手でコズエ様に触ってみなさい、次は頭を射貫きますよ?」
そういい弓矢を構える。
『梢、我らに任せてお前は村へ戻れ』
「うん、分かった──」
私はそう言って、村に戻った。
「コズエ様、何かありましたか?」
「ファルスさん」
ファルスさんが聞いてきたので私は答えた、詳しくは言わずに。
「何か不法侵入者が来たからクロウとシルヴィーナで追い出してるから気にしないで」
「いるんですね……この森に害をなそうとするものが」
「ま、しゃーないよ。今年の冬場もあったし」
「そうですね……」
そんな談話をしてから私は畑に戻った。
そして畑仕事と畜産を行う。
「クロウ、どうしてるかなぁ」
「呼んだか?」
畜産も畑も両方終わったところでクロウが声をかけて来た。
「あまりにもしつこいので呪いをかけてやった、関連する連中にも呪いがかかっただろう」
「へー」
「まぁ、これで来なければいいのだが、来たら国に直々に向かわねばな」
と黒い笑みを浮かべるクロウ。
あ、これは波乱がありそう。
そんな予感がした。
予想通り、一週間が経過したらまた来たらしい。
呪われてるのに。
だからクロウが追い払って、ガネーシア王国に向かったそうだ。
帰って来たら上機嫌だったので何かした?
とか、尋ねたら──
「屑共を処分できた」
と楽しげに言うからそれ以上ツッコめなかった。
処分の内容も怖いし。
「こずえさま!」
「フィリアちゃん!」
「あのね、あのね、ファルスさまからぷろぽーずされたの!」
「本当?」
「うん」
キャッキャとはしゃぐフィリアちゃん、そして私はファルスさんに確認。
「プロポーズ⁈」
「やっぱりか……なんて言ったの?」
「フィリア、私はずっと貴方の側にいますと……」
「それプロポーズですよ確実に……」
「まぁ、諦めて責任とって結婚するんだな」
「はい……」
エンシェントドラゴンのクロウに背中を叩かれ、ファルスさんは萎縮していった。
そんなファルスさんを置いてけぼりにして村人達は結婚式はいつにすると盛り上がっていた、イザベラちゃんも混じって。
アンドリューさんも寝耳に水だったら、らしくついでにファルスさんに、聞けばフィリアちゃんが──
「ファルスさま、いなくならないよね?」
という言葉にいなくならないという意味で返したものだったらしい、返し方が不味かったね、ファルスさん。
でもファルスさんも覚悟を決めたので一安心。
アンドリューさんは「聖女様が義妹か……」と何か感慨深そうだった。
今年も色々あるなぁ!
ガネーシア王国、クロウが直々に色々やらかしました。
内容は知らない方がいいってこともありますよ、とだけ。
梢も知らないので。
森にやってきた連中はかなり武力をもっていましたが、クロウとシルヴィーナの前では赤子同然です。
何より梢を連れていこうと考えた時点で二人の地雷を踏みましたから。
そしてフィリアにプロポーズ(したってことになっちゃった)ファルスですが、覚悟を決めました。
フィリアと添い遂げる覚悟を、アンドリューは聖女が義妹かぁと何となく感慨深くなってますね。
まだ夏の始まりですが、色々ありそうですね、多分。
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