聖女の問題と15年目の夏
夏を目の前にして梢は三通の手紙に目を通していた。
二通はいつも通り、ドミナス王国とムーラン王国。
最期の一通はガネーシア王国からで、フィリアを返してほしいという内容だった。
が、当の本人であるフィリアは帰国を断固拒否していて──
「さて、この時期が来たか」
私は三通の手紙を見つめる。
一つはドミナス王国、一つはムーラン王国、最期の一つはガネーシア王国。
ドミナス王国とムーラン王国はいつもと同じものだ。
だが、ガネーシア王国は違う。
ファルスさんのお兄さんのアンドリューという方から、ファルスさんとフィリアちゃんを国に戻すように言われた。
何だかんだでこの二人実はまだ帰ってない。
聖女の儀式らしい何かはクロウが済ませたらしいが、国内に悪意が蔓延しているのでアンドリューさん達が処分などをしたらしい。
どんな処分かは聞きたくない。
それにさぁ、フィリアちゃんの様子が……
「いや、帰りたくない!」
「フィリア……」
ファルスさんも悩んでいる。
何せ、自分を虐待した叔父夫婦がまだいると思って居るのだ。
処分されたと聞くがどんな処分かはいえないし、そもそも知らぬ……
「フィリア、何を駄々こねている」
クロウがやって来てフィリアちゃんを見る。
「クロウ様、私帰りたくない、こわいひといっぱいいるばしょに帰りたくない!」
「怖い人が居なくなったとしてもか」
「……ほんとう?」
「本当だ」
「でもかえりたくない! おともだちたちとはなれたくないの!」
「それは仕方ないなぁ」
クロウは困ったように笑った。
フィリアちゃんの友達はここに来て沢山できた。
その子等と離れて暮らすのが嫌なのだろう。
新しくお友達ができる保証は……聖女だからできなさそうだなぁ。
理解者のファルスさんがいればいいはずなんだけど……
「だってもどったらファルスさま、いなくなっちゃう!」
「フィリア」
「フィリア、その件は我が解決したといっただろう」
クロウが呆れたようにたしなめるが、フィリアちゃんはいやいやと首を振って話を聞かない、どうすんだこれ?
そう思って居たらクロウはしばらく考えてしゃべり出した。
「よし、決めた」
「何を?」
「諦めて貰おう、聖女を殺そうとした連中を恨めと」
「いいんか、それで」
思わずツッコむ私。
「仕方あるまい、我はコレでも良い聖女なら聖女の味方だ」
「悪かったら?」
「聖女の力奪って相応しい者に渡す、知ってるだろう」
「デスヨネー」
私は遠い目をする。
そう言えばリアさんの時そうだったな。
聖女が悪事働いて、力奪われてリアさんに力を譲渡されたし。
クロウが三通の手紙を受け取って返事を書くと言った。
何か波乱の匂いがするぞ。
そんなこんなしていると──
『夏ですよー!』
『夏ですよー‼』
夏がやって来た。
「こずえさま、たくさんとれました!」
「「「お母様、沢山取れました!」」」
そう言ってフィリアちゃんと晃達が収穫した作物を見せる。
「うん、ありがとう!」
私は作物を貯蔵庫に運ぶようお願いする。
四人は作物を運んでいった。
「コズエ様、ドミナス王国とムーラン王国から──」
「はいはいー」
私は着替えて出迎えに行く。
「コズエ様!」
「イザベラ様」
「「こずえさま!」」
「カナン様、マリーローザ様、皆様ようこそ!」
私は三人を抱きしめる。
「コズエ様」
「ロラン様、調子はどうですか」
私は抱きしめるのを止め、ロラン君に挨拶をする。
「貴方達のお陰ですこぶる調子が良いのですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、クロウ様のお陰です」
マジでクロウ頑張ってたもんな。
あと、神様がダメ押ししてくれたお陰もある、お供えはしなくては。
「愛し子様、前回と同じで……」
「国王陛下がいらっしゃってるんですね」
「アルフォンスがすまん」
マリア様が苦い表情をしている。
国王様は既に目を輝かせて周囲を見渡している。
「つまり国王様が来てマルス様達が来ないということは、ルキウス様は未だ私の子に執着してると」
