三つ子達の八つの誕生日
14年目の春、子ども達が八歳の誕生日の日が訪れる。
梢はそのために準備をした。
いつもとは違う料理などを提供することにした、この世界でのごちそうを──
さて、今日はやってきた子ども達待望の日。
十四年目の春、八歳の誕生日。
七つまでは神様の子どもだって言うのは極東ではよくあること。
八歳になったから、もう神様の子ではなくなった。
まぁ例えなんだけどね、七歳までは子ども達は亡くなるのが多いからそう呼ばれることが多いんだって。
やっぱり異世界でもそういうことがあるんだなぁと思ってしまう。
善狐の方達も同じらしいことに、少しだけほっとした。
子どもは何かあると、ころっと死んでしまう。
だから親として気を張っている必要があるのだ。
ご馳走の準備をしながら思う。
ブラックサーペントの皮と骨を煮込みながら野菜を入れてスープを作る。
事情を話したらクロウが料理の仕方まで教えてくれてブラックサーペントを解体したものをくれた。
ソレを使ってスープ料理を作っているのだ。
他にも色々肉を使って料理をする。
ちょっと今回はジャンクな要素も入れた。
ハンバーガーを作ったのだ。
ブラックサーペントの肝臓で。
某チキンのバーガーをモチーフに作らせて貰った。
私の苦手なトマトも入ってない、レタスとソースとパンだけ。
それに子ども達の好物なジャガイモを揚げた──俗に言うフライドポテトだ。
それに合わせて色々作った。
最期には子ども達が好物の苺とシロップ漬けの果物たっぷりのホールケーキを用意している。
「お母様、ただいま!」
「ただいま帰りました!」
「お母様、ただいま!」
三つ子達がそろって帰って来た。
「わー! もしかしてこれ、全部ブラックサーペント?」
「クロウに分けて貰ったのよ」
「あ! ハンバーガーもある! これもブラックサーペント?」
「そうよ」
「珍しいね、お母様が家畜以外の物を料理に使うなんて」
「この世界での高級品の方がいいかなって」
「気にしなくてもいいのよお母様」
「そう?」
「私達はお母様がお祝いにご馳走を作ってくれることが何より嬉しいんです」
「うん‼」
「ええ‼」
ヤバい嬉しすぎて泣きそう。
でも我慢!
「コズエ、ただいま」
「お父様お帰りなさい」
「コズエ、帰りましたよ」
「お父様お帰りなさい」
「コズエ様、ただいま戻りました」
「お父様お帰りなさいませ!」
それぞれの子ども達が自分の父親に近づく。
「お母様がご馳走を」
「私達の誕生日だからって!」
「だから早く食べましょう!」
「おお、豪勢……ちょっと待てこれブラックサーペントか?」
「うん」
アルトリウスさんの言葉に、返事をすると硬直する三人。
「クロウが余る程あるからって分けてくれたのよ」
「ああ、クロウ様か……」
「クロウ様なら……ええ」
「そうですね……」
まぁ、クロウは古くから生きているからブラックサーペントの狩り場くらい知ってるだろうしね。
聞いたんだけど、ブラックサーペントはガチで凶暴だから狩るなら一匹に上級ランクの冒険者とか狩人が三十人がかりで狩りに行かないと死者が出るらしい。
まぁ、クロウだからブラックサーペントが殺気とかでガクブル言って狩られるオチなんだろうね。
「まぁまぁ、とにかく食べましょう!」
「ああ…」
「そうですね」
「はい、畏まりました」
皆席に着いて、手を合わせる。
「「「「「「「「いただきます!」」」」」」
そう言って食べ始める。
「ブラックサーペントの肝臓をこうして食べるのは美味いな」
「スープも美味いですね」
「コズエ様の下処理が良かったのでしょう、ブラックサーペントでも下処理が悪いと臭みが残ると言いますから」
アルトリウスさん達三人が褒めるが私は視線をずらす。
はい、実はクラフト能力の料理で下処理とかしました。
いいじゃない、美味しいものをより美味しく食べたかったのだから。
「コズエ、無理してないか」
「してないよー」
本当本当。
「……嘘はついてないようですね」
「心外だなぁ」
「コズエ様には前科が無数にありますから」
うぐ。
ティリオの言葉に反論できない。
実際そうだ、私は無自覚に無理をしている。
自分でも気付かないうちに。
「今は無理してないから、食べよう?」
「そうだな」
晃の一言に、三人は食べ始める。
料理のおかわりとかを出したりして、色々食べたあと、最期のご馳走のケーキを出すと、子ども達は満面の笑みを浮かべる。
子ども達の分を大きく切り、私達大人の分は小さく。
「たべていい?」
「ええ、いいわよ」
そう言うと、晃達は食べ始める。
美味しそうな顔をしている。
作った甲斐があるもんだ。
大人びているとはいえまだまだ八歳。
子どもらしい、と安心する。
そして私は願ってしまう。
どうかどうか、この子ども達の道が私の血の所為で暗闇にならぬように。
波乱に満ちたものにならぬように。
どうあがいても、忌避される吸血鬼の血は私の物が大半だ。
晃だけ例外的にアルトリウスさんのものもあるが。
でも、私の血は濃い。
愛し子の子ども、という事と吸血鬼の子というのはある意味両立しない。
一部を除いて。
だから、私は祈るのだ、子ども達が幸せであるようにと。
「「「ごちそうさま!」」」
「美味しかった?」
「はい、とっても!」
「お祝い事でしか食べられないのが残念なくらい!」
「お母様、今度作り方教えてくださる?」
「音彩が大きくなったらね」
私はそう言って後片付けをしようとしたが、アルトリウスさん達に阻まれる。
「後片付けくらい、私達がやろう」
「だから君は休んでいてくれ」
「うん」
アルトリウスさん達は後片付けもきっちりやってくれるので私がやり直す二度手間がない。
元いた世界ではそう言う奥さんが多かったらしいけど、私は旦那さんに恵まれた。
元いた世界に帰りたいとは思わない。
でも、アルトリウスさん達がいるからこの世界の不便さも全て便利に変えて頑張れる。
子ども達の為にも。
「お母様、この準備に頑張ったんでしょう? もう休んで」
晃がそう言い、肇と音彩がうなづく。
「でも……」
「コズエ様、お休みください。子ども達の面倒は私達が見れますから」
「じゃあ……」
私は歯を磨き、お風呂に入って、そして寝間着に着替えて棺桶に入る。
「……お休みなさい」
「「「お休みなさい、お母様」」」
子ども達がそう言って棺桶を締めたので私は目を閉じて眠りに落ちた。
心地良い眠りだった──
八歳の誕生日を家族で祝うお話です。
梢は、無理はしてないのと、無理はしないので、最後は棺桶に入って休んでいます。
料理を作る為に結構早起きしたのです、実は。
だからその分早寝するという訳です。
梢は家族に今恵まれています、元の世界で家族に恵まれなかったわけではないですが、やはり苦痛などを相談できるかと聞かれたら梢は今の家族なら言えるとしか答えられないでしょう。
心配をかけたくないから喋らない、余計心配させたくないから正直に言う、その違いです。
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