「その通りだ」
「うへぇ」
そんな会話をしていると、木の陰から音彩がこっちを見ていた。
「音彩、ルキウス様はいないわよ!」
そう言うと、ぱぁっと笑顔になり、カナン君とマリーローザちゃんをハグしていた。
「マリアお義母様、ルキウスはまだ他のご令嬢と仲良くならないの」
「そうだ、あの頑固さ、誰に似たんだ?」
「まぁ、いつかはルキウスも分かるだろうとも、それより此度も村を見て回ろう!」
「あのー、もう見て回るものないと思うんですが……」
国王陛下は苦手だが、一応言って見る。
「何をおっしゃる、年を重ねる毎に発展する村を見て楽しいものはないですとも!」
「あーシルヴィーナ、そこの王族の相手たのんだぞ」
「はい、クロウ様」
アルフォンス様達はシルヴィーナに案内されてついて行った。
イザベラちゃん達は音彩に案内されてついて行った。
「はぁ」
と、ため息をつく。
すると、馬車がやって来た。
見慣れない紋章だが、一度見たことがある。
ガネーシア王国の馬車だ。
下りてきたのは壮年の男性。
「エンシェントドラゴン様、どういうことですかな?」
「確かに排除すれば聖女は戻るかもしれんと我はいった、あくまでかもしれないだ」
「私達には聖女様が必要なのです!」
「だが、聖女として仕事をさせるなら、後々にフィリアとファルスを引き離すつもりであろう、他の神官共は」
「それは……」
「そのような、連中がいるところに聖女を戻せぬわ」
クロウは見据えながら言った。
フィリアちゃんとファルスさんは相思相愛。
最初10歳位だったフィリアちゃんは今はもう実年齢、21歳位年相応に育った。
ファルスさんの事が大好きで仕方ないのは変わらず。
『こずえさま、あのね。わたしふぁるすさまとけっこんしたいの、ずっといっしょにいたいの』
虐待の所為でまだ幼い口調が残ってしまっているが、それ位ファルスさんがフィリアちゃんの支えになって大好きな存在なのだ。
それを引き裂くなら私は許しはしない。
「……何か困りごとでもあるのか?」
「教皇様に聖女であるフィリアを連れてくるまで戻ってくるなと言われたのだ」
「なら丁度いい、戻らねば良い」
「は?」
まーそりゃそうなるわな。
普通は。
「そんな愚か者に付き合う程お前は器量は良くないであろう、教会の横に住居があるからそこでくらすといい」
「……お心遣い感謝いたします」
「あのーところで今更ですが、名前は?」
「貴方は?」
「神々の愛し子兼村長だ」
クロウがぶっきらぼうに言うと、その人は慌てた。
「神々……! し、失礼致しました! 私はアンドリュー・アンネリーゼ。ファルスの実兄です」
「あ、お兄様ですか、ファルスさんには色々よくしていただいてます」
「い、いえ!」
アンドリューさんは酷く驚いている。
聞いて無かったのかなー?
とか思いながらクロウによって、教会に連れて行かれるアンドリューさんを見送る私だった。
夏のお話になりました。
フィリアはファルスと離ればなれにされるのがやっぱり分かっている感じです、戻ったら確実に離されるし、友達もいなくなるから行きたくないというものです。
村の友達達はフィリアにとってかけがえのない、存在です。
それもありガネーシア王国には帰りたくないというので、クロウはその意見を尊重しました。
フィリアは良い聖女ですからね、庇護対象です。
そしてドミナス王国、ルキウスの事が苦手でしょうがない音彩。
ルキウスがいないのを梢が言ってから出てくるほど、苦手に拍車がかかっています。
国王は息抜きができるから、そこまで深刻に考えてないようですが、正妃であるマリアは結構気にしている様子。
ムーラン王国のイザベラも甥のことなので結構きにしています。
そしてガネーシア王国からは使者としてファルスの兄が来ました、多分兄ならファルスを説得して連れてくることができると思ったのでしょうが、クロウの口車に乗っかって村に定住することに。
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